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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第12章ー南大陸の強者ー
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ベルVS殺ー

ベルがわずかに眉をひそめる。


「それを聞いてどうすんだ?」


殺は一拍置き、静かに答える。


「…どうも致しません。ただ納得したくて…」


その言葉に、ベルの表情がわずかに険しくなる。


「あんた、誰かの命令で俺を殺しに来たんだろ?納得出来たら、やめんのかよ?」


問いは鋭い。


逃げ道を与えない。


殺は目を伏せることなく、答える。


「..それは、ありえません」


即答。


迷いはない。


ベルが短く息を吐く。


「だったら、理由なんて聞くな。あんたの自己満足のために戦ってるわけじゃねぇんだ。俺は」


言葉は突き放すようでいて――どこか苛立ちが滲む。


殺は一瞬だけ沈黙し、


そして小さく頷く。


「…確かに、失言でした。撤回します」


きっぱりと。


それ以上引きずらない。


ベルが視線を逸らさずに続ける。


「あんたは?命令ならなんでもするのか?」


その問いに、殺の瞳がわずかに細まる。


「私の…御刀と呼ばれる役職の仕事は、刀で斬ることのみ」


淡々とした答え。


そこに余計な感情はない。


ベルが鼻で笑う。


「殺し屋みてぇなもんか」


一言。


核心を突く。


殺は否定しない。


「否定はしません」


短く、受け入れる。


夜の空気が、再び張り詰める。


ベルが肩をすくめる。


「俺からもひとつ、聞いていいか?」


殺は無言で頷く。


ベルがまっすぐ見据える。


「あんた、なんでそんな仕事してるんだ?」


わずかな間。


殺は淡々と答える。


「…理由などありません。ただ妖刀に見初められたが故」


ベルが鼻を鳴らす。


「ふぅん…自分で決めたわけでもねぇのか」


その言葉に、殺の瞳がわずかに細まる。


「御刀とは、成りたいと思って成れるものではありません。その役目はー…」


言いかけた言葉を、ベルが遮る。


「いいよ。そんなのどうだって」


ぴたり、と空気が止まる。


殺の眉が跳ねる。


「どうでもいいとは…聞き捨てなりませんね」


低い声。


だがベルは構わず続ける。


「俺は自分の足で立ってない奴の話に興味はねぇんだ。悪いけど」


はっきりと、切り捨てる。


殺の視線が鋭くなる。


「私が…そうだと?」


ベルが一歩、地面を踏む。


乾いた音が夜に落ちた。


「違うってのか?」


その問いは軽いようでいて、逃げ道を削り取る鋭さを持っていた。


殺は一瞬だけ呼吸を止める。


だが視線は逸らさない。


「…あなたにはわかりません。私がこれまでどんな気持ちで…」


言葉が続こうとした、その瞬間。


ベルの声が割り込む。


「だから!知らねぇって!」


怒鳴り声に近い。


だが怒りというより、苛立ちと焦りが混ざっていた。


殺の眉がわずかに動く。


ベルは構わず言葉を続ける。


「俺は、自分の道は自分で決めてぇ。誰かのため、何かのために生きるなんて、まっぴらだ」


その言葉は、夜の空気にそのまま突き刺さる。


殺の瞳が、わずかに細くなる。


「それは…強者の言葉。力なきものにまで、それを求めると?」


静かに、しかし確かに。


問いかけという形をした拒絶。


ベルは即座に答える。


「あぁ、求めるさ」


間を置かない。


「出来るかどうかじゃねぇ。やろうとするかどうかだ」


一歩も引かない声。


それは理屈ではなく、信念そのものだった。


「大切なのはな」


その一言が落ちる。


殺の表情が、ほんのわずかに歪む。


「なんと傲慢な…」


低く吐き捨てるような声。


ベルは鼻で笑う。


「悪いな」


そして続ける。


「俺のまわりには、弱っちくても、諦めない奴ばかりだからよ」


その言葉が落ちた瞬間――


夜の静けさが、ほんの少しだけ変質した。


殺は静かに息を吐いた。


「相入れませんね」


ベルも即座に返す。


「相入れねぇな」


その言葉だけで、結論は出ていた。


殺が折れた刀を正眼に構える。


「妖刀・MURASAMEー解放」


次の瞬間、空気が裂ける。


紅の光が刃から溢れ出し、殺の瞳まで染め上げていく。


その身体を包むように、紅の奔流が走る。


力が戻るのではない。


“溢れ出す”。


限界を越えた何かが、形を持って立ち上がる。


ベルは小さく息を吸う。


「カタナ、やるぞ」


応えるように、彼の両肘から黒鉄の刃が滑り出す。


金属が生えるように、空間を裂きながら形を成す。


そして静かに続ける。


「カレン。力貸してくれ」


その言葉と同時に――


身体の内側が一気に“重く、そして鋭く”変わる。


筋肉が締まり、感覚が研ぎ澄まされる。


力が増す。


速度が上がる。


骨の強度が一段上がるような感覚。


二つの力が、夜の中で向かい合う。


殺が刀を振るたび、軌跡が空間に焼き付くように残る。


踏み込みと同時に放たれる斬撃は、もはや速度だけの問題ではない。紅の奔流そのものが形を持ち、空間を裂いていく。


ベルはその一撃を、紙一重で逸らす。あるいは両肘から伸びた黒鉄の刃で受け止める。


金属同士がぶつかるたび、乾いた破裂音が夜に散る。


受けるたびに、刃が欠ける。


斬撃の重みが増すたびに、亀裂が走る。


それでもベルは止まらない。


一歩ずつ、間合いを詰める。


妖刀の刃は半ばから折れている。


それでも殺の動きは鈍らない。


むしろ――


紅の軌跡は途切れず、突きが混じり始める。


斬るだけではなく、穿つ。


間合いが短くなった分、踏み込みはさらに深くなる。


その分だけ、切り返しの速度も異常なまでに研ぎ澄まされていく。


一撃ごとの密度が上がっていた。


ベルはその中を縫うように動きながら、口元を歪める。


「短くなって、むしろ強くなったんじゃないか!?」


軽く煽るような声。


その瞬間、殺の眉がわずかに跳ねる。


返す刃が、さらに鋭さを増す。


もはや技の応酬ではない。


呼吸と呼吸の隙間を削り合う領域。


お互いに、あと一歩踏み出せば身体が触れる距離。


その一線を挟んだまま、打ち合いは続いていた。


殺は、ふと息を整えるようにして口を開く。


「ところで…私の顔を狙わないのは…あなたの流儀ですか?」


ベルは短く鼻で笑う。


「そんな大層なもんじゃねぇよ」


言いながら、両肘から伸びた黒鉄の刃を引き戻す。


金属が体内へ沈むように消える。


殺の視線がわずかに動く。


そして足下へ落とされる。


そこには――折れた妖刀の先が転がっていた。


そしてまた、ベルへと視線を戻す。


ベルがゆっくりと息を吐く。


「散々俺のわがままに付き合ってもらったからよぉ。最期はあんたに付き合うぜ」


その言葉と同時に、姿勢が変わる。


腰が落ちる。


左腰に、両手が静かに重ねられる。


――居合。


無駄のない、研ぎ澄まされた静止。


その一瞬で空気が変わる。


殺の目が細くなる。


「なんの真似です…悪ふざけも大概に…」


言葉は途中で止まる。


違う。


理屈ではない。


ベルの佇まいが、今までと違う。


殺の本能が警鐘を鳴らす。


即座に動く。


折れた妖刀を鞘に納める。


そして同じく――居合の構え。


沈黙。


間合いは極限まで詰まっている。


あと数歩踏み出せば、互いの身体が触れる距離。


それなのに、空気は異様に静かだった。


呼吸すら、刃になる領域。


ベルと殺。


二つの居合が、完全に重なり合う。


殺が静かに息を吸う。


(スメラギ)流剣術ー抜刀・ 10(TEN)」


鯉口がわずかに鳴る。


その瞬間だけが“存在した事実”として残り、それ以外は結果だけが世界に刻まれる。


神速の横凪。


音は置き去りにされ、時間の流れすら一瞬ねじ曲がる。


振り抜かれた軌跡は、すぐに鞘へ戻る。


斬撃という過程は消え、ただ「斬られた結果」だけが現実に残る。


ベルは低く息を吐く。


「カレン。お前の究極を俺に」


指輪が一度、強く脈動する。


身体の内側に、重さと鋭さが同時に満ちていく。


力が上がる。


速度が上がる。


踏み込むための“余白”が消える。


殺の紅の瞳がさらに強く光を放つ。


鞘に収めた刀身から溢れる紅の奔流が、その全身を纏う。


圧が空間を歪ませる。


ベルもまた、一歩も引かずに構える。


全身から満ちた圧が外へ漏れ出し、空気を押し返す。


数歩の間合い。


そこに立つだけで、世界が軋む。


一触即発。


殺とベルの間にある距離は、もはや意味を持っていない。


数歩という概念は消え、間合いという基準も崩れている。


残っているのはただ一つ。


“兆し”。


殺の呼吸が、ほんのわずかに沈む。


鯉口に触れる指先に、力が乗る直前の静止。


その一瞬の“前”。


ベルの全身にも同じ変化が走る。


視線がわずかに細くなる。


踏み込みのための重心が、ほんの数ミリだけ動く気配。


どちらが速いかではない。


どちらが正しい“兆し”を捉えるか。


空気が止まる。


音が消える。


世界が、次の瞬間を待っている。



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