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43話


 今日のみぃは史上最高的に可愛いい。

 朝見た時には我を忘れてしまう程にである。


 このままでは誰かに取られかねない。そう焦ったのは内緒だ。


 目的地の喫茶店に着くまではみぃが心配で、何かあればすぐに返そうと思っていた。でも結果みぃは楽しそうに笑っていた。

 みぃはあまり表情に出ないが、楽しそうに笑っていたのだ。

 心配は杞憂に終わった。途中みぃが謝罪を受け入れすぎだとは思ったけど。到底謝って済む問題じゃないのだ。


 だから男達よ、みぃの元にはいかせんぞ。

 そう、トリアの方へ行くんだ。玉砕されてこい。


 「相馬くんはいつでも相馬くんだね」

 「どういうことだよ」


 隣に座る根元(ねのもと)に言葉を返すと「べつにぃ」と意味ありげに返ってくる。

 僕はいつでも僕じゃないか。どういうことだってばよ。


 「まったく隣にこんなに可愛い子がいるのに放っておくなんて」

 「隣? あぁ、みぃのことか。確かに今日のみぃの可愛さは限界値を突破してるよな。……とるなよ」

 「とらないよ。…………高江さんの事じゃないんだっての」


 そんなボソボソ言われても分かんないぞ、そんなに視線を逸らされても。まぁとらないみたいだからいいとしよう。

 最近トリアに少しとられ気味だから用心せねば。


 「ほら、ここにおっぱいが大きな親友がいるだろ?」

 「ん? トリアのことか? トリアはみぃの親友なんだけど……」

 「ボクのことだってのっ! このおっぱいを見て発情しないとか本当に男か!」


 いやだって。


 「お前、男じゃん」

 「な、なななななっ! おっぱいガン見しといてそれを言うぅーー!!」


 ちょっ、そんな大きな声で言ったら! 事実だけどっ!

 ……あぁ、みぃが立ってどっか行ってしまった。


 ピコリンッ


 〈奏は大きい胸が好きだもんね!(*`ω´*)

 小さいお胸には興味ないもんね(╬ ˘̀^˘́ )〉


 あぁぁ。やってしまったぁー。

 速攻でみぃにメールを返して追いかけようとする。

 みぃは店を出るみたいだ、今なら間に合うよな。


 と立ち上がろうとした所で周囲がザワザワと騒いでいるのに気がつく。騒いでいるのはずっとなんだが、なにか違うざわめきというか。


 「なんだ?」


 クラスメイトの視線を辿ってみると厨房から天族の男が一人歩いてきた。誰だろ、遅れてきたクラスメイトかな?


 「やあやあっ! 賑わっているね。それもそうか、なにせこの俺が用意した場所だからな! この乙成グループの御曹司、乙成(おとなり)金男(かねお)が用意したんだからなっ!」


 ……えっと。


 「だれ?」


 静かに根元に向かって聞こうとしたが、それよりも早く乙成 (?) が金髪の髪を靡かせて根元の手を取っていた。


 「あぁ、麗しい。その整った顔に固められたアホ毛、そしてその豊満な胸っ! ……美しい。俺は今最高にときめいている。この状況を言葉にするなら……一目惚れというものなのだろう。女よ、名は何という」

 「えーっと、根元です」

 「下の名前は?」

 「瑞輝(みずき)

 「では瑞輝、今からお前は俺の物だ。一生養ってやるぞ」

 「お断りします」


 大胆に登場して、大胆に口説いて、大胆にプロポーズして、無残に撃沈した。

 いやほんと誰だよ!


 「本人が言った通り乙成グループの御曹司、乙成金男くんだよ。ウチの高校の3年生で今回お願いしてこの場所を貸してもらったんだ」


 みぃの隣にいた……佐鳥だったか、説明してくれる。

 そういうことか、流石に普通の高校生が店の貸し切りなんておかしいとは思っていたんだ。

 乙成グループというのがどういうものかは知らないけどお金持ちなんだろう。同じ高校というのはどれくらいの確率だろうか。


 『な、なぜなんだっ。この俺が求婚してやってるというのに』

 『タイプじゃないので』


 「それにしてもよく貸してもらえたな。普通は無理だろ」

 「ああいう人は一般人が出来ないことをやって優越感に浸っているんだよ」

 「凄いいいようだな」


 『ならばっ……ここに1億用意した。これで俺と付き合え』

 『私そんなに安くないんで』


 「あながち間違えじゃないと思うけど……」

 「確かにそうかもな」


 簡単に1億なんて大金を用意して根元を買おうとしているのを見るとな。根元は男だけどいいんだろうか。いや、今は女でもあるんだけど。


 「1億じゃ足りないか。いいぜ、俺好みだ。ならば5億。これなら文句はないだろう」


 どれだけ金持ちなんだこの人。

 それだけのお金があれば殆どの人はホイホイついて行くだろうな。根元も色々と願望があるし乗りそうではある。


 「そんなもので私が買えると思わないで下さい。それにボク、男なんで」

 「え?」


 おっとここでカミングアウトだ。

 根元はゲームWORLDの初期設定時に性別を女に変えることに成功した男である。


 「いやいやそれは流石にないだろう。その服装に胸、パットや詰め物の類ではないことは明白じゃないか」

 「ボクは男でもあり、女でもあります。ゲームWORLDでの性別選択時に女性を選択することが出来たと言えば分かりやすいですか?」


 確か根元は100回くらい女性を押したら変えれたらしい。にわかに信じ難いけど実際女になってるんだよな。


 「まさかそんなことが」

 「あるんです。実際ゲームにインして種族等の外見その他情報を現実世界に反映しないように設定すると男に戻ります」



 「僕はWORLDが発売されるまでは確実に男だったんです。もちろんそれまでは女性の格好をしたりもしていましたけど。


 ……どうです? 気持ち悪いでしょ?

 貴方に私は釣り合いませんし、釣り合う気もありません。これでもまだ私をお望みですか?」


 「…………少し考えさせてくれ」


 乙成は文字通り固まった後、顔を青くしてふらふらと覚束無い足取りで店を去っていく。

 静まり返った店内でチャリンとドアベルの音が響き渡った。


 根元は力無い笑顔で笑う。

 きっとこうなることは知っていても思ったよりショックなのだ。乙成の行動は根元の言葉を肯定したのと同じだから……って。


 「フってから落ち込んでどうするんだよ。そっちの方が気味悪いわ」

 「……はぁっ!! 気味悪いってそれ落ち込んでる女友達に言うことー?!」

 「男でも女でも根元は根元だからな、性別なんて関係ないねっ!」

 「なんですとぉー! それはこの豊満な胸を見ながら言えることかなー!?」


 ししし知らないなぁ。

 そんなに胸を鷲掴みして寄せてきたら嫌でも目に入るというか。あっ調子乗ってるな、こいつ。


 ならばこうだっ!

 寄せてくる兵器に両手を伸ばす。圧倒的質量と弾力が脳を麻痺させながらも、その感触は指先を侵食し、まるで麻薬のようにソレを求め全神経が手のひらに集中する。

 自然と動く指先と、それに比例して耳に響く甲高く甘い淫声。



 ……そして小さく呟かれる低い低い胸声(きょうせい)


 「…………かな、と?」


 体全身が硬直して頭だけが高速に回転する。

 機械のように音を立てながら振り向くと、そこには表情の無くしたみぃが立っていた。


 「なに、してるの?」


 完全に抑揚を無くした声はまるで死刑宣告のよう。

 ドッと溢れ出す冷や汗と弁解のしようがないこの状況。


 「所詮、むね……なんだ、ね」


 みぃは自分の胸元に手を当て、根元の胸に目を向ける。

 感情の見えない瞳と目が合うと僕の体は自然と地面に密着する。

 頭を地面に擦り付け、誠心誠意の謝罪を。


 「みぃが触らせてくれないからいけないんですっ!」


 んんん?!

 違う! 今のは僕じゃない!

 トリアさん、そんな目で見ないでください。みぃの瞳はもう見れない。

 根元を見ると舌を出して笑っていた。こいつだ、こいつが犯人だ。どうやって声を真似たのかは知らないが、こいつ以外有り得ない!


 「みぃ! 違うんだ。こいつがっ、根元がさっきの」

 「……そう」


 みぃはゆったりとした足取りで僕に近づいてくる。

 一歩歩く事に絶望感が増した。その身から溢れ出る威圧は、みぃが前に立った瞬間僕の命が消えることを教えてくれる。

 腰に力が入らずに後ろに仰け反ってしまう。まるで浮気がバレた夫のよう。……夫かぁ。


 「かなと」

 「は、はい!」


 しまった。変なこと考えたら死刑宣告が早まる。心なしかみぃが怒っているように見える。いや怒っているのだろうが、それはもうとてつもなく怒っているのだろう。


 ついに僕の前に立ってしまった。なにか弁解を言おうとするが、何も思いつかない。


 みぃは屈んで僕の手を握る。カタカタと震え出す僕の腕と、怒りを表すように震えながらも力強いみぃの手。きっと指を1本ずつ折る気なんだ。

 僕の手はされるがままみぃの元へと持ち運ばれ


 「……え」


 その小さくも確かな弾力のある人類の宝へと辿り着いた。


 つい無意識に指先が踊る。

 なんだこれは。この柔らかくて、最高級のクッションよりも尊く、何よりも愛おしい……なんだろう。なんだこれは。柔らかくて弾力があって癖になるような中毒感と世界を構成する全てを凝縮したこれは……。


 「お胸様」

 「……やっ、んっ」


 自分は今世界最高の宝石に触っている。

 滑らかな肢体に浮かぶ二つの至宝を愛でるように、慈しむように。

 手先から伝わる振動は速く、自分のそれも比例して早鐘を打つ。


 見つめ合う僕とみぃ。

 ようやく見れたみぃの瞳からは様々な感情が浮かんでいた。


 「かなと、なら……いいから」

 「……みぃ」

 「だ、から……よそ、いっちゃ……だめ」


 ぬわぁああ!

 一体何言わせてるんだ僕はー!!

 そもそも他所に行くわけもないのだ。だがしかし、さっきまでの自分の行動はそう見られても仕方の無い事だったんじゃないか。

 正直根元はどちらかと言うと男友達だし、そういう事にはならないのだが、はたして冗談で済むのだろうか。

 僕と根元は冗談だと分かっているが、みぃはそうはいかない。

 となると不安になるのも無理はないよな。


 「みぃ、ごめんな。どこにも行かないから」


 そう言って揉む手は止まらない。頭では止めろと言っているが脊髄反射的に手が動くのだ。やめられない止まらない、こんな(よこしま)な僕を許しておくれ。

 真剣に謝りながらも意識は煩悩に渦巻く。

 みぃも抵抗しないからどんどんエスカレートしそうになり──。


 「なにやってんのよっ! いい加減やめなさい!」


 トリアに怒鳴られた。

 頭をぱしんっと叩かれた。いや、バシンっだ。

 いい音がした。


 「隙があれば公衆の面前でもそんなことをしてっ! 二人とも常識を知りなさいっ!」


 トリアがお母さんみたいだ。

 激おこプンプン丸だ。いつの時代の言葉だっけ。


 「ほら奏っ! 現実逃避しないで聞きなさいっ!」

 「いやでも体が勝手にね」

 「言い訳しない!」

 「すいません」


 うん。確かにやらかしたかもしれない。

 どうしてこうなったんだろう。……根元だ。根元が悪い。そうに違いない、そうに決まってる。

 よし、根元に責任転嫁しよう。


 「根元が変なこと言うから」

 「ちょっと待って! 僕なにもイッテナイヨ! 相馬くんと高江さんが勝手に盛り上がっただけで」


 裏切ったなっ!

 いや初めから味方じゃなかった。


 「勝手にミーナを悪く言わないでくれるかしら!」

 「うんうん」

 「ミーナは黙ってなさいっ」

 「はい」


 「そこの男達も見ていたなら止めなさいよっ!」

 「止めるよりも写真に収めるのが大切じゃないか!」

 「言い値で買うわ……じゃない! ダメよ、今すぐ消すのよっ! アカウントを消すか写真を消すか二つに二つよ!」

 「選択肢ないやん!」


 そこからは混沌としてトリアを中心として騒ぎ出す。

 僕とみぃは顔を見合わせ笑うと店員さんを捕まえて新しくメニューの注文をする。

 全く楽しいパーティだよ。




 「ほんとずっと高江さん一筋だよね。少しくらい余所見したらいいのに……ばーか」

乙成金男

おとなり かねお

お隣 金よぉ

乙 成金男

おつ なりきんおとこ


乙成くんはまた出てきます(よてい)

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