17)公爵家のお茶会2
「……殿下がよろしいというのであれば。では、次はヴァレンティナ様にしましょうか、説明してくださる?」
すごく視線が痛い。雰囲気的にですよねーと思いながら、ヴァレンティナは持ってきた魔具の説明を始めた。
「こちらは、薔薇の形をしたオーパーツなのですが、ずっと学院街の魔具屋で埃をかぶっていたものです」
「オーパーツなのに?」
マリエッタが首を傾げながら、よく見ようと少し身を乗り出してきたので、見えやすいようにテーブルの真ん中に置いた。
「えぇ、なにぶん説明には”一人につき一度だけランダムで願いが叶う花”としかなく、効力にたいして値段がつけられない代物でして、私が学生時代に見た時はもう少し値段がついていたのですが、とうとうドレス一着分くらいまでに下がっていました」
「まぁ安い」
「偽物なのでは?」
「へぇー面白いね」
イベリーナ、ヴィクトリア、殿下の順に反応を示してくれた。
「店員ですら偽物だと思われていますが、品としては本物です。実は中に入っている魔石の粉末がとても古いです。解析魔術をかけた限り、200年前のもので、しかも花弁ごとに魔術式が込められており、魔素を流し込んだ際にどの花弁に魔素が流れるかで願いが叶うように作られているようです」
「解析をしたのか」
「解析といっても、学院で習った程度の解析方法です。専門家が見ればまた違うかと」
ヴァレンティナの説明に殿下は興味津々で薔薇のオーパーツを手に取り、陽に翳しながらクルクル回してながら魔術式を見た。
「あー読めそうで読めないな……真ん中のは……、これを作った者はかなり性格が悪いな」
「えぇ、一つの花弁だけ魔術式が読めましたが、運命率を上げるとされる魔術式で」
「運命率? そんなのを魔術で変えられるんですかぁ?」
「変えられるというよりも、妖精に魔素を提供して守ってもらう契約術です、ただし大量に魔素が必要なのでこの術を起動できる人は現代にはいないと思いますよ。マリエッタ様」
「なぁ〜んだぁ」
本当に残念そうにするマリエッタが可愛くてヴァレンティナは思わず笑みを浮かべた。
「では次は、マリエッタ様にしましょうか」
「はぁーい。私の魔具は、我がデュランス家所蔵の”知らせ鳥”という魔具で見ての通り飛びます」
そう言うと、鳥型の魔具に魔素を注ぎ込んだ。本物の鳥のように変わると上空を飛ぶだけでなく、この鳥は見たものを紙に書き起こすものだった。ただ、書き起こせる内容が手のひらサイズ分しかできないため、何のために作られたかは不明だそうだ。
次にイザベリーナが魔具の紹介をした。彼女が持ってきたのはやはり伯爵家所有の蝶々の形をした魔具で、短い音声を覚えさせ、聞かせたい相手のところまで飛んでいくと言うモノらしく、恋愛遊戯の魔具らしく、実際に魔素を送り込み「殿下にお会いできて嬉しいですわ」と囁くと蝶がひらひらと舞い始めた。
「美しいな。青い蝶か」
殿下が関心する中、蝶は彼の肩にとまった。殿下はニヤリと笑みを浮かべ、蝶が魔具へと戻ると手に取ってイザベリーナに返した。
「なるほど、これは確かに恋愛遊戯と言っていいな。これで楽しんだ恋人たちは多そうだ」
「ふふふ、楽しんでいただけて幸いですわ」
「どれも、何度も使えるものだな」
殿下はそう言いながら、まだ手に持っていた薔薇のオーパーツをクルクルと回しながら呟いた。
「……一回こっきりか」
「殿下?」
「ヴァレンティナ嬢は試したのかい?」
「いいえ、どのような効果ができるかわからないモノですから」
「そうか、魔素を流して、お願い事は口にしなくても良いみたいだな。ふむ」
そう言った瞬間、殿下は薔薇に魔素を流し込んだ。
魔素が流れるのに合わせて茎から淡く光り輝き、薔薇の花弁まで光らせると硬い素材のはずの魔具が黄金色の薔薇に変わり、花弁がひらりと一枚落ちると、文字が浮かび上がった。
「”あなたの願いは必ず叶う” か。これだけか?」
「殿下は何をお願いしたんですかぁ?」
「マリエッタ嬢、それは秘密だ」
「えぇー!」
「秘密にされると気になりますわ」
「エレオノーラ嬢も気になるのかい? 面白みのない内容だよ。平和を願っただけさ。ヴァレンティナ嬢もお願いをしたらどうだい?」
「いえ、私は結構です。魔素がたりないですから」
この薔薇のオーパーツ、何気に魔素の量がかなり必要なものなのだ。一応魔石が入っているが全然足りない。でも殿下の保有する魔素はかなりあるようだ。
「オーパーツなのは確かですわね。本物の薔薇のようになりましたし」
「そうですね」
「面白いものでしたわ、さて次は私になりますわね。我が家からは、オーパーツの懐中時計ですわ」
思わず身を乗り出しそうになってしまった。よく見れば、魔石が嵌っているし魔石の色的にもまだ使える状態のものだ。
「これは貴重な魔具だな」
「凄い! 時をいじる魔具ですね」
思わず殿下と一緒になって身を乗り出してしまった。
「えぇ、こちら見た目通り時を操ると言われている魔具ですわ、ただもう起動することはできないと言われていますわ」
「どうしてですかぁ?」
「時をいじる魔具は魔素の量をかなり消費するからよ。うっかり起動しようものなら干からびるじゃないかしら」
「ぇええ! いやですぅ」
「ヴィクトリア様の言うとおり、使用者にとって、とても危険ですの」
エレオノーラは自慢げに見せているが、時間関係のオーパーツは魔素を多く使う分、使用条件がかなり厳しいものが多い。時を止めてしまったり遡ったりすると言われているが、いまだにちゃんと起動できたものはいないと言われている。むしろ事故の方が多いとか。
ベタベタ触っているが誤動作しないか、見ているこっちはハラハラしてしまう。
「起動条件はなんだい?」
「ふふふ、殿下もお触りになりたいのですね」
「もちろん」
「代々我が家に伝わる魔具ですの、使用者はフィオレンティア家の血筋のみとしか書かれていないのですよ」
殿下が懐中時計を受け取り眺めている横で、ヴァレンティナも横から覗き込んで見てみた。懐中時計の裏には確かに”フィオレンティア家の血族のために”と書かれているだけで起動の魔術式も魔素を流し込むところしか見えないようになっていた。
何かでフィオレンティア家の血筋を調べる術が書かれているのだろう。とても気になるが流石に分解はできない。
「あ、これ文字盤も針も全部魔石でできています? もしかしてガラスではなく魔水晶?」
「なんだって? 文字盤以外もか?! もしや全部?」
思わず呟いた言葉は殿下にも聞こえて、入念に懐中時計を見はじめた。ヴァレンティナも触りたいが部外者が触った際にトラップが発動なんてこともあり得る代物だ。魔素が枯れるなんてことも過去にあったと言う話を聞かされたこともあった。
それに、こんな高級なもの落としたりしてき傷でもつけたら、恐ろしくて触れない。
「これはメッキではなく、砂金を混ぜているのかもしれないな」
「そのとおりですわ、殿下。素材は全て魔石で作られたと伝わっていますの。今では値段がつけられない代物ですわ」
「素晴らしいな。流石にここまで魔石で作られたものは見たことがない」
「ふふふ、殿下に喜んでいただけて僥倖ですわ」
殿下は目を輝かせながら時計を名残惜しそうにエレオノーラに返した。
そのタイミングで、殿下の従者が「そろそろお時間です」と声をかけられ、大きなため息を吐き出した。
「こんなに楽しそうなお茶会だと言うのに、私はそろそろ戻らねばならないようだ」
「まぁ、残念ですわ」
「とても有意義な時間だった、エレオノーラ嬢、貴重な魔具を見せてもらいありがとう。素晴らしかった」
「殿下も楽しんでいただけて幸いですわ」
軽く挨拶を済ませると殿下は去って行った。これ以上、令嬢たちのお茶会で成功できる人物はいないだろう。開き直って好きにお茶会を開ければ良いが、家の事情的にはそうはいかないだろう。プレッシャーはいかほどだろうかと、ヴァレンティナは自分の立場も忘れて思ったのだった。




