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第98話 殿

 ハロハルハラと協力して亜人の混成軍と戦うために、整備された舗装路を最速で駆け抜けていた。自然と後陣が歩兵、先陣が騎兵となり、陣が伸び切っていた。

 異変を感じたのは斥候させていたダークエルフが戻ってきた時だ。半島に来てから仲間になり、身軽で頭の回転が速いために重宝していた。

「何かあったか。モルガン」

「報告します」

 俺は馬に乗ったまま速度を緩めず、モルガンは並走しながら喋った。

「左方向に百程の伏兵有り、敵はゴブリンです」

「分かった。機……だな」

 俺は頭の中で算盤を弾いたが、後方からのざわめきに計算を崩された。遥か後方で土煙が舞い上がり、悲鳴が波のように伝わってきた。

「モルガン、騎兵五十をやる。伏兵を殺して来い」

「はっ!」

 モルガンは頷くと、レッドが選定した50人を連れて道から外れていった。

「レッド」

「なーに?」

「俺の代わりに指揮を取れ」

「うん、わかったー」

 無理を言っているのに、簡単に引き受けるところがレッドの良い所だった。レッドは常にバロンに乗っているので怪我一つしていないが、誰一人傷つけてもいなかった。兵たちが言うことを聞くか少し心配だが、他に頼めるのがいないから仕方が無かった。

「しばらく進むと開けた場所に着く、そこまで一目散に逃げて、騎兵は広場で左右に分かれて後方からの軍を迎え撃て。歩兵は真っ直ぐ進んで反転させろ」

 歩兵は騎兵よりも軌道修正が遅いので、騎馬が敵兵の勢いを抑え付けている間に反転することとした。

「ぷーちゃんはどうするの?」

「俺は殿しんがりだ」

 神速の反応、愚鈍の反応、どちらが正しいかは状況に寄るが、今回は神速の反応が正しかったようだ。俺は馬を反転させて、槍を担いで部下たちの間を走った。激励の言葉をかけながら、戦意が喪失しかけた精神を鼓舞させた。

 ハロハルハラと違って、俺の部下たちは寄せ集めだった。最初はフィオナと言う宗教に集まる連中が多かったが、半島外の勢力の出現が俺たちの軍を強化させた。

 途中から集まってきたのは生まれ育った大地を愛している連中だった。

 まあ……大地の愛国者パトリオットといえばいいのだろうか――モルガンもその中の一人だ。大地の愛国者パトリオット其処そこを愛している。理屈ではなくその場所が好きなのだ。

 だから強い者の傘下に加わるのだ。

 それが、俺。

「武器を捨てずに走れ! 後ろの連中は俺が救う!」

 縦に伸びきった陣の中間ぐらいに輿に担がれているフィオナがいた。布越しでよく見えないが、アイビーに懸命に話しかけているように見えた。

 俺は近くを通り過ぎて、

「ここが転換点だ! 腹を括れ!」

 俺の一喝に、フィオナは吹っ切れたようだ。

「全員聞いてっ!」フィオナの声に兵士たちが一斉に顔を向けた。

「敵はゴブリン王! 残念ですが……彼は私たちを裏切りました! 突然の出来事に、皆さんの中には迷っている人もいるかも知れません!」

 兵の中にゴブリンも多くいた。

「ですが、私たちの敵はゴブリン王です。決して……ゴブリンではありません」

 俺はフィオナの声に押されるように馬を走らせた。

 兵士たちの間から色々な悪口が沸き上がってきた。

「あの国王はケチで、王族とは思えないほど貧相な服装をしている。アレを王と思いたくない」

「王国内の料理は豪華に違いない、俺たちには食料を碌にくれないのに。わざと俺たちを苛め抜いて、最後の最後に良い所だけを取る気なんだ」

「あの顔が嫌いだ。見ているだけで、吐き気がしてくる」

「陰険な野郎だ。後ろから攻撃するなんて」――この悪口には笑ってしまった。

 馬をさらに走らせて後陣に辿り着いた。後ろから奇襲をかけてきたゴブリンが、俺の部下のゴブリンに後ろから斬りつけていた。俺は槍を投げて敵ゴブリンを貫き殺して、味方を救出した。

「傷は浅いぞ」

 斬られたゴブリンはヒーヒー言いながら駆けて行った。強すぎる武力は味方をも恐怖させることがある。物事には全て良い面と悪い面があるものだ。

 俺の出現に後ろから追いかけて来ていたゴブリンたちが怯んだ。

 俺は槍を死体から抜いて、血を払って大地にシミをつくった。馬首をかえして馬を先に進ませながら、俺は上半身だけを振り返り槍を持って構えた。

「おい、キビキビ走れ」

「はっ、はい」

 俺の部下は俺の出現に勇気を得たようで、味方の死を忘れて走った。

 俺は何度か後ろを確認して、ゴブリンたちを威圧した。

「おい、貴様ら……俺たちを虐殺しに来たのでは無いのか?」

 俺の声に引き寄せられるように、ゴブリンが向ってきた。一……顎を飛ばして、二……頭蓋を陥没させ、三……腹を貫通させ、四……下半身を抉り、五……腕を切断してetc……。

 死体の山ができ、ゴブリンたちは戦意喪失しきった。

「愚か」

 開けた場所まで俺はゴブリンを抑えきり、反転した騎馬でゴブリンたちを一掃した。しばらくの間、仲間同士だったのもあり降る連中も多かったが、抵抗するのも多くいた。

 俺は騎馬と一緒にゴブリンを殺していると、伏兵を全滅させたモルガンが戻ってきた。

「報告っ! ハロハルハラから手紙がっ」

「貸せ」

 俺は目の前のゴブリンを吹き飛ばして、手紙を読んだ。


『そちらへ亜人の半数が行きました。兵は割けないので頑張ってください。うふふっ。こちらの始末がついたらそちらへ向います』


「ど畜生っ!」

 俺は手紙を地面に叩きつけて、槍を片手に馬体の上に立った。手綱を自由に操り、雄たけびを上げながら、再び軍の後方へ走った。

「きえええええええっ!」

「プーちゃん、どうしたの?」

「全軍……ゴブリン国の首都へ突撃だっ! 俺は後ろの連中を抑えてくる」

 俺はブンブン槍を振り回して、猿声のような雄たけびで味方を鼓舞した。二度続けての後方からの攻撃は気が滅入るものだ。

 蛮勇を示して、軍に背骨を与えよう……。

 だが俺の二度目の殿しんがりはなかなか厳しいものとなった。

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