52話
ソレは学校前に止まったバスを降りてすぐの場所に立っていた。
両手に薔薇の花束を持って、キザったらしく立ち居振る舞っている。
僕達がバスから降り始めると、その男はこちらに向かって歩いてきた。
バサァ!! と花束を前に差し出しながら男は言った。
「俺と結婚しろ。瑞輝」
天族の翼を靡かせて根元にプロポーズするのは、昨日見事に玉砕した……えっと、乙成金男だ。しかし根元の今の姿は男である。関係ないのか。ホモか。
「……誰でしたっけ?」
しかし現実は非常なり。
公衆の面前で薔薇を持って告白という時代遅れなプロポーズはあっさり砕け散った。
いや本当は覚えてるだろうけど。昨日のことだし。あー、だから性別を変えてきたのか。前はその事で帰ったからな、もしまた来るならっていう予防だったのかもしれない。……意味なかったけど。
しかし乙成金男。驚きで花束を落としはしたが、ここで諦めるような男じゃなかった。ストーカーになりそうだ。
「ふっ、この俺様のことが知りたいって? いいだろう、存分に聞かせてやろう。惚れてしまって一向に構わんぞ」
金髪の髪を手で払ってカッコつける乙成。
「俺は乙成金男、17才っだ!」
キラーン! と乙成の周りに生み出されるエフェクトは本物だ。きっとこれにも金が掛かっているのだろう。
「世界有数の企業にして最高峰と呼び声の高い……そう! 乙成グループの次期後継者とは俺のことさ」
キラーン。
「この俺が今扱っている──」
「みんな早くいこう」
根元は自分語りに夢中の乙成をほっておいて校舎に歩いていってしまった。
乙成を見るが気づいた様子はない。僕らもそっと乙成から離れて校舎に行くのであった。
「あー。これなら性別変えなかったらよかったー!」
校舎に入ったところで根元は背伸びをしながら言う。やっぱりその為だったのか。
「ねのもと、グッ、ジョブ」
根元に親指を立てるみぃ。
んんん? みぃは根元が男の方がいいというのか。まさかそんなっ! そんなわけ……。
「ないよなっ」
「……なにが?」
無意識に口に出てしまった言葉にみぃが首をかしげて聞く。……いや、何でもなければいいんだ。なんでもなければ。
「ねのもと、そのまま、男で……おけ」
「んーでもなぁ。女としての性を歩みたいというか」
「ちょっ、みぃ。なに? 根元に……その、気でもあるんじゃないよな! あと根元、ニュアンスが違うから! みぃに手を出したらもぎ取るからな!」
「ん? 私は、いつでも、かなと、ひと筋だ……ニャ?」
「出さないって! そもそも僕はそのもぎ取る所を無くしたいんだって!」
言ってて真っ赤になってるみぃ可愛い。猫耳付いてるもんな。語尾にニャが付くのは当たり前だよなっ! な! あざと可愛いすぎる!
自分の発言に赤く染まってる根元は誰得だよ。……あっ、一人得しそうなやつがいたな。
よし、ちょっと呼んできてやろうか。
「ちょっとどこに行こうとしてるのかな?! 行かせないよ!」
「ならば強行突破だ! 慈悲はない!」
少し興がのって遊び始めるところで、ふと笑い声が聞こえた。
「ふふふっ、3人っていつもこんな感じなんだ」
「佐鳥?」
唐突に笑い出した佐鳥に思わず怪訝な顔になる。
みぃは少し複雑そうだけど。
「いや、楽しそうにしてる皆を見てるとなんだか私も楽しくて」
「まきちゃんも、混ざる」
「え、あっ、私も?!」
みぃに背中を押され僕と根元の間に入っていく佐鳥。
僕と根元を交互に見ると一歩引いて苦笑いをする。
「えーっと……チャイムが鳴るから早く教室にいかない?」
僕と根元はその言葉にハッとして上に飾ってある大きめの時計を見る。始業開始まであと5分だった。
「…………覚悟っ!」
「いや教室行けよっ!」
大丈夫だ、問題ない。なんたって僕は空を飛べるからだ。みぃを連れて教室まで一直線である。
佐鳥と根元は? 知らぬ。
「いいから教室に行こうよ!」
「佐鳥……止められると思っているのか」
「作戦があるからね」
「なにをっ…………な!?」
佐鳥はそっと僕達の元を離れるとみぃを抱き抱えて、走った。
「え? まき、ちゃん?」
「姫は私が貰った! 返して欲しくば教室まで来るんだなっ」
ノリノリだな。しかしそう言われると追いかけざるを得ない。
[根元、休戦だ]と根元に目線で合図すると、根元は頷いて……僕の道を塞いだ。
「根元、キサマっ」
「ふっ、敵の敵は味方だとよく言うでしょ? さぁお行きなさい、姫を安全なところまで!」
え? あれ? 僕が悪者かよ。なんか話変わってないか。
「うん、任せて」
「か、かなとー」
みぃが連れていかれてしまった……教室まで。
根元はさっきよりも随分と楽しそうだ。立場が逆転したからな。
「ハハハッ、ここを通りたければ僕を倒して行くんだなっ!」
「くっ、早くこの中ボスを倒してみぃの所に行かねば」
「中ボスって……」
根元がなにか肩を落としてるような気もするけど、気のせいか。僕は右手に可視できる稲妻を纏わせる。もちろん威力は最小で。
「え? それあり?!」
「勝てばいいのだよ、勝てば」
「ならばこっちも『火きゅ……は燃えるから『水球』」
根元も左手に水のたまを浮かび上がらせる。
だがしかし、従来より水属性は雷属性に弱いのだ。楽に仕留めてやるぜ。
「あなた達! ここで一体何をしているの!!」
僕と根元がお互いに走り始めたところで、校舎一階玄関に怒鳴り声が響き渡った。
振り向くとそこには鬼の形相をした葉名先生が……。ん? 学校以外でも会ったような気がしたんだけど……気のせいかな。一瞬誰かと面影が重なったというか。
「能力を使って危害を加えるのは禁止されているはずよ! あなた達、一体何をするつもりだったの!」
指摘されて思わず魔法を取り消す僕と根元。
先生に捕まってしまった……。これはまずい。
「いいから答えなさい!」
「……水を相馬くんの服の中に入れて水浸しにしてやろうかと」
ちょっ! そんなことを考えていたのか!
保健室行きじゃないか。
「相馬くんはどうせ避けるだろうし、まあ当たれば良いかなって」
良くない。
「それで相馬くんが避けた後で掃除するつもりはあったの? 授業がもうすぐ始まるのよ」
「はい、すいません。気をつけます」
根元、轟沈。
よし、それじゃ僕は一足先に教室に戻ってよう。
「待ちなさい、相馬くん」
「……はい」
「あなたもどういうつもりで電気なんか出していたの?!」
「いや、当たっても大したことないやつですよ? だだそれで根元に嫌がらせのような軽い電撃を喰らわせようと」
ほら、お互い殺傷能力は無いし大丈夫だよね。
なんだか、おふざけを本気で怒られたような気分だ。いやそれで大体合ってるか。
「軽い電撃ってもしかしたら怪我するかもしれないでしょ! 加減を間違えたらどうするつもりですか!?」
「……はい、すいません。気をつけます」
まあ頭を冷やすと確かに怒られても仕方ない。
ちょっと遊びがエスカレートしていたかもしれないな。
「全く……。もうすぐチャイムが鳴るから早く教室に行きなさい」
そう言って葉名先生はどこかに歩いていった。
僕と根元は顔を見合わせるとお互い苦笑いをする。
「行くか」
「そうだね」
結果怒られてしまったが、案外楽しかった。
昔から根元とはVRゲームで遊んだことがある。パーティを組んだり、PVPで戦ったり。今回のWORLD系ゲームではソフトが違って出来なかったから、なんだか懐かしい気持ちだ。
──きーんこーんかーんこーん
あっ、まずい。急がないと。
トリア「私の出番……ないじゃない」




