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その7

「…このくらいかな。」


そう言って金髪さんは紙と羽ペンを小さなテーブルに置きました。その顔は当初の笑顔を貼り付けたものではなく、仕事をする人の真面目な顔でした。

お兄ちゃんが前わたしに勉強を教えてくれた顔にそっくりです。

でも、そんなことよりも!


「ΧΧΧ」


金髪さんが何か言うと、わたしの中の気持ちの悪いようなよくわからないものが、すぅっと抜けていく気がしました。すると今までしゃべるたびに不快だったのを吐き出すかのようにわたしは息切れしました。


「―――っはぁ、はぁ!」


く、苦しかったです…!心臓が捕まれたような気分でした。あの状態で嘘をつこうなんて考えられません!というか、何故こんな方法使ったんでしょう?ここまでしなくても嘘なんてつかないと思うんですけど…

それに金髪さんがしてきた質問は難しい内容ではないし、わざわざ嘘をつく方がややこしいものばかりでした。

どんな質問かというと、例えば、わたしは何故あんな所にいたのか、年齢、住んでいた所など私自身に関する話ばかりでした。なんでしょう、初対面の人に自己紹介しました。みたいな内容でした。

あ、でも途中で、属性は?と聞かれました。この質問だけはよくわからなかったんですけどそれ以外は普通でした、はい。あ、勿論その質問には正直に知りませんと言いましたよ。


「大丈夫?」


金髪さんはわたしの背中をさすってくれてますが、未だにわたしの息は整いません。なんででしょう?…そ、そういえば薬貰ってないです!

ぜいぜいと、肩を動かして息をしているわたしは、力を振り絞って言いました


「…く、…くす…りは…?」


すると金髪さんは一瞬固まってから、ちょっと慌てたように自分のローブを探りました。


…え、もしかして渡すの忘れてたとか?


「ごめんね、忘れてた」


やっぱり…!というか忘れるとかちょっとありえませんよね!?

彼は、はいと言ってハチミツを溶かしたミルク色の錠剤を一粒わたしに渡しました。

や、いまのさっきで、この色のものは食べにくいです。ましてや同一人物となれば尚更なんですが。


「…あぁ、そっか」


私の怪訝そうな顔を見て何かを感じたのか、彼は申し訳なさそうに目尻を下げて言いました。


「今日はレノンが居ないから…でも大丈夫、これは何にもはいってないから!」


え、レノンさん誰ですか。そもそも『これは』って…常習犯臭が漂ってきてるんですけども。これは飲むの怖いです。

でもわたしは苦しいのが我慢できず彼の手から恐る恐る錠剤を取り、飲み込みました。


すると、あれだけ苦しかったのが嘘のように楽になりました。…よかったです、変なものではなくて。

ほっと胸を下ろすと金髪さんはわたしのことを凝視してました。…やめてくださいよ、恥ずかしいです。



「えぇっと…かれんちゃん…でいいかな?」


彼は何故か言いにくそうにそう言いました。


「い、いやです、ちゃん付けはやめてください。呼び捨ての方がいいです、寧ろ呼び捨てで!」


いつも呼び捨ての人からいきなりちゃん付けされるとぞわぞわします。これは条件反射です。不可抗力です。…まぁ彼がお兄ちゃんだとは決まってないのですが…

わたしがそう言うと、彼は何故かほっと息をついてました。


「わかった。…ではかれん初めまして。」


彼はそう言ってにこっと微笑みました。

外では小鳥がさえずっています。

直接わたしの事は覚えていないと言われたわたしの心を代弁する訳でもない、窓から覗く青い空がただただ綺麗でした。





「僕の名前はユフィ・ローランド。ユフィって呼んでね」


「…ユフィ…さん」


「うん。…で、さっきのかれんの話を聞くとね、かれんはここではない世界に居たんだと思う。」


…まさかとは思ってましたが、人から言われるとやはり違いますね…ちょっと堪えます。


「…話続けても大丈夫?」


金髪さん…もといユフィさんは心配そうにわたしの顔を覗いてきます。…そんなにわたし顔色悪いんですかね?


「はい」


「それでかれんは今、自分自身の身体しか持っているのもはない…ここまではわかるよね?」


声を出したら余計なことを言いそうなので黙ってコクンと頷きます。


「酷なことを言うようかもしれないけど、かれんがもしこのまま外に出たら飢え死にすると思うんだ」


………ですよね。


「だから、僕は暫くの間かれんの面倒を見ようと思う。」



…………え


「無論ここに住むからには僕の仕事を手伝って貰う形になるんだけどね…かれんにとっては悪い話ではないと思うんだけど」


え、ちょ、まってくだ…


「駄目?」


…ユフィさんってぐいぐい押す系だったのですね。いけませんこのままでは流されてしまいます!言いたいことは言わねば、女が廃るってもんです!


「…で、でも!…わたしは身元もきちんとしてないですし…も、もしかしたら危ない人かも知れませんよ!?…じ、自分で言うのもあれなんですけど、わたしはまだ信用できる人間では無いはずです!…それでも…いいのですか?」


い、言いたいことは言いましたっ!

でも流石にこれだけ言えば、やっぱお前無理、とかなるかもしれません…!ぅう…言わなければ良かった…いや、でも言わないと駄目だっ!とそんな葛藤をしてました。



「……めん…」


その時ユフィさんは少し辛そうな顔をして何かをボソッと言いました。

もしかして、お前無理的なこといわれたのでしょうか…!?うわぁ葛藤なんて無駄な事をしてないで人の話をきちんと聞くべきでした!


「あ…あの、今なんて…?」


びくびくしながら聞くと、ユフィさんは何故かびっくりした顔をしてわたしを見ましたが、すぐに顔を変えました。


「いや、独り言だから気にしないで。」


「あ、ハイ」



「…それで、さっきの答えなんだけど」


ユフィさんはコホンと咳払いをしました。

わたしは緊張のあまりごくりと喉を鳴らしてしまいました。


「確かにかれんの身元ははっきりしてないし、信頼に値する人とはまだ言えない。」


…うぅ、ですよね…


「でも僕はかれんが僕を裏切ったり騙すことは無いと思うんだ。なぜなのかは本当にわからないんだ。ただ僕は今、かれんを手放してはいけない気がしてね。…初めて会ったばかりなのにおかしいよね、自分らしくなくて笑っちゃう。」


そう言ってユフィさんはこう続けました。


「それにね、信頼なんてこれから積み重ねればいいんだよ。僕たちはまだ会って間もないんだから。」




わたしはこの言葉に甘えてもいいのでしょうか?

なにもないわたしの面倒を見てくれると言ってくれたユフィさんに甘えても


…でもギブアンドテイクは大切です


ここがどんな世界かわたしはまだ知りません


ですがわたしがなにも知らないからと言ってユフィさんにギブされたままではいけないと思います


いつかわたしがユフィさんにテイクするために…と言ったら少し狡い気もするのですが、その手立てとしてまずは、ユフィさんの自慢の助手になってみせます!



「ありがとうございます…これから…よろしくお願い致します!!」








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