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【World Wide Love 】― 魔王殺しと呼ばないでー  作者: KK
第1章『2人のベル・ジット』

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初めての街ー

戦いの荒々しい熱気が静まり返ると、兵士たちは手際よく後処理へと動き出した。


街道に残された三両の馬車。そのうちの一両は深く傷つき、修理不能と判断されてその場に残されることとなった。積み込まれていた荷物だけが慎重に別の馬車へと移され、本体は後日あらためて回収する手筈が整えられる。


残る二両のうち、損傷していた一両には騎士や修理工たちの手が加わった。折れた部品を固定し、車軸を補強する応急処置が施され、どうにか再び走行可能な状態を取り戻す。


そして、最初から無傷だった最後の一両――。


激しい戦闘の間も、その扉が開くことは一度としてなかった。中に誰かが潜んでいる気配だけは確かに漂っていたが、姿を見せることも、降りてくることもなく、ただ静かにその場に留まり続けていたのだった。


やがて準備が整い、無傷の馬車を先頭にして、列は再び街道を進み始めた。


ベルは応急処置を終えた二両目の座席に深く身を預けていた。ガタゴトと揺れる車内で窓の外へ視線をやると、さっきまで命を削り合う鉄の音が響いていた場所は、すでに遠くへ過ぎ去っている。


しかし、あの「一度も扉の開かなかった馬車」の存在だけが、小さく記憶の奥に引っかかっていた。


「本当に助かったよ」


「無茶をしすぎだ」


「傷はまだ痛むだろう」


御者をはじめ、代わる代わるやってくる騎士や兵士たちが、ベルに声をかけていく。


感謝と心配の混ざり合った言葉は、素直にベルの心を温めた。あの必死の叫びと、死に物狂いで逃げ回った時間が無駄ではなかったのだと実感できたからだ。


「……あの馬車は?」


ふと気になって御者に尋ねると、短く答えが返ってきた。


「そっちは現場での修理が難しいんだ。今は置いていく」


「後で改めて回収する手筈になっている」


簡潔な説明に納得し、ベルは頷いた。


あの扉の開かない馬車の中にいるのは、一体どんな人物なのだろう。重要な貴人なのか、それとも厳重に守られるべき対象なのか。気にはなるものの、今の自分が深く追及できる立場でないことも分かっていた。


座席の背もたれに体を深く預けた瞬間、張り詰めていた全身の緊張が一気に解け落ちた。


それと同時に、肩の傷口や疲れ切った足の筋肉、強ばっていた神経が一斉に痛みを主張し始める。


「……っ」


小さく息を漏らす。


それでも――生まれて初めて乗る馬車だった。


車輪が地面を踏みしめる振動。規則的な揺れ。窓の向こうを流れていく森の景色。そのすべてが新鮮で、胸を打った。


(……馬車って、こういう感じなんだ)


ほんの少しだけ、心が浮き立つのを感じる。


さっきまで死と隣り合わせの極限状態にいたというのに、今は安全な空間に守られている。そのギャップが、現実感をふわりと薄めさせていた。


体は正直だった。


心地よい馬車の揺れと、車内に満ちる暖かな空気。張り詰めていた緊張の糸がふつと切れたことで、猛烈な眠気がベルの瞼を重く押し下げてくる。


「……」


うとうとと意識がゆっくり深みへ沈みかけ――そのたびに、車外から兵士たちの声が飛んだ。


「大丈夫か?」


「まだ起きているか?」


「眠るなら今じゃないぞ」


純粋な気遣いであり、ありがたいことには違いない。しかし、眠れるわけがなかった。落ちかける意識が、その都度引き戻されるのだ。


ベルは小さく頬を膨らませ、か細い声でぼやいた。


「……なんで寝かせてくれないの」


声に張りはなく、疲労と眠気が完全に勝っている。それでも完全に眠り込むこともできず、半ば意識を浮かせたまま、ゆったりと体に揺れを受け止め続けた。

馬車が走り出した頃、空にはまだ淡い茜色が残っていた。


だが、車輪が静かに刻む振動とともに時間は移ろい、夕闇は地平の向こうへ溶けていく。空は深い黒へと染まり、ひとつ、またひとつと星が瞬き始めた。


気づけば、完全な夜だ。


御者席に吊るされたランタンが風に揺れ、馬の背と御者の横顔をぼんやりと照らし出している。そのささやかな光は外の闇をわずかに切り取るものの、車内の奥深くまで届くことはない。影のほうが、ずっと濃かった。


街までは、あと三十分ほど。静寂に包まれた移動の時間。


その瞬間、誰にも気づかれることなく、変化が訪れた。


身体の内側で、肉体が組み替わっていく特有の感覚。

骨格がわずかに伸び、身体の重心が変わる。髪が短くなり、皮膚の感覚が鋭利に研ぎ澄まされていく。


少女の輪郭は――一瞬にして少年のそれへと切り替わった。


ベルは静かに息を整えた。


異変を悟られないよう、すぐさまフードを深く被り直す。黒いジャケットが落とす影の奥に顔を隠し、顎を引いて視線を落とした。


幸いにも、御者席のランタンの灯りは弱い。車内の奥までは届かず、座席の影が境界を曖昧に溶かしてくれている。月明かり程度では、顔の輪郭すら判別できないはずだ。


声さえ発しなければ。余計な動作さえしなければ、気づかれることはない。


ベルは静かに座り直し、車輪の伝える振動を背中で受け止めた。


そっと吐き出した息に合わせ、胸の奥で誰にも届かない独白を浮かべる。


(……ちょっと考えりゃ、わかりそうなもんだけどな)


(俺たちの入れ替わりのこと、秘密にしろって――あれだけ口うるさく言ってたのは、アイツの方だろ)


口の端に、かすかな皮肉の笑みを浮かべた。


(まぁ……)


窓の外へと視線を向ける。闇に沈む街道の傍らで、木々が黒い影となって静かに揺れていた。


(バレたらバレたで、俺はどっちでもいいんだけどな)


投げやりなわけでも、執着があるわけでもない。ただの事実として受け入れているだけだ。秘密は守る。だが、その秘密に自分を縛り付けるつもりもなかった。

馬車は静かに夜を進む。ランタンの灯りが揺らめきながら地面を滑っていく。


暗闇の中、フードに深く隠された銀髪の少年――その影だけが、確かにそこにあった。


それからの三十分間、馬車は粛々と街道を進み続けた。


途中、兵士や御者が何度もベルへ声をかけてくる。


「傷は痛まないか」

「水でも飲むか?」

「さっきは見事だったぞ」


どれも悪意のない純粋な言葉だ。そのたびにベルは顔を上げることなく、最小限の身振りだけで応じた。


片手を軽く持ち上げる。首を小さく横に振る。


『大丈夫』という意思表示。質問には頷きで返し、感謝には軽く手を振ってみせる。言葉は一切発しない。フードを深々とかぶったまま、落ち着いた動作で意思だけを伝えた。


周囲の誰もそれを不審には思わず、むしろどこかから気の毒そうな呟きが漏れた。


「……相当疲れているのかな」


気遣いの混じった視線が注がれる。ベルはそれを聞いて否定することもなく、ただ軽く肩をすくめてみせるだけだった。


やがて馬車は、街の入り口で静かに停車した。


重厚な石造りの城壁。門番が掲げる松明の炎。夜でありながら人々の往来が絶えない活気が、肌に伝わってくる。


ベルはゆっくりと馬車から降り立った。


地に足が触れ、揺れのない安定した感覚が戻ってくる。思わず小さく息を吐いた。


振り返ると、列の先頭を進んでいた無傷の馬車が、速度を落とすことなく街の中央通りへと進んでいくのが見えた。


石畳を鳴らす車輪の音。街道の灯りに照らし出される車体。


扉は――やはり閉ざされたままだ。


誰も姿を見せず、中の気配だけが固く閉じ込められている。そのまま吸い込まれるように人波の奥へと消えていった。


ベルは数秒間、吸い寄せられるようにその馬車を目で追った。


(……結局、あれは何だったんだ?)


好奇心はある。だが、追いかける理由などどこにもなかった。今の自分は、助け出され、ここまで送り届けられた一人の旅人に過ぎないのだから。


ベルはフードの端を軽く引き下げ、視線を街の喧騒へと向けた。


夜の街。初めて足を踏み入れる土地。


送り届けてくれた兵士たちと短い別れの仕草を交わし、ベルはその場を離れた。


賑やかな通りを少し歩き、周囲の視線が届かないところまで移ったところで、ゆっくりとフードを脱ぎ捨てた。


夜風がすっと銀髪を揺らす。


「……あー、やっと解放されたー」


大きく息を吐き出す。


「なんか……疲れたな」


ジット村の狭い世界しか知らなかったベルにとって、今日一日で押し寄せた情報量は多すぎた。


戦い、傷、馬車、見知らぬ人々、そして初めて目にする大きな街。


肉体は確実に摩耗しているというのに、足取りだけはどこか軽い。きょろきょろと周囲を見回しながら、物珍しそうに歩を進める。


立ち並ぶ屋台の灯り。漂ってくる香ばしい肉の匂い。賑やかな笑い声と行き交う人々。


「へぇ……」


自然と目が奪われる。


そのとき、ふと思い出したように足を止めた。


「あれ、そーいやこれ……」


肩へ手を伸ばし、包帯の上からそっと触れてみる。

ズキリと鈍い痛みが走り、顔をしかめた。


「俺が目ぇ覚ました時の空気と……あいつらがやたら感謝してきた様子から考えるとよ」


記憶を見たわけではない。ただ、兵士たちの会話や、ベル以上に手負いだった者たちの姿、現場に残された凄惨な戦闘の痕跡――それらを頭の中で繋ぎ合わせ、推測を立てる。


「相当無茶したみてぇだな」


ぽつりと呟いた。


自分がその場にいたわけではない。だが――あの性格なら、どれほど危険な状況であっても前に出ただろうと容易に想像がついた。


「……あいつ」


口元がわずかに緩む。


「荒事なんて向いてねぇだろうに」


戦いに適した性分ではないはずだ。それでも逃げずに立ち向かった。それがわかるからこそ、自然とそんな言葉が零れ落ちる。


「まったく、無理しやがって」


ぼやきながらも、その声には確かな誇らしさが混じっていた。


ぐぅ、と腹が盛大な音を立てる。


「あー、腹減った」


改めて周囲を見渡す。食事の取れそうな店を探すが、どこが良い店なのか見当もつかない。看板の文字、漂う匂い、客の出入りを頼りにあてもなく歩いていると

――ふらりと視界に人影が舞い込んできた。


少し酒が入っているらしい女性だった。頬を朱に染め、足取りは軽いもののどこか心地よさそうにふわふわと漂っている。


その女性が、ベルの目の前でぴたりと足を止めた。

にこり、と笑いかける。


「ねぇ、あんた。なんか疲れてる顔してるね?」


「良い店知ってるんだけど……ご馳走してあげよっか?」


唐突な提案に、ベルは一瞬きょとんとした。


怪しい話かもしれない。だが――


「……奢ってくれんの?」


「うん」


「じゃあ行く」


迷いは一瞬だった。二つ返事で快諾し、深く考えることもなく後をついていく。


女性は楽しそうに声をあげて笑うと、ベルを軽く手招きした。ベルはその背中を追いかけ、まだ見ぬ街の深みへと足を踏み入れていった。


店の中は明るすぎず、暗すぎず、程よい熱気に満ちていた。


香ばしく焼けた肉の匂いと濃密な香辛料の香りが立ち込めている。テーブルに次々と並べられていく料理を前に、ベルは思わず目を輝かせた。


「いやーマジ助かったわ。礼を言うぜ」


目の前の肉を遠慮なく口へと運びながら言った。空腹は限界だった。今日一日、まともに口へ物を運んでいないのだ。


「俺、旅なんて初めてだからさ」


肉を噛み締めながら、苦笑いを浮かべる。


「金は少しはあるけど、使い方もよくわかんねぇし」

相場も分からなければ、無駄遣いをしているのかどうかすら怪しい。だからこそ、ご馳走してくれるという申し出は素直にありがたかった。


声をかけてきた女性は、くすっと笑った。


「あたしのことはメリルって呼んでよ」


艶やかな赤い長髪はウェーブを描き、店の灯りを浴びて華やかに煌めいている。肌の露出が多い華やかな装いで、年齢は二十代前半といったところだろうか。大人の艶っぽさと、ほんのり酔った開放的な空気を纏っている。


テーブル席ではあるが、彼女は向かいの席には座らなかった。当然のようにベルの隣へ椅子を引き寄せ、距離を詰めてくる。


さらには体をしなだれさせ、肩と肩が触れ合うほどの近さで寄り添ってきた。


メリル自身は料理にほとんど手をつけず、ひたすらグラスの酒を煽っている。


「なぁー、奢ってくれるのはありがてぇけど」


ベルはほんの少しだけ体をずらした。


「……あんまくっつくなよ」


眉をひそめる。


「こっちは怪我してんだからさ」


肩の包帯が、彼女の腕に触れそうになる。痛みには慣れていたが、この過剰な距離感はどうにも落ち着かない。


メリルはグラスを傾けたまま、ちらりとベルに視線をやった。そして、にやりと笑う。


「いいじゃん。減るもんじゃないし。若い子って反応かわいいから、つい触りたくなるのよねぇ」


酔いでゆるんだ声には悪意の欠片もない。ただ単に距離感のタガが外れているだけだった。


メリルはベルの隣にぴったりと収まったまま、間髪入れずに質問を浴びせてくる。


「名前は?」

「いくつ?」

「どっから来たの?」

「どこへ行くんだい?」

「今夜はどこに泊まる?」


次から次へと投げかけられる問い。それでもベルは皿から肉を突きながら、淡々と答えていった。


「ベル」

「18歳って答えとけって言われてる」

「ジット村」

「わかんねー、どこばいいんだろーな」

「泊まるとこ? まだ決めてねぇ」


食べる手は止まらない。面倒くさそうではあるものの、本気で嫌がっている風でもなかった。


メリルはさらに距離を詰めてくる。豊満で柔らかな感触がベルの腕に押し当てられた。


年相応の男なら慌てふためく場面だ。しかしベルは、ちらりと横目で彼女を盗み見ただけだった。


「……なんかいい匂いがすると思ったら、あんたか」


ふと思いついたように口にする。


メリルはパチパチと目を瞬かせると、得意げに笑った。


「わかる?」


「今、王都で流行ってる最新の香水だよ」


誇らしげに胸を張る。


「この匂い、好きかい?」


ベルは鼻先をわずかに動かし、改めて匂いを確かめるように息を吸った。


「へー……これが香水か」


率直な感想だった。


「聞いたことはあるぜ」


「村には香水つけてるやつなんていなかったからなー」


高級品に対する気負いもなく、ただ「知らない珍しいもの」として受け止めている。メリルはその純朴な反応が面白くてたまらないのか、くすくすと喉を鳴らした。


「ふふ……ほんと、田舎っ子って感じ」


「でも悪くない反応だね」


さらに体を寄せてくる。もはや距離はゼロだった。それでもベルは慌てることなく、料理を口に運びながら淡々とその接近を受け流している。


メリルはグラスを傾け、妖艶に唇の端を持ち上げた。


「この匂いが好きなら――」


わざとらしく体を擦り寄せる。


「もっと嗅いでもいいんだよ?」


甘く艶を帯びた声。


ベルが一瞬だけ視線を落とした。冗談なのか本気なのか判別しがたい誘いにも動じる様子を見せず、上半身を少しだけメリルの方へと近づける。


「うーん……」


鼻先をそっと近づけた。香水の甘く濃密な香りが強くなる。だが、ベルはすぐに顔を上げた。


「いい匂いだとは思うけどよ」


首を小さく傾げる。


「俺はシャロンの花の匂いの方が好きみてぇだ」


そう言いながら、胸元に挿されたままの白い花へとそっと指を伸ばした。


あの惨烈な戦場を通ってもなお、落ちずに残っていた一輪の花。指先で優しく花弁を整えるように撫でる。


「なんか色々あったみたいだけど……」


小さく息を吐き出した。


「落ちなくてよかった」


その呟きは誰に向けられたものでもない。ただ、胸の奥から漏れ出た小さな安堵だった。


メリルはその一部始終を見つめ、にやりと口角を吊り上げた。


「……あんた、いいね」


「本当にいいよ」


ベルはきょとんと目を丸くした。


「そうかー?」


「よくわかんねぇけど、褒められるのは好きだぜ」

肩をすくめて笑ってみせる。


「ありがとよ」


メリルの視線が、今度はベルの両手へと落ちた。

十本の指それぞれに嵌められた、形の異なる指輪。ランプの温かな光を受けて、ひっそりと輝きを放っている。


「それよりさ」


「その銀髪も可愛いけど――」


「その指輪?」


「それも、なんかいいね」


ベルは両手を軽く広げてみせた。


「へっへー、いいだろ?」


「これは俺の宝物だからな」


「悪いけどやんねーよ?」


冗談めかした軽口を叩き、守るようにさっと手を引く仕草をする。


メリルは笑いながら首を振った。


「いらないいらない」


「ただ、いいなって思っただけさ」


ポイントを稼ぐように、さらに距離を詰めてくる。

ほとんど抱きつくような体勢で身を寄せると、艶めかしく微笑んだ。


「――それより」


「今夜はこれからどーする?」


熱を帯びた甘い視線。耳元でそっと囁かれる問い。

メリルが顔を覗き込み、にやりと笑う。


「――今夜はこれから、どーする?」


その問いに込められた真意が、ベルには一瞬理解できなかった。


「今夜?」


「そぉ、今夜」


密を含んだ声。ベルはしばし首をひねり、無垢な顔で問い返した。


(今夜って……)


答えなど、ひとつしかないはずだ。


「俺は寝るつもりだぜ?」


きっぱりと言い放つ。


「……あんたは違うのか?」


心の中でと本気で言っている。メリルは一瞬ぽかんと鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしたあと――


「そーだよね! そーこなくっちゃ!」


腹を抱えて楽しそうに笑い出した。


どうやら期待した反応ではなかったようだが、微塵も気にしていない。


「さっき宿はこれからって言ってたけど――」


「どーだい? うちに来ないかい?」


ベルは目を丸くした。


「え?マジで?奢ってもらった上に泊めてくれんのか?」


素直な驚きが胸を突き抜け、口から純粋な言葉が漏れ出た。


「あんたマジでいいやつだな!教会の連中が言ってた“聖女様”みてぇだ」


メリルは一瞬固まり――ついに耐えきれず爆笑した。


「ふふっ……あははは!」


肩を激しく揺らして笑い転げる。


「そーそー、実はあたし、聖女なんだよ」


わざとらしく胸を張ってみせる。


「今夜は聖女様に甘えちゃいなよ」


からかいと色気を絶妙に混ぜ合わせた言葉。

ベルは少しだけ考えると、


「おう、悪いな!思いっきり甘えさせてもらうわ」


疑いなど微塵もない、あまりにもまっすぐな返答。

メリルはまた楽しそうに笑った。その反応があまりにも純粋で、面白く、そしてどこか危うい。

こうして二人は店を後にし、メリルという“自称・聖女”の住処へと向かって歩き出した。


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