18)分かれ道
数日後、ヴァレンティナが王宮で仕事をしていると ベアグリルスに呼び止められた。
「ちょうどよかった、ヴァレンティナ」
「こんなところでどうしたの? ベアグリルス」
「探してたところだったんだ! 来週空けといてくれる?」
「え、休みの申請を出してるところなんだけど」
「悪いけど、こっちの仕事してもらうことになったから、はいこれ」
そう言って資料を渡されてしまった。見れば、外交資料だった。慌ててベアグリルスを呼び止めようとするももう姿はなく、とりあえず個室で資料を確認すると、王太子殿下との外交に婚約者候補兼事務官としてついていかないといけないことになっていた。
「どうしよう、これ辞令じゃない」
本当は来週、シノノメ領の貴族裁判所で申請をする予定を立てていた。
それというのも、法律関係の本を調べている時に、近くにいた人が雑談している声がきこえたのだ、その内容が各領内にもある裁判所で申請ができると言う話だった。
「今日は早退しよう」
もちろん、王宮の窓口で王妃様の謁見を申請は続けていたが全く回答が得られていない状態。いつでも遊びに来ていいと言っていたのは建前だったのだろう。
ヴァレンティナの手紙は誰にも届かない、当初は叔父の手で阻止されているか、それ以外の派閥の妨害だろうとも、情勢が落ち着けば、ちゃんと手紙が届くと信じていた。
だが、旅行先で見つけた新聞では、国内では知り得ない情報を得ることがおおかった、シノノメ領ではほんとんどの人が叔父が跡を継ぐことを認めていないということ。
そして、今年旅行先で買った新聞には向こうの文字で”シュジィウ・シノノメ とうとう捕まる” という見出しと共に写真がついていた。
王宮からは何も連絡がない。
シノノメ領が現在どうなっているのか、ヴァレンティナ自身わかっていなかった。だからこそ自分自身の目で確かめる必要があった。
急いで職場を出て、駅に向かった。シノノメ領まで列車でほぼ半日かかる。夕方の便のチケットを買い家戻って荷物をまとめると、また駅に向かった。休みの申請は諦めて明日、シノノメ領に着いたら電話を借りて病欠で休みの連絡を入れればいいと思いながら、電車に乗った。
始発列車なので人はそんなに乗っておらず、窓側の席で外の風景を眺めた。建物の屋根が過ぎ去っていくと緑豊かな平地へと変わる。
次の駅を過ぎれば、王都からでて隣の領地にはいると言うところで列車が緊急停止した。
「なに?」
ざわめく車内でヴァレンティナは窓の外を覗いて見れば線路の先で大木が倒れて塞がれており騎士や憲兵が集まっていた。線路が曲がってしまったのでこれ以上進めないらしく、乗客は全員下ろされてしまった。
そして全員の身分を確認されるなか、ヴァレンティナだけ扱いが違った。
「ヴァレンティナ様、候補者の段階で王都から出ることはできません」
「え? でも先日は旅行に」
「それは事前に通達されていましたよね。今回は何も連絡されていない」
「それは……」
「お戻りください、馬車はご用意しておりますので」
そう言われて無理やり馬車に乗せられてしまったのだった。カバンを抱きしめながら、用意周到すぎないだろうか? ただの偶然? そんな不安を感じながら深夜にアパートに戻ってきてしまった。
どうして自分の領地に帰れないのか、ずっと王妃様の言葉だと思って信じていたけれど、だんだんと疑心に包まれていた。
王宮内の派閥なのか、王妃様の考えなのか、殿下は知っているのか、色々悪い方向に考えてしまう。
「王妃様はご存じなのだろうか、それとも……。はぁ〜……今日休んじゃえばよかったな」
そしたら、辞令なんて受け取らずに休めていたかもしれない。
そんなIFを想像しながら、社交魔具交流紙面を開いた。シノノメ領について情報が落ちていない探すも、今年の作物の収穫が良かったとか田舎すぎて何もなかったという記事しか見つからなかった。
思わず自分のページで、シノノメ領への弾丸日帰り旅を思いつき列車に乗るも事故で戻されたと書き込んでいた。
***
列車の復旧はせず、ヴァレンティナは外交当日を迎えた。
アパートの前には迎えの馬車がきてヴァレンティナをそのまま駅まで連れて行った。
王家が移動するために用意された列車は、国旗がつけられ車両ごとに金の縁取りがされている。ヴァレンティナが車内に案内されるとドレスと服屋の箱が並んでいた。
「これは?」
「外交で着るドレスになります。箱に日付がかいてありますので、後日日付の日に着用してください」
「えっと、こんなに?」
「はい、ちなみに本日はトルソーに着せているこのドレスになります」
そう言って案内してくれた女性にほぼ脱がされ、着せられてしまった。
着替え終えると他の車両へと案内された、そこには殿下と側近たちが待っていた。
「ヴァレンティナ、よく似合っているよ」
「殿下、ドレスをありがとうございます。ですが、こんなに頂いては「リアリスからドレスを受け取ったそうだね」」
あんなにドレスは頂けないと苦言を呈そうとしたら、まさかのリアリスの名に固まってしまった。よく見れば側近の中にリアリスがいなかった。
「……友人として、お茶会に参加するのに恥ずかしくないドレスをご用意してくださっただけです」
「友人が用意したドレスを着れるのだから、私のも受け取れるよね。だって君は私の婚約者候補だ。だから私も君にドレスを贈っただけだよ」
”贈った”と言っているじゃないかと言いそうになってヴァレンティナは耐えた。今いる側近たちは、ヴァレンティナが親しくしていた幼馴染がいない状態だ。フォローしてくれる者がいない。
「……では遠慮なくお借り致しますわ」
「あげるよ。私が持っていてもしょうがないからね」
にっこりと微笑みながら殿下は隣の席を手で叩いて示した。本気かとおもわず周りの人たちに視線を送れば、皆逃げるように視線を逸らしてしまった。
「ヴァレンティナ、ここに座って」
とうとう名指しで指定されれば従わざるおえない、ヴァレンティナは諦めて殿下の横に座った。
「あの、私は事務官として仕事をしに来たと思っていたのですが」
「何を言っているんだい? 君は私の婚約者候補として、公務参加をしているんだよ」
「え”」
「書いてあったでしょ? もちろん、他の令嬢たちもすることになるだどうけど、外交は君の方が適任だっていう結論が出てね」
「あの、私外国語はできないですし、適任は才女と名高いヴィクトリア様が良かったのではないでしょうか?」
「彼女が来たら、確かに知識は申し分ない、でも彼女は接待はできないだろう?」
「それは……」
思い当たる節がありすぎて、何も言えなかった。確かに相手の説明を最後まで聞けるか怪しい、お茶会でのやり取りを見ている限り、殿下の前でエレオノーラ様と張り合う姿を見背てしまっている時点でアウトだろう。
「それでしたら、エレオノーラ様は」
「彼女は幼すぎるし、国外に連れて行くのは公爵家が許さないだろう。それに比べて君は一人で国外に出かけているし、資料では現地の人との摩擦も起こしていない。だから選んだんだ」
確かに、深層の令嬢を外交とは言え国外に連れて行くとなると警備の問題もあるだろう、だがなぜ一番候補として力が弱い自分が選ばれたのかさっぱりわからなかった。
窓の外では見送りに来た市民達が手を振っている。
「ほら手を振って」
殿下に促され、不安と共にヴァレンティナも外へ手を振ったのだった。




