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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: KK
第12章ー南大陸の強者ー
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これまでと、これからの話ー

ベルとアンジュが北大陸から戻ってから、すでに半年が過ぎていた。


中央大陸の街は、いつも通りに騒がしく、いつも通りに平和だった。


カフェの窓際で、ベルとミリィは並んで座っている。


ミリィは焼き菓子を口に運びながら、軽く周囲を見回した。


「ここ、本当に落ち着きますね」


ベルは飲み物をストローでかき混ぜながら、窓の外を見ている。


「うん。こういうの、普通って感じ」


人々は笑い、歩き、買い物をしているだけで、何かを警戒している様子もない。


ベルはそれを見ながら、ただ静かに時間を過ごしていた。


「それにしても……すごいですね」


「何が?」


「魔王核討伐数です」


「あー……マリーナさんやアルティシアも興奮してたよねー」


「誰だって興奮しますよ!だって……昨日でもう108体ですよ?」


ミリィは身を乗り出し、カップをそっとテーブルへ置いた。


「魔王核を消滅なんて、ベルさん以外誰もできませんもの」


ベルはストローをゆっくりと回しながら、窓の外へ視線を投げる。通りを行き交う人々は、何も知らないまま笑っていた。


「あいつ、1000体全部倒すってはりきってるもんねー」


言葉は淡く、まるで天気の話でもするような響きだった。


ミリィはすぐに首を振る。


「もう!すごいことなんですよ?もっと驚いてください!」


ベルは少しだけ目を細める。


「驚いてるって、これでも」


ガラス越しの光が、テーブルの上で静かに揺れていた。


「...私は何も...してないけどね」


その一言だけが、やけに軽くカフェの空気に落ちる。


外では、変わらない日常だけが続いていた。


「半年で100体……5年あれば1000体、倒せ……ますね」


ミリィは指を折りながら計算するように呟いた。


ベルはストローを軽く回し、氷の音を鳴らす。


「12体は誰が持ってるかも、わかってるし」


窓の外では、変わらない日常が流れている。


ミリィは小さく息を吐いた。


「決して無理ということも、なくなってきましたね」


その言葉に、ベルは特に反応を返さないまま、ただカップの中を見ていた。


「魔王を1000体倒したら……どうなるんだろうね?」


ベルはカップの中の氷を揺らしながら、ふとした調子で呟いた。


ミリィは一瞬きょとんとし、それから少し考えて答える。


「え……?平和に……なるのでは?」


「そーかなー……?魔王がいる今も、そんなに困ってることないと思うんだけど」


ベルの言葉は軽く、どこか現実感の薄い響きだった。


ミリィはそこで言葉に詰まる。


「そ、それはたしかに……」


カフェの外では、人々が笑いながら通り過ぎていく。


平和そのものに見える風景の中で、二人だけがほんの少しだけ、答えのない問いを置き去りにしていた。


「なんか気になるんだよね……どうして1000体の魔王を封印した勇者様は、どうして倒さずに封印したのかなー、とか」


ベルはカップの縁を指でなぞりながら、曖昧に空へ視線を投げた。


ミリィは少しだけ間を置いてから、現実的な声で答える。


「それは単に……ベルさんと違って、魔王核を消滅させられないから、では?」


「それもたしかにあるかもだけど……でも1000体も封印できるなら、相当強いでしょ?」


ベルの言葉に、ミリィは一瞬だけ言葉を選ぶように黙る。


カップの中の氷が、小さく音を立てて崩れた。


「……そうですね。普通に考えたら、倒すより封印のほうが難しい場合もありますし」


ベルはそれを聞いても、特に納得した様子もなく、ただ窓の外を見る。


人の流れは変わらず、何事もないように続いていた。


「じゃあ、なおさら変だよね」


その一言だけが、静かなカフェの中に落ちた。


「勇者に関する伝承は実は意外と少ないんです……」


ミリィはカップを両手で包みながら、少し声を落とした。


「全魔王を封印なんて……すごいことしたのに?」


ベルはストローを止め、わずかに目を細める。


ミリィは頷く。


「英雄の方がまだ、逸話も伝承もたくさんあるくらいで」


窓の外では、人の流れが途切れず続いている。


ベルはしばらく黙ったまま、カップの中を見つめていた。


「今度、勇者のこと、アルミナにでも聞いてみようかな……」


その言葉に、ミリィの耳がぴくりと動いた。


「……例の北大陸の方、ですか?」


露骨に機嫌が曇る。


ベルはその表情を見て、小さく首をかしげる。


「……まだ怒ってるんだ?」


「……別に……怒ってないです」


だが声は明らかに冷たい。


北大陸から戻って一部始終を聞いて以来、ミリィはアルミナを含む北大陸側に対して、いまだに納得していない部分があるらしい。


ベルは視線を落とし、ふとミリィの手を取った。


「それにしても……両手の傷、跡も残らなくてよかったね」


ミリィは少しだけ視線を逸らす。


「骨も折れてたので……しばらく不便でしたけど」


ベルは静かに息を吐く。


「ミリィが怪我させられたって聞いた時のあいつったら……久々に本気で怒ってたんでしょ?」


その言葉に、ミリィの頬がわずかに赤くなる。


「……大袈裟なんですよ。門〈ゲート〉を破壊してでもクレタさんをぶっ飛ばすって……みんなで宥めるの大変だったんですから」


ミリィがため息をつく。


ベルは小さく目を細めた。


「その節は……あいつがご迷惑をおかけしました」


ミリィは慌てて首を振る。


「い、いえ!あれはもう……結果的には助かりましたし……」


「それで……そのクレタ、さんは?」


ベルが何気なく尋ねると、ミリィは少し困ったように笑った。


「それが……仮釈放となってから、本人のたっての希望で……私の実家で、お父様のお抱え騎士に、なりました」


「え……」


ベルは一瞬だけ言葉を失い、それから目を瞬かせる。


「ほんと……なんでそんなに懐いちゃったのかな……?」


ミリィも肩をすくめながら苦笑する。


「でも……パティからの手紙によると、真面目にお仕事してるそうですよ」


ベルはカップを揺らしながら、小さく息を吐く。


「それは……元剣聖がいるんじゃ、ねぇ……」


窓の外では、相変わらず平和な通りが続いていた。


「ベルさんが言ってましたけど……魔王核が30個を越えたあたりから……魔王核に遭遇する頻度が増えてるって……」


ミリィの声は、少しだけ慎重だった。


ベルはストローを止める。


「なんか……そうらしいよね。最近じゃ行く先々で、探そうとしなくても、あっちから近寄って来てるんじゃないかって」


「……それも、すごい話ですね」


空気がわずかに重くなる。


ベルは一度息を吸い、言葉を続けようとした。


「実家の話も出たことだし...元剣聖と元騎士団長、それにパティとクレタもいるなら申し分ない」


ベルは自分に言い聞かせるように呟き、深呼吸し、そしてー


「それで……ね?この先、もっともっと危険になるから……」


その言葉は途中で遮られる。


「絶対……嫌です」


「……まだ何も……」


「私に……実家に帰れと……言いたいんですよね?」


ベルの言葉が止まる。


ミリィはまっすぐにベルを見る。


「絶対、イ・ヤ・です!」


「ミリィ……この先どんなことになるか……」


「それでも!嫌なんです!」


声は強いのに、どこか震えていた。


カップの中の氷が、静かに音を立てて溶けていく。


「ミリィ……気持ちはわかるし、私だって離れるのは嫌だけど……でも」


ベルの言葉はそこで一度、途切れる。


ミリィは小さく首を振った。


「弱い私がこんなこと言うのは……わがままなのはわかってます……でも……お願いですから、一緒に連れて行って……ください」


声が震える。


視線が揺れ、溜め込んでいたものが零れそうになっている。


ベルは一瞬、言葉を失う。


「ミリィ……」


それ以上、続けられないまま、ただその名前だけが落ちた。


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