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だけど、やっぱり君が好き。  作者: 紫野 月
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薫さんは常務の幸せを願ってる

今回ストーリーの関係で会話文が多いです。読みにくかったらごめんなさい。

 戸田マリエとは同僚の吉野亜也子を通じて知り合った。

 亜也子と彼女は私の一つ先輩になるのだが、二人ともそういうコトを気にする人達ではなく親しい友人としてお付き合いさせてもらっている。

 実際“これでいいのか?”と思う程仲良しだ。名前呼び捨てだし、タメ口だし、本音を言っちゃうしね。

 今日は久し振りにこの三人で飲みに行った。

 遠慮のいらない間柄の私達は、もりもり食べ、大酒を飲み、世間話に花を咲かせた。

 大いに盛り上がっていたのに、亜也子に彼氏から呼び出しがかかり彼女はいそいそと抜けていった。

「やっぱり女友達より男の方が大事か!」と悪態をつきながら二人で静かに飲み直した。


 マリエが手酌をしながら、しみじみと呟いた。

「それにしても亜也子が元気になってよかった」

「そうだね。暫らくの間酷い状態だったもんね」

 私は枝豆に手を伸ばしながら答える。

「噂が出始めた頃の騒ぎといったら… でも、だいぶん落ち着いたみたいだし」

「うん、それに常務が亜也子を弁護してから噂の内容がガラッと変わったしね」

「そうね。常務に感謝しなくちゃいけないわね」

 そう言ってフワッと微笑み、お猪口に口をつけたマリエの横顔が妙に色っぽい。

 サバサバとした性格と中性的な顔立ちのマリエは普段あまり女を感じさせない。そして、我が社の営業部で男性と対等に仕事をしているからか、ヘタするとそこらへんの男より男前である。

 彼女は仕事上の愚痴をたまに口にすることはあるけれど、営業の仕事が好きで堪らないらしい。

 そしてとても優秀な営業マン(いやウーマンか)のようで、成績は常に上位。営業のエースから「俺のライバルは戸田」って言われているみたいなのだ。


「なんだかんだあったけど結局元サヤかぁ。まったく何処がいいのかね、あの彼氏の」

「亜也子にとって何ものにも変えがたい人なんでしょ」

「そりゃ人の好みはそれぞれだけどね。それは分かってるけど。でも普通、常務にあれだけプッシュされたら絶対そっちにいくでしょ」

「美形好きの薫さんとしては納得がいかないわけですか… そういえば、二人の仲を取り持とうといろいろ画策してたみたいね」

「えっ、なんで知ってるの?」

「営業は情報が命ですからね」

 マリエはくいっと日本酒を飲み干すとニヤッと笑う。

「私としては、薫がそこまでした理由に興味があるわ」

 

 マリエのその言葉に私は黙り込んだ。

 私が常務と亜也子の仲を取り持つことにしたのはいろんな要因が重なったからだ。けど、一番の決め手になったのは常務が女性不信になった経緯を知ったから。

 常務がまだ大学生だった頃“自分の小遣いは自分で稼げ”という社長のモットーによりモデルのアルバイトをしていた。

 そして、そこで知り合った駆け出しのモデルと恋に落ちた。

 しょせんアルバイトと軽い気持ちでいる常務と真剣にショーモデルを目指している彼女。いろいろ意見が食い違って口げんかが絶えなかった。それでも常務は彼女のことが大切で、心から愛していて、真面目に結婚を考えていた。

 それなのに彼女は常務を裏切っていた。

 モデルとして成功するために女を武器にしていたのだ。

 傷心の常務は逃げるようにアメリカの大学院へと進学し、彼女はトップモデルとして華々しく活躍するようになった。

 数年後。癒えない傷をかかえながらアメリカから帰国した常務を待っていたのは、常務の容姿と経歴と肩書きに惹かれ群がる肉食女子だった。女性不信気味だった常務は、それで完全に女性が信じられなくなった。

 ついでに女嫌いになってくれてたらよかったのに… なんてことをフト思ってしまった。


「あのさ、私が健ちゃんと結婚できたのは常務とのコトがあったからじゃない。あの話しがなかったら多分まだだと思うし」

「まあ、そうでしょうね」

「だからさ、常務にも幸せになってもらいたいなぁ…って」

「うーん、なんで皆結婚したら幸せになれるって思うのかな」

「それ、既婚者としては聞き捨てならないな」

 それから暫らくの間、結婚の是非について熱い討論を交わすことになった。幸せな結婚生活を送っている私としては負けるわけにはいかない。

 いつものことだが、話はだんだんエスカレートしていく。少々酔っ払っていたこともあり、いつしかグダグダになったのは仕方ないことだろう。

「だからさ、マリエもしてみればいいんだよ。そしたら幸せか幸せじゃないか分かるじゃない。やっぱ身をもって体験すべきだよ」

「べつに体験しなくても分かるわよ」

「いやいやいや。こればっかりは、やってみなきゃダメだって。それに今、ちょうどいい人がいるんだよ。きっと、マリエも気に入るよ!」

「それって常務のことじゃないでしょうね」

 マリエにキッと睨まれ、私は“御機嫌直して”とばかりにテヘヘと笑う。そして、一息入れるために枝豆を食べビールをゴクリと飲んだ。


「なんでダメかなぁ。常務、いい人なんだけどあなぁ」

「あれはいい人とは言わないでしょう」

「過去の恋愛をちょとこじらせちゃって女性を信じられなくなってるだけなんだよ。本当は繊細で一途な人なんだ。常務自身を好きになってくれる人が現れたら、きっと常務だって…」

 マリエは手にしていたお箸を置くと、私の目を真っ直ぐ見た。

「なるほど。薫は常務のこと本気で心配してるんだ」

 マリエにジッと見詰められて私はちょっとドギマギする。

「まっ、常務の女遊びが無くなれば、私も仕事が楽になるっていうちょっと打算も入ってますけどね」

「それが本音か… でも、薫の気持ちはよく分かった。上司思いの薫にいいことを教えてあげる」

「えっ、なになに!」

「常務は自分の上辺だけで近寄ってくる女性が嫌い」

「うんうん」

「常務は自分に物怖じすることなく意見をぶつけてくる女性に惹かれる」

「うーん。多分、そうかな…」

「いるじゃない、適合者が」

「だから、マリエ」

「私じゃなくて!」

 いたっけ、そんな人? 私は社内社外を問わず常務の周りにいる女達の顔を思い浮かべた。

 常務に媚びることなく自分の意思を通す女性。

 ……思い当たらない。

 真剣に思い悩む私に、マリエは笑いながら言った。

「実は私、その彼女の名前や部署を知らないの。でも、そのうち薫も出会えると思うよ。最近よくからかっているみたいだから」





 マリエが話していた彼女と遭遇したのはそれから数日後の会社の廊下でだった。

 丁寧な言葉でオブラートしながらの口喧嘩。以前、常務と亜也子がやっていたのと同じような光景が繰り広げられていた。

 意地悪を言う常務の、その美貌に萎縮することなく失礼にならない程度の嫌味で応酬する彼女。

 これは、きっと、常務の新しい恋の始まりに違いない!!

 早速彼女が誰なのかつきとめてお膳立てをせねば。

 今度こそ常務の幸せ(というか私の職場環境改善のため)を願って頑張ります。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

まだ取りこぼしたエピソードはありますが、これでこのお話しは終わりです。

大変未熟な作品でしたが今まで応援いただき感謝しています。

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