亀が喋った
田舎の畦道を自転車で漕いだことがあるだろうか?
足場が悪く漕ぎ辛い、と思われるに違いない。
けれど実際に走ってみれば分かるが、そんなことは無いのだ。
農機具がその上を走るので、ゴツゴツした石なんかは割としっかり取り除かれている。
アスファルト方が走りやすいというのは頷けるが、僕のような健康な男子高校生にとって、少しくらいペダルが重いなんてのは負荷と言えない。
懸念されるデメリットはこれにて解決ということで良いだろうか。
つまり何が言いたいのかというと、僕は【畦道が好き】だということである。
畦道の良さとは何か。
そう、それは景色だ。
僕の家の近所には、400平方メートルに渡る田園が広がっており、僕は今そこを走っている。
遥か遠くに見える青空と、どこまでも続く開けた田園の一面の青々しさに、どうしても心がうずうずとしてしまうのだ。
(ああ、夏が来たな)
じめじめした暑さによって、吹き出る汗の不快さを感じつつも、吹き渡る風の恩恵を受けて、涼しさを感じられるのは嬉しい。
母親から近所のスーパーへとお使いを頼まれて、渋々家を出た僕ではあったのだけども。
そんなことを考えていると、物凄い衝撃と共に体が浮き上がった。
どうやら、畦道に石が埋まってたのを思い切り踏んづけたようだ。
やはり、訂正しよう。
僕は畦道が嫌いだ。
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丁度前宙一回転して背中から地面に叩きつけられた僕は、仰向けになって雲を見ていた。
同じく仰向けになった僕のママチャリが、”しゃー”と車輪を空回りさせている音が聞こえる。
頭を打ち付けることがなかったのは、良かった。
もしかすると体育でやった柔道の受け身が役に立ったのかもしれないし、そんなことは全く無かったのかもしれない。
しかし、これが舗装された道路であれば、もっと被害が出ていたと考えるに、まあ畦道で良かったと言えなくもない。
「いやーすいません。何だか、ご迷惑をかけたみたいで」
突然声が聞こえて、僕は驚いた。正に青天の霹靂。
僕はムクリと上体を起こすと、辺りを見渡した。
しかし困ったことに、人っこ一人見当たらない。
「ここです、ここです。あ、もうちょい下です」
僕が声のする方に目を向けると、そこに居たのは亀だった。
「いやー、びっくりしましたよ。いきなり甲羅の上をドスンと衝撃が走ったもので」
いや、青天の霹靂どころの話ではなかった。では何なのだ、と言われても答えには窮するが。
「亀が喋ってる」
僕は状況を口に出してみた。
僕なりに事態を把握してみようという試みの第一弾ではあったが、効果は期待できなかった。
だって亀は普通喋らないのだもの。
「おっ、お兄さん。もしかして私と喋れる感じですか?」
「多分、そうかもしれない」
「今どき珍しいですな。私どもと喋れる人間は」
亀は”はっはっ”と高らかに笑った。
僕はどうしたものかと、亀を見つめた。




