最終話
(リオン! やったわ! ザカリー・グラッドストンは消滅した! 本当に、完全に消滅したわ! あなたやったのよ!)
そうして、ローザは人々の心にも語り掛けた。
(皆さん、私はリオン・ウィリアムズの魔剣ローザンフェイン。たった今、ザカリー・グラッドストンは完全に消滅しました。リオンは、黒衣の魔導士を打ち破ったのです。もう一度言いますね。リオン・ウィリアムズは、ザカリー・グラッドストンを討ち破りました。グラッドストンは死んだのです!)
そうして、人々の間にさざ波のように歓声が伝播していき、それは勝利の大合唱へと変わった。
リオンはゆっくりと地面に降下していくと、そのまま大の字になって倒れた。
「は……はは……やった……やったぞ……ローザ、みんな……やったよ……終わったんだ」
エイブラハムとエヴァンは頷き合った。
「父上、リオンのもとへ」
「うむ」
「みんな! リオンを迎えに行くぞ!」
「おお! 若様!」
人々がリオンのもとへやってくる。
「リオン! リオン! おいしっかりしろ!」
エヴァンが弟を抱き上げる。
「兄上……」
「やったなおい! 今、ローザンフェインがみんなに勝利を告げてくれた」
「そうですか……良かった」
「みんな! リオンを胴上げだ!」
「おお!」
そうして、リオンは勝利の歓呼とともに、何度も空を舞った。
戦いは終わった。
四人の公爵は天幕を設けて臨時の会合を開き、今後の大陸の在り方について話し合った。
「ザカリー亡き今、我々四人が王となり、大陸を統治することに何の問題があろうか」
エイブラハムが唱えると、ベネディクトが頷いた。
「戦の世には終止符を打たねばなるまい。誰もがそれを望んでいよう」
「中央の復興については今後の課題となるであろうが、ひとまず、我々四人が争う理由はない」
セオドリックの言葉にヴァイオレットも同意した。
「戦争が終わるというならそれは歓迎すべきことね。それを次の世代に残せるというなら、なおのことよ」
こうして、四か国連合軍は解体され、それぞれの国に戻った。
そうして四人の公爵は、かねてより予定されていた通り、戴冠式を行い、ウィリアムズ王朝、フリートウッド王朝、ソーンヒル王朝、グリフィス王朝が誕生する。
それからしばらくの時が流れた。
新たな命を授かった王家では、人々が王朝の繁栄を願って祝福した。
そして、ローザンフェインの守護者となったリオン・ウィリアムズは……。
リオンは人々から畏敬の念を受けていた。グラッドストンとの伝説の戦いを目撃した者たちはこの王子を畏怖していた。だが同時に救世主として称えられ、生きながら伝説となった。
リオンはその状況に慣れるまで時間がかかったが、やがてそれも受け入れることが出来るようになった。
(ローザ)
(何、リオン?)
(君はずっとこのまま僕の下にあるのかい?)
(運命ならね)
(どういう意味だい?)
(私にも分からない。私はヒュレイガンから呼び出されたわけだけど、あれからあいつも何も言ってこないし……このままリオンのところにいるしかないわね)
(だがこの力、僕が生きている間は良いけど、悪用されないかな)
(そんな先のこと考えなくても)
ローザは笑った。
(それに私は自分の意志でここに留まっているの。帰ることもできるんだけど)
(え? どうして帰らないんだい?)
(向こうの世界は退屈なのよね。ただずっと出番を待って異空間に閉じ込められているから。それに私、リオンの血を引く子供が出来たら、その子に私を継承してもらってもいいと思ってる)
(何だ。ローザだって先のことまで考えているじゃないか)
(あなたほどじゃないでしょう)
「さて……」
リオンは立ち上がった。
(これからどこへ行くの?)
ローザは問うた。
「僕がいるべき場所へ。それとも……」
リオンは馬鹿げた考えを捨てた。
「行こうローザ。僕とともにあれ」
リオンは歩き出した。
生きながら伝説となった王子は、これから自分の歩く道を刻んでいく。リオンはまだ十八歳。人生は始まったばかりだ。リオン・ウィリアムズはこの平和を取り戻した世にあって、少しは自分に期待して歩いていくのだった。




