1-7 元引きこもりは異世界でいきなり勝負することの意鳴る
「魔法の授業はどうする、シェイド?」
「はい?」
イグニの質問の意図が分からず、俺は首を傾げる。
だが、すぐに察することができた。
【闇属性】と判明したことで普通の授業を受けることができないのかもしれない。
シェイドの記憶からもそう考えられる。
「先生もお前に教えるのを拒否するだろうな」
ゼーロが馬鹿にしてくる。
彼の言う先生とは、家庭教師として二人に指導している人物のことである。
公爵令息相手に家庭教師をできるので、優秀な人物である。
だが、優秀であることとまともな人物であるかは別の話である。
シェイドの記憶の通りであれば、その先生はゼーロを贔屓していた。
兄であるのはシェイドであるが、後ろ盾のしっかりしているゼーロが次期公爵の可能性が高いと考えているのだ。
どうにか自分を評価してもらいたいとシェイドは努力していたが、結果を出すほど冷たくあしらわれるようになった。
「けど、俺が口添えしてやれば一緒に受けることも──」
「自分で勉強します」
「は?」
何か言おうとしていたが、俺の言葉にゼーロが呆けた声を漏らす。
頼み込むと思っていたのだろうか?
俺としてはわざわざ見下してくる相手に教わるようなことはない。
「何を言って──」
「それで良いのか?」
文句を言おうとするゼーロを遮り、イグニが話しかけてくる。
流石に父親相手に割り込むことができず、ゼーロは黙り込む。
「先生は【闇属性】の魔法には精通していないでしょう? そもそも使用者がほとんどいない【闇属性】を教えられる人がいないと思います」
「たしかにその通りだな。だが、魔法の基礎に関してはほとんどの属性に共通するのだから、授業を受けるべきだと思うが?」
「それはあくまで基本的な部分だけでしょう? その程度なら自分で勉強できますよ。少なくとも、先生も嫌いな生徒相手だったらまともに教えないと思いますよ」
「・・・・・・そうか」
俺の指摘にイグニは反論しなかった。
おそらく贔屓のことは耳に入っているのだろう。
だからこそ、暴露のような内容なのに聞き返しもしなかった。
だが、俺にとって悪いようにはしないようだ。
「私は反対です、旦那様」
ここでトルナが反論してきた。
先生の関心が自分の息子だけに向くのだから、彼女にとっては良いことだと思う。
それなのに、どうして反対するのだろうか?
「魔法は使い方を間違えれば命に関わる危険なものです。それを子供一人で勉強させるなんて」
「シェイド自身が決めたことだぞ」
「それでもです。私の方から言っておきますので、先生の指導は受けるべきです」
トルナはなかなか引き下がらない。
彼女がここまでする理由が分からない。
だが、俺も素直に先生の指導を受ける気にならない。
ならば、代替案を出すべきだろう。
「では、ラストに指導を受けます」
「は?」
予想外の提案にトルナは呆けた声を漏らす。
そんな彼女を放って、さらに説明を続ける。
「ラストは魔法の扱いに長けており、十分に教えることができると思います」
「一メイドにそんなことができるはずがないわ。しかも、どこの誰ともわからない者なんて」
ようやく理解が追いついたのか、トルナが反論してくる。
彼女の言うとおり、ラストの出自はわからない。
記憶によると、幼いシェイドが行き倒れていた彼女を拾ってきたらしい。
それがきっかけでシェイドに仕えることになったようだ。
「たしかに彼女なら問題はないだろうな」
「旦那様っ! あのメイドはまともに教育も受けていないはずです。それなのに指導ができるはずが──」
「たしかに彼女は教養が無いが、魔法の指導にはあまり関係ないだろう」
反論するトルナの言葉をイグニは否定する。
否定されが彼女は不満げな表情を浮かべる。
「どういうことですか?」
「昨今、魔法教育で問題視されていることだ。座学などで理論的に説明されるだけでは、実践でうまく使えないことが多いらしい」
「そんなことがあるんですか?」
説明を聞いても、彼女は理解できていないようだ。
その反応はわかっていたのだろう、イグニは話を続ける。
「私たちの時代は実践することで身につけることができた。だが、最近の教育では危険だからという理由でまずは座学で使い方を学ぶ。その知識が入ってしまったことでうまく使えなくなるようだ」
説明を聞き、俺は納得できた。
知識が入ったことで考えることが増え、うまく魔法を発動することができなかったようだ。
理論派の人間なら合う方法かもしれないが、感覚派の人間には難しいのだろう。
「旦那様の言いたいことはわかりました」
「ならば──」
「一月後、テストを行います」
「何?」
納得したかと思われたが、トルナが新たな提案をする。
テストとはどういうことだろうか?
「それぞれの指導を受けたゼーロとシェイドに魔法で競わせましょう。旦那様の言うことが正しければ、良い勝負になると思います」
「そうだな」
「ですが、もしシェイドの魔法がイマイチであるなら、先生の指導を受けてもらいます。これでどうでしょうか?」
案外、悪い提案ではない気がする。
お互いに競わせることで高められるわけだ。
「シェイドはそれで良いか?」
「ええ、大丈夫です」
「ゼーロはどうだ?」
「俺が勝つのはわかりきってるから良いよ」
「では、二人とも全力を尽くしなさい」
イグニは俺達に発破を掛ける。
まさか異世界に来て早々、勝負することになるとは思わなかった。
互いに高め合うことは大事ですよね。
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