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第25話 眷族

 アルルが率いる山賊たちが橋作りを妨害している理由は、侠客たちを滅ぼすためだった。この山賊たちは近隣の村人たちで構成されており、侠客から搾取される立場だった。いや、それは今も続いている。

 侠客たちが斡旋している人々の中には近隣の村人もいて、働かせるだけ働かせて天引きが酷かった。直接仕事を貰おうとしても侠客たちに妨害にされ、大怪我をさせられた人たちも多かった。だが大怪我ですめば良いほうで、何十人も殺されていた。

 橋の建設には資材の調達が不可欠のため、橋の建設だけではなく資材調達まで侠客どもがやっていた。近隣の資材を威圧して安く買って、作業員として働かせようとしても天引きをして、反感のきざしを見ると暴力で叩き潰した。支配するものは肥え続けて、搾取されるものは果てし無く痩せた。

 最初に逆らったのが、アルルの恋人だった。将来を約束しており、数年後には結婚するはずだったが、侠客に逆らったため殺されてしまった。彼は箱に入って村に帰ってきた。箱の中には人形をふざけてバラバラにしたような遺体があった。中身を見た村人は恐怖で気を失い、吐く人間もいた。彼は正々堂々と話し合いの場を作り、相手の本拠地に堂々と足を運んで、無残にも殺された。勇気を見せなければならない――彼はそう言ったが、見事に裏切られる形となった。

 ユーリは別の場所で暮らしていて、その場にはいなかったそうだ。だが、彼女の姿を見たものは怒りを見て、彼女に付き従うことになった。

「必ず……殺してやる」

 彼女は体の一つずつを運んで、墓場へと運んだ。彼の祖先の墓場に無残な死体は似合わなかったかもしれないが、アルルはスコップで掘って埋めたそうだ。

 墓場から戻った彼女は、恋人の馬が悲しそうに鳴いているのを見て、その手綱を取って背に乗った。沈みかえる村人達を見て、怒りをぶつけた。

「お前らはここまでされて黙っているつもりか!」

 恐怖が村中を支配していた。

「私は奴等を必ず殺す」

「女のお前がっ……」

「この中で、私の恋人に触れることができた男がいるのか?」

 その一言で村人たちは黙ってしまい、若い男たちがアルルに従い始めた。山賊達を繋いでいるのはアルルの怒りだ。烏合の衆はアルルが死ねば、自分たちの怒りの矛先が分からなくなり離散してしまうだろう。

 その時の馬がバロンだ。バロンは幼い頃に拾われたユニコーンであり、一角は斬られたため無いが、力はそのまま持ち続けていた。だから俺の攻撃を避けれたようだ。

 ナカナカやる馬だ。

 ここまでの話もよどみなく、人間の言葉を完全に理解しているようだ。


「お前の匂いを辿ったのだが、迷惑だったか」

「いいや、だが俺には治療する手段は……」

 アルルの傷は片目を十字に切られていたが、深くは無かった。こんな傷を俺に持ってきてどうするつもりなのだろうか、医者に行けば良い――と思ったが、この服で行けば山賊とバレて、よけい酷い目に会うことになるだろう。

「これは教団の女にやられたか?」

「わかるのか。侠客を狙ったのだが、小さい女にやられたんだ」

 俺の母親もこの場所に来ているのか。

 そうなると、ダルシャンが狙っているヘドウィッグも義母のミナも来ていそうだった。教団が侠客を守るのは、善悪関係なく橋の建造を急いでいるからだろう。本心では癪に障っているだろうが、役に立つものは使う。清濁を飲み込めなければ、この世の中は渡ることができない。教団の連中は分かっているようだ。

 だが、そんなことは関係が無かった。

 俺は支配者の経験があるが、今は違う。

 支配者の言い分なんぞ、俺には知ったことではない。


「替えの服はあるのか?」

「いいや、持って来ていない」

 俺とレッドの服では小さすぎる。だが、迷っている暇は無いだろう。俺とレッドはアルルの服を脱がせて、裸にして外套を巻きつけた。俺はアルルを抱えて、走り出す前に、バロンとレッドに言い残した。

「何かがあるかもしれないが、その時は絶対に来るなよ」

 俺は樹の枝を蹴り飛びながら、闇夜を疾走した。灯りがついているのは酒場や宿だけで、俺はダルシャンの行きつけの店に飛び込んだ。一日中入り浸っているのか、酒を飲んでいた。

「どうした? 急いで」

「医者を知らないか」

 ダルシャンの使用人が通りに指差した。ここで住んでいるだけあり、地理に詳しかった。俺は急いで走り、扉をねじ切って道具を片付けている医者に治療させた。

 薄明かりのもとで見るアルルの身体は女性的だった。丸くて、柔らかそうで、バロンに乗って自由自在に剣をくりだす女傑にはとても見えなかった。俺の推測どおりに、人馬一体の主はバロンだったのだろう。

「眼球を切除した方が良い。このままだと、他の部分も腐れてしまう」

「駄目だ」

 今まで黙っていたアルルは医者の腕を掴んで引き寄せた。

「あの人が、私の眼を、美しいと言った、だから駄目だ」

「しかし……」

 この場所の医者の実力は眉唾物だろう。だから、手っ取り早く切除したいのだろう。

「絶対に駄目だ」

「手の施しようが無いな」


「お前は、欲しいのか?」

 俺の口から言葉が漏れた。

 力が弱体化していたので、最近出てこなかった祖が久し振りに現れた。

「肉体を破壊されても回復する体が欲しいのか?」

「君は……」

「良いから答えろ、欲しいのか?」

「ああ、欲しい」

「お前の人間性が消えたとしても、絶対に後悔しないか?」

「……しない」

 医者は俺の顔が変貌するのを見て、驚いて気絶してしまったようだ。俺の体は大人の女性になり、周囲に豊饒を振りまくような妖艶さだった。

「この世の終わりまで苦しむことになっても良いのか」

 アルルは迷っていたが、頷いた。

「ああ、平気だ」

 俺も祖と同じような会話をした。祖は吸血鬼にさせる連中を選ぶが、最終的には自由意思に基づいて吸血鬼化させる。

 思い出した。

 俺も吸血鬼になる事を選んだ。

 自分の意思で。

「なら捧げろ。お前自身を、お前は神への供物だ」

 祖は指を噛み切り、血を流した。

「捧げるなら、飲むが良い」

 アルルの口が開き、祖の血が口に落ち、どんどん溢れていった。喉が鳴り、体の中に吸血鬼の血が侵入していった。大きな化物が入ったように、内臓が膨れ上がり、皮膚の表面に浮き上がった。脈打つように、皮膚が赤くなっていた。アルルの片目は途端に治り、ギラギラと眼が輝かしながら立ち上がった。その身体は吸血鬼に変貌していた。

「凄い力ですね。プレスター・ジョン様」

 昔の俺の名前を、アルルは言った。プレスター・ジョンとはキリスト教で古来より信じられていた東方に王国を築いた王の名だ。俺の名前と一致したのは偶然だろうが、伝説の名前と一緒なのは何かの縁があるような気がしている。

「俺の意思ではない」

 祖が勝手にしたことだ。

 彼女は昔から恋をする女に弱い――とたんに優しくなる。

「生まれ変わったようです……」

「自分のしたいことをしろ」

「はい」

 アルルは闇夜を飛び上がった。俺と違って血を飲んでしまったので、彼女は太陽から存在を拒否されてしまう。その説明すら要らないだろう。彼女の中には祖がいるので、彼女が色々と教えるはずだ。

 ユーリには言えないな……。

 俺は溜息をつきながら、レッドとバロンのもとへ戻った。

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