42話 みいなとクラスメイトその2
クラス全員が座れるほどに広い喫茶店で、私の用意された席は中央、皆から視線を浴びせられる場所だ。端っこでいいよ端っこで。
両脇に奏とトリアが座って、奏の隣に根元が座る。
クラス皆が遅れて座りだし、待ちに待ったパーティが始まる。
「っとその前に自己紹介をしないとだね」
トリアの横に座った取り巻きさんがそう言う。そういえばトリアの紹介もしていないんだよね。忘れてた。
皆よく名前も知らない人がいるのに平然としているなぁ。
「私は佐鳥真紀。知っての通りWORLD CREATUREをやってます。……覚えてくれてたらだけど」
「覚えているわよ。私はトリア、WORLD CREATUREの管制AIみたいな事をやっているわ」
「え? 管制? AI?」
うん。トリアがAIって言われても違和感あるよね。私も違和感ある。
「俺は山田太郎です」
「俺は田中太郎です」
「俺は中本太郎です」
取り巻きさん改め佐鳥さんが自己紹介をしていたのを見ていた男達が次々と群がっていく。トリアだからね、仕方ないね。
私のこと忘れているな。そのまま忘れておくれ。
「ごめんなさい。私はミーナ以外に興味はないの。」
キッパリである。それはもう石のように固まる男達など割ってしまえっていうくらいである。
トリアは私のだからね! そんな目で見ても譲らないよ。
「馬鹿どもがごめんね、もうそろそろ頼んであるケーキが来る頃だけど飲み物は何がいいかな? どれだけ食べても飲んでも大丈夫だから遠慮しないでね」
佐鳥さんは私達に気を使ってくれる。
そこまでしなくてもいいんだけど。
「私はこのカルピス? を飲んでみたいわ」
「おれんじ、じゅーす」
「了解っ! それじゃ私は紅茶にしようかな」
便乗。
いや、やっぱり頼んでくれるならその方が楽だよね。
喫茶店の店員さんはケーキやらお菓子やら色々と持ってきたりして凄く忙しそうだ。頑張ってー。
全てのテーブルにケーキや飲み物が揃うと皆一斉にこっちを向く。
えっ、えっ? どうしたの?
まだ何かあるの?
「みぃ、あれだよ。始まりの挨拶というか乾杯みたいなやつ」
あー、そうだね。それで誰がやるのかな?
私じゃないよね、私まともに喋れないよ。
トリアなら助けてくれるよね。目配せすると力強く頷いてくれた……何かを期待するような目で。
先生新手のイジメです!
助けてください先生!
葉名先生どこにいるんですかぁ!
視線を彷徨わせているとふと佐鳥さんと目が合った。
根元は目が合う瞬間に違う方向を向いた、薄情な奴め。
「……さとりさ、ん」
「な、なにかな?」
「たのんだ」
丸投げだ。佐鳥さん頑張れ!
ほ、ほら喋れない人に挨拶させるのはダメだと思うんだ。ねっ、ねっ。
佐鳥さんは苦笑した後、勢いよく立ち上がった。
おぉー! 期待してます。ありがとう佐鳥さん。
「今まで大変辛いことがありましたっ! 私達は行動を強制され、言われるがままな日々を歩んできました。だけどそれはもう過去の話ですっ、支配から逃れた今! 高江さんに心からの謝罪を。そしてこれからの楽しい日々に!」
「かんぱい」
「「「乾杯っ!!」」」
佐鳥さん演説上手いなぁ。
ついつい最後だけ取っちゃったよ。
皆で乾杯した後はもうすごい盛り上がりだった。私も大変な目にあったけど、皆も抑圧された毎日を過ごして来たんだな。
あれ、喫茶店なのにラーメン運んでる。大食い競走が始まってる。え? お茶とクッキーとかそういうのじゃないの? あっ、トリアが参戦しにいった。
私はオレンジジュースだけども。
「高江さん、今までのこと……本当にごめんなさい」
お祭り騒ぎの中、佐鳥さんが真剣な表情で謝る。もういいのに。
気にしすぎだよ、もう許したし。終わったことだよ。
「気に、しないで」
「気にするよっ。許すって言われて、はいそうですかなんて……なれないよ。……トイレで水を掛けたのは私だよ、階段で上から押したのも私っ、声が掠れていくのを目の前で見ていながらっ……それを嘲笑った」
「しってる」
知ってるよ。体が凍りつく感覚を、転げ落ちる痛みを、自分の中から私が消えていくような感覚を、私は今でも脳裏に焼き付いてる。
「だったらなんで、私は許されていいはずが──」
「……タオル、くれた、よね」
私はあの温かさを忘れない。
「手が、ふるえて、たよ?」
転げ落ちた時に見た彼女の泣きそうな顔を今でも覚えている。
「その、腕。どうし、たの?」
私が声を失った日を境に、佐鳥さんは左腕を隠すようになった。
その傷だらけの左腕を。
彼女もきっと凄く苦しんだんだ。それでも逆らえなかった。逆らえば私のようになる、だから従順になるしかなかった。
きっと彼女は優しい人なんだ。割り切れないし、割り切りたくもなくて、それでもやらないといけなくて。
そう知っていても私の恐怖は、震えは簡単に抜けやしないだろう、それでどうにかなるのならもうとっくに治ってる。
でも、それでも私達はまだ……やり直せる。
……そう思うから。思えたから。だから──。
「ありがとう」
私の為に苦しんでくれて。私の為に泣いてくれて。
自分を追い込むまで悩んでくれて。
今でも心を痛めて、私のことを思ってくれてる。
だから彼女の謝罪は全て許そう。
私も彼女に感謝の気持ちを伝えよう。
そうしたら私達はまた--。
「また、友達……に、なれる?」
初めからやり直せるはずだ。
きっと今回は上手くいく。
だって私達は同じように苦しんでいたんだから。
泣きだす彼女を包むように抱きしめる。
今度は壊れないように。無くさないように。
声にならない肯定の返事がやけに耳に響いた。
「よしっ。飲もう!」
しばらくして、佐鳥さんはバッと上を向いて言う。
そして紅茶を一気飲み。
「すいませーん! 紅茶のおかわりくださーい……ヒックっ」
ん? 心なしか佐鳥さんの頬が赤くなってる気がする。
さっきのしゃっくりはなに? まるで酔っ払ってるみたいだよっ。紅茶、紅茶だよね!
「ミーナぁ! 勝ったわよー!」
入口付近のテーブルからトリアの声が聞こえたかと思ったら、トリアが『大食い大会優勝!』と書かれた色紙と王冠を貰っていた。そしてその横には積み上げられた大量のお皿が。
一体あの体にどれだけの食べ物が入るんだろう。他の大食い選手は食べ過ぎで倒れてるのに。
トリアは表彰式(?)を終わるとまっすぐに私の所まで来る。
そのまま満面の笑みで王冠を私に乗せた。
「やっぱりミーナは王冠が似合うわぁ! 王冠の横で動いてる猫耳がとってもキュートよ!」
でもこれ大食い大会の王冠なんだよね?
私が大食い大会に優勝したみたいじゃないかな? 大丈夫だよね。
「おっ、みぃ。大食い大会で優勝したのか。食べ過ぎじゃないか?」
ちょっと奏!
さっきまでクラスの男子と話していたのに、この時だけ見るのは無いよね!
わざとだよねっ、故意だよね。恋なんだけどねっ。……何言ってるんだ私は。
「トリアに、もらった」
「あげたわっ!」
奏はトリアを見て納得した表情だ。きっと昨日のそうめんの事を思い出してるな。うん、凄い食べっぷりだったもんね。
「そうだったんだな、その王冠似合ってるよ。とりあえず写真撮るから動かないで」
奏はコネッキングのカメラを使い写真を撮る。何枚も。
周りに見られてるからかなり恥ずかしいんだけど……奏が撮りたいっていうし。むー、私も写真を撮ってる奏の写真を撮っとこ。
「バカップルここに極めり」
だれか何か言ったかな?
でもそんなカップルだなんて。
ふふっ、今日はなんていい日なんだろう。
皆のことはまだ……怖いけど、でも皆は楽しそうだ。私も楽しい。
右に目を向けると男子がバカ騒ぎして、左に目を向けると女子が会話に花を咲かせて。私は私で皆に囲まれて。
きっとこれが本当の私達なんだ。なんだかこういうのって……いいな。
私は喫茶店を出て大きく深呼吸をする。ドキドキして、ワクワクして、楽しくて、だから少し休憩。息抜きだ。
胸に満たされる空気を感じながら言いようのない満足感が私を支配した。
初めは凄く不安だったけど……本当に来て良かった。
「ところで根元」
「なにかな? クラスメイトその1くん」
「なんでスカート履いてねぇの」
「今日はパンツ履いてきてるからね」
「え?」
「ん?」
★猫の好奇心
効果
猫の攻撃力が倍になる代わりに一人に突撃し続ける。
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好奇心は猫を……強くする!




