第6話「在宅勤務は既読監視地獄」
在宅勤務の朝。ノートPCを開いた瞬間、すでにSlackの通知が光っていた。
安藤「おはよ〜! 今日も忖度なしでよろしく! 在宅でもサバサバしていこ!」
まだログインすらしていない。なのに、監視カメラみたいに覗かれている気分だった。
私は深呼吸し、在席スタンプを押した。
【被害者ノート新ページ】今日のテーマ=既読監視。
午前九時半:既読チェック一回目
タスク一覧を整理していると、安藤からDMが飛んできた。
安藤「昨日の会議のメモ、サクッとまとめて? 1時間以内でw」
“サクッと”が地雷ワードなのは周知の事実。
「了解です」と返すと、すぐに既読マークがつく。……と思ったら、数十秒後にまた通知。
安藤「返事早っ! 助かる〜! やっぱ在宅監視してると違うねw」
——監視って言っちゃったよ、この人。
私はノートに正の字を一本足す。【既読監視発言:1】
午前十時:グループチャンネルでの騒動
#プロジェクト進行 チャンネルに、私が議事録をアップした。
その直後、安藤がスタンプを連打。
「**田中、仕事早い! いいね! **」
と公開称賛をしつつ、続けてこう書き込む。
「でもこの部分、弱いかな? 忖度なしで言うけど。愛のダメ出しね!」
——やっぱり出た。愛のダメ出し。
チャネルに沈黙が流れる。既読数だけが増えていく。
数分後、開発の寺内さんが恐る恐る返信した。
「……修正検討します」
安藤「さすが! 返事早い人は仕事できる!」
返事が遅ければ「既読無視?」と責め、早ければ「監視で褒める」。
これはもう双方向地獄だった。
午後一時:ランチ監視
昼休み。私はコンビニのサンドイッチをかじりながら、スマホを伏せた。
するとPCの画面にDM通知。
安藤「田中、ランチ何食べてる? 既読つかないけど、無視?」
——いや、今サンドイッチ噛んでただけだから!
慌てて返事する。
私「ツナサンドです」
安藤「いいね! でも炭水化物多くない? 女子は体型管理大事だよ! 愛を込めて忠告ね!」
胃に詰まったツナサンドが急に重くなった。
私はノートに記す。【ランチも監視対象。愛の皮をかぶった栄養士ごっこ】
午後三時:既読監視バトル
タスクに集中していると、またもやDM。
安藤「このファイル見て? 既読まだ?」
既読をつけると、即座に次の通知。
安藤「既読ついた! で、感想は?」
私はため息をつき、返事を打つ。
私「修正点、良いと思います」
安藤「だよね〜! やっぱ既読と反応はセットでしょ!」
既読=義務反応。そんなルール、いつ制定されたのか。
私は机に突っ伏し、心の中で“在宅既読警察”という新たな肩書きを安藤に授与した。
午後四時半:逆襲の木下先輩
そのとき、総務の木下先輩から全体宛にメッセージが来た。
木下先輩「皆さん、在宅時のレスポンスについて。即時返信は必須ではありません。内容を確認し、必要なときに返せば十分です」
静かだが重い一文だった。
チャンネルに“了解しました”の返事が並ぶ。
安藤もスタンプを押したが、すぐにDMが飛んできた。
安藤「……先輩、ちょっと冷たくない?」
私「むしろ優しいと思いますけど」
安藤「うーん、でも私、即レスが愛情表現だと思うんだよね!」
——いや、それは恋愛じゃなくて業務だから。
夕方五時半:最終ラッシュ
定時前、タスクをまとめていると、また安藤の通知が。
安藤「今日のまとめ、サクッと送って! 既読3分以内ねw」
私は一気に文章を打ち上げ、送信。
安藤「おお、早い! 田中って私のこと好きでしょw 既読早いもん!」
……もはや監視の先に恋愛妄想が追加された。
私はノートに書き殴る。
【既読監視→義務反応→愛情表現に進化。人類の退化を目撃】
終業後のSNS
業務終了のチャイムと同時に、社内SNSに安藤が投稿した。
《#在宅あるある》安藤:「既読つくの早い人=私の味方! 遅い人=既読無視犯! 忖度なしで言うけどw」
コメント欄に誰も反応しない。スタンプもゼロ。
画面の中の安藤は、初めて“既読”を得られない孤独に包まれていた。
翌朝の後日談
翌朝、出社した安藤が私にぼそりと呟いた。
「昨日、SNSの投稿、既読ゼロでさ……。ちょっと寂しかった」
私は頷く。
「……それが普通ですよ」
「でもやっぱ、サバサバって寂しがらないものじゃん? だから言わないけど」
言わないけど、もう言ってる。
私はノートを開き、最後にこう書き残した。
【在宅勤務=既読監視地獄。サバサバ詐欺女、ついに“既読ゼロ”の孤独を知る】
次回予告
第7話「謝罪は“サバサバ風ドヤ顔”」
トラブル発生! 安藤が謝罪を担当することに。しかし彼女の“サバサバ謝罪”はなぜかドヤ顔。果たして火消しどころか炎上は避けられるのか?




