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【World Wide Love ― 魔王殺しと呼ばれて―】  作者: KK
第1章『その2人の名はベル・ジット』

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ージット村の見送りー

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※本作は、序盤は二人の旅立ちを丁寧に描く構成となっております。本格的なバトルや逃走劇は第3話以降から加速しますので、ぜひそこまでお付き合いいただけると嬉しいです!

ジット村。


小さな畑と、石造りの教会が佇む静かな村。


その傍らに建つ孤児院の前には、数人の子供たちが集まっていた。


年齢は六つから十歳ほどだろうか。


その瞳には不安の色が浮かび、


けれどどこか、眩しいものを見るような期待も混じっている。


子供たちは、旅装を整えた一人の少女をじっと見つめていた。


初めてこの村に現れた時、教会の鐘が鳴り響いた。


だから、彼女の名はベル・ジット。


この村で育ち、この村で名をもらった。


背中には小さな荷物。


首には、あの日と同じ真っ赤なスカーフ。


腰には赤いベルトを締め、その指には十本の指輪が静かに光を湛えている。


「ベル、本当に行っちゃうの?」


子供の一人が、縋るように小さな声を上げた。


ベルはその場にしゃがみ込み、子供と同じ高さまで目線を下ろす。


「うん。ちょっと、遠くまでね」


「すぐ帰ってくる?」


問いかけに、わずかな間があく。


「……ちゃんと、帰るよ」


ベルは笑った。


その笑顔には、いつもより少しだけ、自分に言い聞かせるような強がりが混じっていた。


教会の重厚な扉が、ゆっくりと開く。


そこから姿を現したのは、柔らかな金髪の女性だった。


くりくりとした髪に、愛らしいそばかす。


慈愛に満ちたその瞳の持ち主は、かつて村一番のお転婆と呼ばれた少女。


今は教会のシスターを務めるミーファ、二十一歳。


ベルと共にこの孤児院で育った、かけがえのない幼馴染だ。


ミーファは一歩ずつ、確かめるように歩み寄ってくる。


「……本当に行くんだね」


ベルはゆっくりと立ち上がった。


「うん」


二人の間に、一瞬の沈黙が落ちる。


共に野山を駆け回り、共に叱られ、共に涙を拭った日々。


積み重なった時間が、言葉にできない重みとなって空気に溶けていく。


ミーファは小さく息を吐き、大切そうに胸元から一通の封筒を取り出した。


清らかな白の封には、教会の証印が刻まれている。


「これ、持っていきなさい」


ベルがそれを受け取り、不思議そうに小首を傾げる。


「なあに、これ?」


「各地の教会への紹介状よ」


ミーファの表情が、シスターとしての真剣なものに変わる。


「私が昔いた王都の教会に、南の港町、それに山側の修道院……。


私の知り合いには、一通り連絡を入れておいたわ」

ベルは驚きに目を見開いた。


「えっ……」


「情報が欲しいなら、まずは各地の教会を回りなさい。そこにはアリス様の印が押してある。少なくとも、門前払いを食らうようなことはないはずよ」


ミーファは少しだけ、誇らしげに口角を上げた。


風が吹き抜け、ベルの赤いスカーフが激しくたなびく。


ミーファはさらに一歩歩み寄ると、慈しむように、ベルの額へ軽く指先を当てた。


「一人じゃないよ。この村も、私も。

私たちは全部、あんたの味方なんだから」


ベルの瞳が、熱を帯びて揺れる。


「……ありがと」


その言葉を合図にするように、子供たちが一斉に駆け寄ってきた。


「お姉ちゃん、行っちゃうの?」


「お土産忘れないでね!」


「帰ってきたら、また絶対遊んでよ!」


ベルは再び腰を落とし、子供たちの頭を順番に、優しく撫でていく。


「ちゃんと強くなって帰ってくるから。

それまでみんなで、この村を守っててよ?」


子供たちは、弾かれたように元気よく頷いた。


「ベル」


静かな、けれど通る声。


ベルが振り返ると、ミーファがそこに立っていた。


その声は、わずかに震えているようにも聞こえる。


「無理はしちゃダメよ。……でも」


一瞬だけ、かつてのお転婆娘だった頃の顔に戻って。


「帰ってくるって言ったなら、這ってでも絶対帰ってきな!」


ベルは、今日一番の笑顔で答えた。


「うん!」


そして、決然と村の出口へ向かって歩き出す。


背中に受ける子供たちの賑やかな声、そしてミーファの温かな視線。


見送る者たちの体温を、その背中に刻みつけるように。

ベルは一度だけ振り返り、大きく手を振った。


「行ってきます!」


始まりを告げるように、ジット村の教会の鐘が、

高く、清らかに鳴り響いた。

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