「変身」できない!!ー
アンジュがベルの腕を見て、すぐに言った。
「その腕輪、今すぐ外しなさい」
ベルは慌てて頷く。
「そ、そうね!」
右手でバングルを掴む。
ぐい、と引く。
「……あれ?」
もう一度引く。
回してみる。
押してみる。
「……」
ミリィが不安そうに覗き込む。
「ベルさん……?」
ベルは困った顔をする。
「と、とれない……というより……」
バングルをぐるりと回す。
「外せるようにできてない?」
その言葉通りだった。
バングルには――
繋ぎ目が一切ない。
まるで最初から一体の金属で出来ているような作りだ。
アンジュが目を細める。
「……リック」
「失礼します」
リックが席を立ち、ベルの手を取る。
ベルは少し緊張した顔になる。
リックは指先でバングルを撫で、角度を変えて観察する。
しばらくして、眉をひそめた。
アンジュが尋ねる。
「どうですの?」
リックはゆっくり答えた。
「これは……魔法具には間違いありませんが……」
指で軽く叩く。
「狙いがわからないな」
アンジュが腕を組む。
「どういうことですの?」
リックは少し考えてから言う。
「かなり強力ではありますが……」
バングルに指を当てたまま続ける。
「呪いの類ではない。悪意のある魔法でもない」
一度ベルを見る。
「むしろ……守護魔法に近いものかと」
アンジュが目を細める。
「つまり?」
リックは短く言った。
「害はないと、考えます」
アンジュは小さく息を吐いた。
「なるほど……」
その間。
ベルはリックに手を握られたまま、別の意味で焦っていた。
ちらりと窓を見る。
空が――赤い。
日が沈みかけている。
(やばい……)
心臓が跳ねる。
(ここで変わるわけにはいかない……!)
ベルはそっとミリィを見る。
ミリィも同じことに気付いていた。
二人の目が合う。
ほんの一瞬。
ミリィが――小さく頷いた。
覚悟を決めた顔だった。
そして。
突然。
ミリィが大声を出す。
「あ、あーいたい!」
お腹を押さえる。
「おなか!おなかが!いたーいよー!」
大袈裟な動きでその場にうずくまる。
演技は――
とても大根役者だった。
アンジュが驚く。
「まぁまぁ、それはいけませんわ!」
リックに振り向く。
「リック、薬を早く!」
ミリィは勢いよく顔を上げた。
「それには及びません!」
そして元気いっぱいに叫ぶ。
「部屋に入ってぐっすり寝れば!大丈夫です!!」
一同、沈黙。
ミリィはそのまま立ち上がり、ベルの手を引く。
「ベルさん!行きましょう!」
「え、ええ!」
そんなわけで。
その日は――ここで解散となった。
ベルとミリィはそそくさと宿の部屋へ戻る。
部屋に入る。
ドアを閉める。
鍵をかける。
二人はベッドに腰を下ろした。
その時にはもう――
太陽は沈みきっていた。
窓の外は薄暗い夕闇。
ベルとミリィは窓の外を見る。
沈んだ太陽。
それを見送りながら。
二人はほっとした顔をして――
笑い合った。
「ふぅ……」
「間に合いましたね……」
しばらく静かな時間が流れる。
それから。
ミリィが、そっと言った。
「べ、ベルさん」
ベルが振り向く。
「ん?」
ミリィは不思議そうに首を傾げた。
「もう……夜ですよ?」
ベルも首を傾げる。
「え……」
一拍。
「……あれ?」
夜になったのに。
少女は、少女のままだった。
夜になれば銀髪の少年に変わる。
それがベル・ジットという存在。
それが――今。
ベルは自分の手を見る。
細い指。白い腕。黒い髪が肩から流れる。
何も変わっていない。
「え!?」
思わず声が裏返る。
「なんで私、私のままなの!?」
ミリィも目を見開いていた。
「べ……ベルさん……」
ベルは慌てて立ち上がる。
「なんで……?」
自分の体をぺたぺた触る。
「どういうこと……?」
混乱したまま部屋をぐるぐる歩く。
その時。
ミリィが、はっとした顔をした。
そして――
急に顔を赤くする。
「も、もしかして……」
小さな声。
「『あの日』ですか……?」
ベルは一瞬きょとんとして――
すぐに顔を真っ赤にした。
「ち、ちがうちがう!!」
慌てて手を振る。
「てか!そうだとしても!」
ベルは焦った顔で言う。
「今まで変化しない日なんて一回もなかったのに……!」
ミリィも真剣な顔になる。
「そ、そうですよね……」
二人は同時に、あるものを見る。
ベルの右腕。
そこにある。
さっき付けられた――金属のバングル。
沈黙。
ミリィが恐る恐る言う。
「……もしかして」
ベルも同じことを思っていた。
「……あの人?」
バングルを持ち上げて見る。
鈍い金属の光。
外れない。
繋ぎ目もない。
ベルは少し青ざめた。
「え……」
ごくりと喉が鳴る。
「これ……」
ミリィも小さく呟く。
「リックさんは守護魔法って言ってましたけど……」
ベルの顔が引きつる。
「……守護って」
腕のバングルを見る。
「一体なんなの…?」
その答えを。
二人はまだ知らなかった。
「お腹の具合はいかがですの?」
唐突に――
ガチャ。
部屋のドアが開いた。
開いたドアを、後からコツコツとノックするアンジュ。
ベルは即座に叫んだ。
「順番!!」
心臓が跳ねる。
危なかった。
今日はイレギュラーだから良かったものの――
普段なら今ここには銀髪の少年ベルが立っている。
アンジュとはいえ。
たとえアンジュでも。
(さすがに……勘繰るよね……)
アンジュは首を傾げながら部屋に顔を出す。
「騒がしいと思って来てみれば……」
そして、部屋の中を見た。
アンジュが見たのは――
ベッドの上で。
ベルの肩や胸元あたりをぺたぺた触りながら、真剣な顔で確認しているミリィの姿だった。
ミリィはぶつぶつ言っている。
「おかしいです……ここも変わってません……」
ベルは慌てている。
「だから変わってないって言ってるでしょ!?」
その光景を見たアンジュは。
一瞬止まり。
そして。
ポン。
手を打った。
「なるほど!」
ベルとミリィ「?」
アンジュは腕を組み、深く頷く。
「不倫やDVよりは……」
なぜか真剣な顔。
「こっちの方がむしろ安心ですわね」
ベル「???」
アンジュはさらに頷く。
「理解はできませんけども」
一人でぶつぶつ言いながら、完全に納得した様子になる。
そして優雅にくるりと振り向いた。
「それではお二人様」
ドアの外へ一歩出る。
「素敵な夜をー」
ドアを閉めようとする。
ベルがベッドから飛び上がった。
「ちょっと待って!!」
ドアを押さえる。
「いろいろ誤解がある!!」
ミリィも慌てて手を振る。
「ち、違うんです!」
アンジュは半目になる。
「何がですの?」
ベルは必死に説明する。
「ミリィが!私の体が変わってないか確認してただけで!」
アンジュはさらに半目になる。
「……何に?」
ベル「」
ミリィ「」
二人は同時に固まった。
説明できない。
アンジュはふっと笑う。
「安心なさい」
ドアを閉めながら言う。
「他人の趣味に口を出すほど野暮ではありませんわ」
「お腹の具合はいかがですの?」
唐突に――
ガチャ。
部屋のドアが開いた。
開いたドアを、後からコツコツとノックするアンジュ。
ベルは即座に叫んだ。
「順番!!」
心臓が跳ねる。
危なかった。
今日はイレギュラーだから良かったものの――
普段なら今ここには銀髪の少年ベルが立っている。
アンジュとはいえ。
たとえアンジュでも。
(さすがに……勘繰るよね……)
アンジュは首を傾げながら部屋に顔を出す。
「騒がしいと思って来てみれば……」
そして、部屋の中を見た。
アンジュが見たのは――
ベッドの上で。
ベルの肩や胸元あたりをぺたぺた触りながら、真剣な顔で確認しているミリィの姿だった。
ミリィはぶつぶつ言っている。
「おかしいです……ここも変わってません……」
ベルは慌てている。
「だから変わってないって言ってるでしょ!?」
その光景を見たアンジュは。
一瞬止まり。
そして。
ポン。
手を打った。
「なるほど!」
ベルとミリィ「?」
アンジュは腕を組み、深く頷く。
「不倫やDVよりは……」
なぜか真剣な顔。
「こっちの方がむしろ安心ですわね」
ベル「???」
アンジュはさらに頷く。
「理解はできませんけども」
一人でぶつぶつ言いながら、完全に納得した様子になる。
そして優雅にくるりと振り向いた。
「それではお二人様」
ドアの外へ一歩出る。
「素敵な夜をー」
ドアを閉めようとする。
ベルがベッドから飛び上がった。
「ちょっと待って!!」
ドアを押さえる。
「いろいろ誤解がある!!」
ミリィも慌てて手を振る。
「ち、違うんです!」
アンジュは半目になる。
「何がですの?」
ベルは必死に説明する。
「ミリィが!私の体が変わってないか確認してただけで!」
アンジュはさらに半目になる。
「……何に?」
ベル「」
ミリィ「」
二人は同時に固まった。
説明できない。
アンジュはふっと笑う。
「安心なさい」
ドアを閉めながら言う。
「他人の趣味に口を出すほど野暮ではありませんわ」
ベルは必死だった。
「だから〜そうじゃなくって!」
アンジュは腕を組んだまま、落ち着いた顔。
ベルは身振り手振りを交えて説明する。
「なんだか、私が私のままなの!」
アンジュは数秒沈黙したあと、真顔で言った。
「……今夜は燃えないということですか?」
ベル「違う!」
アンジュは少し考える。
「えっと……よくわからないのですが」
とても真剣な顔。
「そんな気になれない日も、あるとは思いますわよ」
ミリィが横で顔を覆う。
アンジュは優しく頷いた。
「大丈夫」
そして――
サムズアップ。
「明日がありますわ!」
ベル「だから違うってば!!」
ベルは頭を抱える。
「私が私のままなの!」
必死に身振りをつける。
「いつもならもっとこう……」
腕を大きく振る。
「グアーッと!」
さらに両手を広げる。
「ガバーッと!」
「そんな感じになるのに!」
アンジュは静かに目を閉じた。
そして――
とても穏やかな声で言う。
「大丈夫です」
まるで聖母のような微笑み。
「きっと疲れているんですわ」
ベル「違う……」
アンジュは優しく続ける。
「大丈夫」
「大丈夫だから」
ベル「聞いて……」
アンジュはベルの肩にそっと手を置いた。
「気にしないの」
完全に慰めモードだった。
そして柔らかな声で言う。
「さぁ」
「早く寝なさい」
ミリィが小声で呟く。
「ベルさん……」
ベルは天井を見上げた。
「……もういいや」




