英雄核保持者対策ミーティング
翌日、昼。
ベルとミリィ、アダラとビビは、アダラ御用達の個室カフェに集まっていた。
ランチという名目の対策ミーティングである。
柔らかい光が差し込む部屋の中で、ミリィが勢いよく手を挙げた。
「昨日のお話は聞きました。お2人それぞれ事情があるとのことで……そこも考慮しつつ、皆さんの納得いく方法を模索しましょう!」
やけに張り切った、そしてどこか明るい声。
その様子を見て、アダラとビビが顔を見合わせる。
「ミリィ……なんか変じゃね?」
「こんな〜キャラじゃなかったよね〜?」
ひそひそ声。
ベルはその横で、軽く苦笑した。
「なんか……昨夜いろいろあったらしくて」
ミリィはそんな周囲の反応に気づいていないのか、あるいは気にしていないのか。
上機嫌のままノートを開き、きちんと姿勢を正す。
「まずはですね、感情と事実を分けて整理することが大事だと思います」
妙に堂々とした進行役ぶり。
アダラが小声でつぶやく。
「絶対なんか吹っ切れてるだろ、これ」
ビビも頷く。
「むしろテンション上がってない〜?」
ベルはコーヒーを一口飲んで、肩をすくめた。
「……まぁ、機嫌はいいっぽいな」
ミリィはふと顔を上げて、にこっと笑う。
「はい、では次にいきましょう!」
ミリィはノートに視線を落としながら、丁寧に言葉を選んだ。
「シュプリムさんもアラランさんも、どちらも拒否……ということですが」
ペン先が紙の上で小さく止まる。
部屋の空気が、ほんの少しだけ静かになる。
アダラが腕を組み、軽く息を吐いた。
「まぁ、そういう結論になるな。少なくとも今のままだと」
ビビも肩をすくめる。
「うん〜、思想の方向性がバラバラすぎるんだよね〜」
ベルはコーヒーのカップを両手で持ちながら、少し困ったように笑った。
「うーん……そうだね。たしかに、そのままだと難しいかも」
やわらかい声。
どこか気遣うような、控えめな言い方だった。
ミリィは少しだけ眉を寄せるが、すぐに顔を上げる。
それでも表情は明るいままだった。
「では、排除ではなく“調整”という形での再検討は可能でしょうか?」
アダラがちらりとミリィを見る。
「……調整って言うけどよ、それ具体的にどうすんだ?」
ミリィは少し考え込んでから、きっぱりと言った。
「まずは、目的の共有と……感情ではなく、役割での整理です」
ビビが目をぱちぱちさせる。
「ミリィ、急に進行役うまくなってない〜?」
ベルは小さく笑って、少し安心したように言った。
「うん、ちゃんと考えられてると思うよ」
ミリィはその言葉に少しだけ表情を和らげたまま、資料へ視線を戻した。
「まだ結論を急ぐ必要はありません。まずは……対話の場を作りましょう」
ミリィは少しだけ考え込むように、ノートの端を指でなぞった。
「まずは……何より英雄核を取り出す方法が決まらないと……決められないですよね」
アダラがあっさりと頷く。
「それなー」
ビビも軽く手を振りながら続ける。
「わたしの時は〜たまたまうまくいった感じだもんね〜」
その言葉に、場の空気が少しだけ軽くなる。
ベルはカップを持ったまま、静かに相槌を打った。
「そうらしいよね」
ミリィはそのやり取りを聞きながら、視線を落とす。
真面目な顔のまま、少しだけ唇を結んだ。
「たまたま……というのは、再現性がないということ、ですよね」
アダラが肩をすくめる。
「まぁ、言い方悪いけどそうなるな。手順として確立されてねぇ」
ビビも少しだけ真顔になる。
「成功例が一個だけって、ほぼ偶然扱いなんだよね〜」
ベルは少しだけ眉を寄せて、小さく言った。
「でも、逆に言えば……できたことはあるってことだよね」
ミリィはその言葉に顔を上げる。
少しだけ希望を含んだ目。
「……はい」
小さく頷く。
「なら、まだ方法は探せます」
その声は、さっきより少しだけ強くなっていた。
小さなミリィが、少しだけ不安そうに視線を上げる。
「他の姫神さんたちは……どうなんでしょう?」
ベルはカップを持ったまま、少しだけ困ったように目を逸らした。
「そのなんだけど……そこは私じゃなくて、あいつに聞いてもらうしか」
アダラがすぐに頷く。
「魔王殺しかー」
ビビはにやっと笑って、軽い調子で言う。
「じゃー今夜お風呂に入りながら〜聞いてみる?」
「そだな!」
アダラも普通に乗った。
ベルは即座に反応する。
「ちょいちょい!何かにつけて誘惑しようとしない!」
ぴしっとツッコミが入る。
ビビはけろっとした顔で肩をすくめた。
「え〜、だってその方が出てきそうじゃない?」
アダラも腕を組みながらうなずく。
「実際、タイミングって大事だしな」
「そういう問題じゃないから!」
ベルは珍しく少し声を強める。
そのやり取りを見ながら、ミリィはきょとんとした顔で固まっていた。
「……お風呂……?」
小さくつぶやいた声は、完全に話の流れを追えていない。
ベルはそれに気づいて、すぐに姿勢を正す。
ベルは軽く手をひらひらと振って、場の空気を整えるように笑った。
「ミリィ、2人のノリに合わせると話がそれちゃうから、スルーしよ」
ミリィはすぐにこくりと頷く。
「はい、わかりました」
姿勢を正して、資料に視線を戻す。
「シュプリムさんは思想のためとのことですが……どうしたらいいでしょう?」
アダラがあっけらかんと肩をすくめる。
「なんだよ、なんか策があるわけじゃねぇのかよ」
その言葉に、ミリィは少しだけ困ったように目を伏せた。
「そこは……みんなで考えられたらなー……と」
正直で、でも投げ出しているわけではない声。
一瞬、空気が少しだけ静かになる。
ビビが頬杖をついて、ゆるく笑った。
「いいじゃん、その方が会議っぽいし〜」
アダラも鼻を鳴らす。
「まぁ、丸投げじゃねぇだけマシか」
ベルは小さく息を吐いて、少し柔らかい声で言った。
「シュプリムさんって、たぶん“正しさ”が強すぎるタイプだと思うんだよね」
ミリィが顔を上げる。
「正しさ……ですか?」
ベルはうなずく。
「うん。だから、正面から否定すると多分もっと固くなる」
少しだけ考えるように間を置いてから、続ける。
「だから、“別の正しさもあるよ”って形で見せるのがいいのかも」
ミリィはその言葉をゆっくり飲み込むように頷いた。
「……対立ではなく、並列、ですね」
小さく、でも確かに整理された言葉だった。
アダラは少し椅子の背にもたれながら、ぽつりと言った。
「これは私の意見なんだけどなー……」
ミリィはすぐに背筋を伸ばす。
「はい、なんでしょう」
アダラは片目を細めて続けた。
「魔王殺しと合わせてみるってのは、どうだ?」
ベルはカップを置き、少しだけ眉を寄せる。
「アラランさんはまだしも、シュプリムさんはあいつのこと目の敵にしてるんじゃ……?」
アダラは肩をすくめる。
「そいでも、男としては興味あるみてぇだから、話は聞いてくれっと思うんだよな」
ビビがにやっと笑う。
「よく見とかないと食べられちゃうかもだけどね〜」
ベルは即座に顔をしかめる。
「そういう言い方やめて」
そのやり取りの横で、ミリィがぱっと顔を上げる。
「じゃ、じゃあ私が同行します!」
勢いよく言い切る。
アダラはあっさり首を横に振った。
「ミリィが同行してもしゃーねぇだろ。相手は軍人だぞ?」
「んむむ……」
ミリィは悔しそうに口を結ぶ。
けれどすぐに諦めるわけではなく、拳を小さく握った。
ベルはその様子を見て、少しだけ困ったように笑う。
「まあ、まずは話の場を作るのが先かもね」
ビビが軽く手を叩く。
「じゃあ〜お見合いじゃなくて面談会だね〜」
アダラが即座に突っ込む。
「言い方が最悪すぎるだろそれ」
ミリィは姿勢を正したまま、少し緊張した声で続ける。
「と、とにかく……ベルさんと直接会話するのは私も賛成です。どちらからにします?」
その言葉に、アダラが腕を組む。
「順番か……まぁ、揉めてる度合いで言うとシュプリムの方がやべぇな」
ビビも軽く頷く。
「うん〜、思想強いのはあっちだしね〜」
ベルは少しだけ考えてから、静かに口を開いた。
「じゃあ……シュプリムさんから、お願いしたいかも」
ミリィがすぐに顔を上げる。
「理由を聞いてもいいですか?」
ベルはカップを両手で持ったまま、少し言葉を選ぶようにして続ける。
「うん。あの人って、自分の中の“正しさ”がすごくはっきりしてる気がして」
一度だけ視線を落としてから、続ける。
「だから、時間が経つとその考えがどんどん固まっていきそうで……」
軽く息を吐く。
「だから、早めに一度ちゃんと話しておいた方がいいと思ったの」
アダラが鼻を鳴らす。
「まぁ、理由としてはわかる」
ビビはにやっと笑う。
「じゃあ〜まずは圧の強い人から攻略だね〜」
アダラが即座に突っ込む。
「攻略って言うな」
ミリィはそのやり取りを真面目に聞きながら、小さく頷いた。
「では、シュプリムさんとの対話の場を優先で準備します」
そして、少しだけ表情をやわらかくして付け加える。
「できるだけ……穏やかに進むといいですね」




