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月の綺麗なこんな夜に  作者: 本の樹
終章
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駆けるは黒き風 (5)

その日アステル国からゲール公のネスターゼ領とネリウス公のアルヴァタイン領が消えた。


土地は一時的に王女改め女王のセレーネが治め、ことが落ち着いてきた頃に此度の戦で活躍したベルナに分配される事が決定し、土地はゲール公の治めていた地域が分配される事になった。


カタストル城から遠い場所に土地を得ても嬉しく無いベルナは、加えてセレーネと一定期間毎に会談(逢瀬)を行う事を申請し仕方無く受理された。


王国騎士団とカタストル兵団には女王による給料の引き上げとボーナスが約束され、戦を終えた猛者達は皆ほくほく顔で決定に同意した。


戦いを終えた連合軍は解散となり、ベルナとデリウスは別れを惜しみつつカタストル領へと帰って行った、帰る間際に俺を黒姫と呼んでいたが何でも兵団の中で広まっているらしい‥‥勘弁してくれ。



エヴァンとザブとゴブは何故かセレーネのお抱え傭兵として雇われ、城内をある程度自由に動いていい権利とささやかな給料を得ることが決まった、ザブとゴブは納得しているが、エヴァンは給料の引き上げを要求しスルーされているらしい。




俺とセレーネは‥‥‥‥




王国騎士団と共にセレーネ達一行は王都に凱旋した、反乱軍に襲われた筈の王都は王城こそ所々が崩れているものの街並みに変化は無く新しい国の主の帰還と勝利に湧き上がっていた。


どうにか結城達が城へと辿り着くとすぐにセレーネは、城の生き残りに城の修復作業や今後の役職に誰がつくかについての話し合いの為に連れて行かれた。




セレーネを見送った結城はどうしたものかと城の外を彷徨っていた、城内は門番が邪魔で入れなかったからである、そんな時であった。


「そこの貴女こんな所で何をしているの!?」

彷徨っていた俺に怒鳴りかけてきたのは齢五十は越えているであろうお婆さんであった。

ゆったりとした足元まで覆う黒いロングスカートに、簡素であるがどこか優雅さを感じさせる黒い服を纏い、その上から背中以外の全身を覆う白いエプロンスカートを着ている、つまりはメイドか侍女の服装である。



「全くこんな人手が足りない時に油売って!貴女はどこの所属ですか!?」

「あの、俺はセレーネの‥‥‥」

「まぁ!姫様のお付きなのにこんな場所で遊んでいたの!?着替えは私が準備してあげるから早く手伝いなさい!」

お婆さんに手を引かれ城内へと入ってしまった結城は、この時ばかりは自分の見た目を後悔していた。




見た目と歳に似合わないお婆さんに怒涛の如く責められ、結城はあれよあれよの間に同じ侍女の服に着替えさせられていた。


「貴女は姫様のお付きでしたね?なら姫様が会議を終える前に部屋を掃除してしまいましょう、貴女はまだ慣れて無さそうですし私の手伝いをお願いします」

「‥‥‥はい」

流されるままに雑巾とハタキを持たされ、結城はセレーネの部屋へと連れて行かれてしまった。


「私は新しいベッドカバーを取って来ます、その間に窓際の掃除をお願いします」

「あのお婆さん‥‥」

「良いですね!?」

「はい!」

お婆さんに凄まれてしまい思わず返事をしてしまった結城は、お婆さんを見送ると窓際の掃除を始めた。


「何で俺はこんな事をしてるんだろうな?」

窓際を雑巾で拭きながら呟いた声は1人には広すぎる部屋に消えていった。


雑巾で拭き続けているうちにだんだん掃除が楽しくなって来て鼻歌を歌い出した。


そんな時であった。


ガチャッ


部屋の扉が開いた。






少し前の頃セレーネは会議で報告を聞いていた。


「城は外壁の一部と城の一角を打ち壊され現在修復作業中です、城内は資料室が焼き払われてしまい修復は不可能の状態です。」


「やはり古代魔法に関する書は失われてしまったか‥‥、他に被害は?」


「はい、宰相と城内に滞在していた大臣が計7名処刑されました、城内の戦力では抵抗は出来ませんでした、‥‥申し訳ございません。」


「気にするな詮無い事だ、報告は以上だな?各々伝えた通りに仕事に取り掛かれ」


「承りました」



会議を終えた生き残りの大臣達を置いて会議室を出たセレーネは自室へと向かった、長旅と闘いそして会議で疲れていたから休もうと思ったのだ、しかし‥‥‥


「そういえば結城を置いて来てしまったな、探しに行くか‥‥‥」

城の者は結城を知らないだろう、つまりは城の中に入れず外にいるはずだ、そう判断し城の入り口へと疲れた体を引きずりながらセレーネは歩き出した。




「これは姫様!如何なされましたか!?」

突然のセレーネの訪問に仰天の門番が声を裏返しながら尋ねた。


「そう固くなるな、ただの人探しだ」


「はっ、どのような御人でしょうか?」


「ふむ‥‥‥」

彼?彼女?を何と言い表せば良いだろうか?


「見た目は小さな娘だが、言葉遣いは男のそれで、黒髪に黒い眼をしている」


「黒髪の女の子なら女官長が城の中に連れて行きましたよ」


「婆やが?他のメイドと間違えたのかな?」

結城は見た目は城内によくいるメイドと大差無いだろう、おおかた婆やに押し切られてしまったのだろうな。

婆やの事だから私の寝室を掃除しているだろう、婆やは私が居ない間によく掃除していてくれたから、そんな事を考えながら門番に礼を言い正門を後にした。




私の寝室は無駄に広い、私が5人横になっても問題無いベッドが部屋のど真ん中にあり、その周りは同じベッドが2つは入る余裕がある空間がある、私が素振りをするのにはちょうどいいが壁際の無駄に豪華な調度品がそれを邪魔する、婆やはよくそんな無駄だらけの部屋を掃除してくれるのだ、素晴らしい手際だろう。


そんな事を考えながら寝室に着いた私は、中に誰も居なければ次はどこに行こうかと考えながら扉を開いた。


ガチャッ


部屋の中はカーテンが開かれ明るい光を広く取り込んでいる、そんな光の中に結城はいた、‥‥‥‥雑巾を持った侍女の服装で。


「‥‥‥婆やが迷惑をかけたな」


「気にするな、これはこれで悪く無い」


「メイド服が気に入ったのか?」


「誰が好き好んで女装するんだ!?」


「今は女だろう?問題は無いはずだ」

確かに女が女装するのに問題は無いだろう。

うっ、と黙り込んだ結城を見てセレーネは考えた。


結城はこれからどうするのだろうか?

ニホンに帰る方法が見つかるまでここにいるらしいが何処で働くのだろう?


考えた末にセレーネは答えを出した。




「結城、私の侍女にならないか?」




「何で侍女なんだ、護衛でも良いだろうが?」


「他の者では刺客の可能性が出てくるけど、結城ならそれは無いし護衛としても最高だ」


「俺は侍女の真似事なんて出来ないぞ?」


「それなら婆やが教えてくれる、それにどうせなら結城とは近くにいたいんだ、ずっと堅苦しくしているのもキツイから息抜きに話す相手が欲しいんだ、侍女ならばぴったりだろう?」

懇願するような命令するような何とも言えない顔でセレーネが迫る。


「俺はいつかニホンに帰るだが‥‥‥」


「帰るまでの間で良いんだ、頼む!」

そういうとセレーネは頭を下げた。


「一国の主がそう簡単に頭をさげるんじゃ無い!」


「しかしこうでもしないと断りそうだったから‥‥」


「ッ‥‥‥ああもう!分かったよ!侍女でもメイドでもやってやるよ!」


「すまないな‥‥結城、ありがとう」

セレーネは静かに微笑んだ、それを見て結城もしかめていた顔を戻した。


そんな場所に突然の割り込みであった。



「その前に言葉遣いを直しませんとね」

声の場所にいたのはベッドカバーを取りに行ったお婆さんであった。


「婆や!元気だったか?」


「まだまだ死にませんよ、それよりもそこの娘、名前は?」


「結城渡会だ、これからよろしく頼む」


「渡会だね分かったよ、話は聞かせてもらったよ、私が立派な侍女にしてあげるよ、それにしても言葉遣いが酷いね、どうしたものか‥‥せめて人前では侍女らしくしないとね」


「確かにそうだな、‥‥‥じゃあそのうち何か罰でもつくろうか?」

「勘弁してくれ‥‥‥」

悪い事を思いついたような顔になったセレーネに結城は額に手をやりため息を吐いた。


「フフッ、二人共お疲れでしょう?お掃除が終わったらお茶にでもしましょうね」

それを聞き喜ぶセレーネに対して、掃除の後と聞いてげんなりした結城、それを見て微笑む女官長、今この時は皆嫌な事は忘れ幸せであった。







さて…ここまでこの出たとこ勝負な小説を読んでくれてありがとうございます!




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