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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第10章ー西大陸・カダブランカ篇ー
325/330

西大陸にとっての英雄ー

ベルは一度だけ息を整え、まっすぐにシュプリムを見る。


「シュプリムは、どうしても反対……ってことでいい?」


シュプリムは間を置かずに答えた。


「あたりまえだ」


その声には一片の迷いもない。


「英雄への足がかりを自ら捨てるなど……ありえない」


冷たく言い切る。


その言葉は、揺るぎない信念そのものだった。


ベルは静かに問いを重ねる。


「そのために、自分が死ぬことになっても?」


シュプリムは一瞬だけ目を細め――次の瞬間、鼻で笑った。


「死ぬ気はないが」


わずかに顎を上げる。


「もしそうなったとしても、私は英雄を目指したと、笑って死んでやる」


その言葉は軽くも強がりでもなく、ただ事実のように置かれた。


アダラの表情が歪む。


「シュプリム……おまえ、そこまで」


シュプリムは何も答えない。


ただ、まっすぐ前を見据えたまま動かない。


ベルはしばらくその姿を見つめていた。


やがて、小さく息を吐く。


「……これが西大陸ってこと、なんだね」


アダラは目を伏せ、小さく息を吐いた。


「そうだ……これが西大陸ってやつさ。良くも悪くも、な」


ゆっくりと顔を上げ、ベルを見る。


「他の大陸の奴らにゃわかんねぇと思うけど、私らはそういう考えで生きてる」


ビビが床に座ったまま、軽く手をひらひらさせる。


「だから〜子供を作ることに積極的なのも〜、他の大陸みたいに欲求だけ〜じゃないんだよ〜」


アダラは呆れたように眉をひそめた。


「ビビは半分は欲求じゃんか」


ビビはにへらと笑う。


「てへへ〜」


シュプリムが小さく舌打ちする。


「英雄になる、もしくは英雄を産む。どちらも大切なことだ。西大陸の人間にとっては、な」


その言葉は静かでありながら、揺るがない重みを持っていた。


ベルは少しだけ考えるように間を置く。


「それが、英雄タブラスカへの憧れってこと?」


その瞬間だった。


シュプリムの表情が一変する。


「英雄タブラスカ『様』だ!!」


怒号が室内に響き渡る。


「英雄様を呼び捨てにする奴があるか!!」


鋭い声に、空気が震えた。


ベルはびくりと肩を揺らし、思わず身を引く。


「ご、ごめん……!」


アダラは軽く手を上げて、間に入る。


「まぁまぁ、落ち着けって」


シュプリムを宥めながら、ふとベルの方を振り返る。


「でもベルも、ここでは発言に気をつけてくれよな。いきなり刺されても文句言えねぇよ」


その言葉は冗談のようでいて、どこか本気が混じっていた。


ベルは小さく肩をすくめる。


「お……覚えとき、ます」


アダラは肩をすくめながら、にやりと笑った。


「中央で西大陸の常識が通じないように、西大陸では中央の常識が通じないってこと。北や南も一緒だからな!行ったことねぇけど」


どこか軽い調子で言い切り、ニシシと歯を見せる。


ビビがじっとその顔を見て、しみじみと呟いた。


「……アダラも〜大人になったねぇ〜」


ベルは少しだけ目を伏せてから、シュプリムの方へ向き直る。


「たしかに……ごめんなさい。私も気をつけるね」


その言葉に、シュプリムはわずかに間を置いてから、小さく頷いた。


アダラはソファから立ち上がり、軽く伸びをした。


「とりあえず今日はこれで帰るけど、考えといてくれよな!」


シュプリムへと視線を向ける。


シュプリムは即座に首を横に振った。


「考えるもなにも、私は嫌だからな」


一歩も譲る気のない声音。


「例え隊長命令と言えど、私の生き方までは口を出されたくない」


アダラは肩をすくめる。


「強情だなー。ま、わかんなくねぇけど」


ビビがくすっと笑う。


「シュプは昔から変わらないよね〜」


「変わる方がどうかしている。あとその呼び方やめろ」


そう言って、軽く手を出す。


ぱし、と乾いた音。


「にゃあっ」


間の抜けた声が部屋に響く。


ビビは胸元を押さえて、むくれた顔をする。


ベルもゆっくりと立ち上がった。


部屋を出ると、静かな廊下の空気が流れ込んできた。


シュプリムは振り返ることもなく、そのまま別の通路へと歩いていく。


背筋を伸ばしたまま、迷いのない足取りで。


やがて、その姿は角の向こうへと消えた。


残されたアダラ、ビビ、ベルの三人は、しばらく無言のまま立ち尽くす。


アダラが小さく息を吐いた。


「……ま、ああなるよな」


ビビは軽く肩をすくめる。


「シュプだもんね〜」


ベルはほんの少しだけ視線を落としたあと、顔を上げる。


「……次、行こっか」


アダラは頷く。


「ああ。もう一人の方だな」


三人は歩き出す。


重厚な建物を抜け、西大陸の空気の中へと足を踏み出す。


次に向かうのは――もう一人の英雄核保持者の元。


重厚な建物を抜け、外の空気へと出る。


わずかに張り詰めていた空気が緩み、三人は並んで歩き出した。


アダラが前を向いたまま口を開く。


「次も同じ遊撃隊の、そっちは別の隊の隊長なんだよ」


ベルは少し驚いたように目を瞬かせる。


「やっぱりみんな軍隊関係の人なんだ?」


アダラは軽く頷いた。


「そうさ。ビビが例外なだけで」


ビビはのんびりとした調子で肩を揺らす。


「わたしは〜軍はムリだったから〜」


ベルはくすっと小さく笑う。


「自由すぎるから?」


アダラは一瞬だけ口を開きかけて――言葉を止めた。


「うんにゃービビは……」


そこで視線を逸らし、軽く頭をかく。


「ま、その話はまた今度」


了解です、そこ直します。



三人は重厚な通路を抜け、さらに奥へと進んでいく。


先ほどまでの騒がしさとは違い、ここは妙に静かだった。足音だけが硬い床に吸い込まれていく。


アダラが歩きながら口を開く。


「次も同じ遊撃隊の、そっちは別の隊の隊長なんだよ」


ベルは少し首を傾げる。


「やっぱりみんな軍隊関係の人なんだ?」


「そうさ。ビビが例外なだけで」


ビビは肩を揺らしながら、どこか他人事のように笑う。


「わたしは〜軍はムリだったから〜」


ベルは小さく笑みを浮かべる。


「自由すぎるから?」


アダラは一瞬だけ言葉を止める。


「うんにゃービビは……」


そこで視線を逸らし、軽く頭をかいた。


「ま、その話はまた今度」



そうして三人は、さらに奥の区画へと足を踏み入れていく。


やがて、ひとつの扉の前で足が止まった。


アダラが軽くノックもせずに扉を押し開ける。


中は静かだった。


薄暗い室内、窓際の椅子に、だらりと体を預ける影がある。


黒髪のショート。白い肌。眠そうに半ば閉じられた黒い瞳。


こちらを見る気配すら薄い。


「……あー」


気の抜けた声が一つ落ちる。


椅子の人物――アララン・アズールは、だるそうに視線だけをこちらへ向けた。


「姫、また面倒なの連れてきましたね……」


アダラはわずかに眉をひそめる。


「その呼び方やめろ、アララン」


アラランはゆっくり瞬きをして、気だるげに視線を戻す。


「でも姫は姫ですから……」



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