記憶2
お母様、お父様、ユウタが部屋から出ていてから、私はずっとさっき思い出した記憶を考えていた。
(言わなくてよかったよね……。)
この神界は、天国のようなものだ。人間界で全力で人生を終えた人たちはこの神界で自由に暮らせる。
そして現在、神界を守ったり、管理するのが神一族であり、その神一族をサポートするのが、おもに私の家系──チェーロ家系とソラーロ家系の二つの家系で成り立っている。
ソラーロ家系については、正直あまり知られていない。もし詳しい人がいるなら、教えてほしいくらいだ。
それでも、不思議と“懐かしさ”だけは胸に残っている。
なのに、思い出そうとすると胸が苦しくなる。
誰かが、私の記憶の奥に“鍵”をかけたみたいに。
名前を聞くたびに、心の奥がかすかに疼くのだ。
それに、自分でも記憶のことについてはよく分かっていないし、今までは、神界で生まれたその瞬間に、記憶が一気に押し寄せてきた。まるで身体に一気に血が通うように。
でも今回は、夢という“誰かの記憶”の中で、じわじわと滲むように戻ってきた──そんな気がしていた。そのことに引っかかりを覚える。
◇◇◇◇◇◇
この神界にも、ルールがある。私たちは、それを“掟”と呼んでいる。
その中の内容は絶対に守るとされていて、具体的には下のような感じだ。
【神界の掟】
一、人界にて正しく生を終えし者のみ、此処へ至るを許すこと。
一、神界に住まう者は、己の心に従い、自由なる生を謳歌すべし。
一、他者を傷つけ、秩序を乱すことを禁ず。
一、家族の縁は生死を越えて続くものとする。
一、神界の記憶は、すべての生を越えて継がれるものとする。
一、神界にて命を終えし者は、再び人界へ還ること。──輪廻の理、ここに在り。
こんな風に書かれていたはず。覚えているのは、これくらいだけど。
でも、覚えている通りであったら、やっぱりおかしい。
……私は、いつ記憶を思い出した?あの夢の中?それとも──
頭の中に渦巻く“違和感”だけが、確かにそこに残っている。
考えれば考えるほど、霧が深くなっていく。
……まるで、誰かが意図的に“思い出させまい”としているかのように。




