21. 行け!ツボミちゃん
これでやっと解決です!
───コンコンッ
ツボミちゃんの部屋のドアを軽くノックする。
すると、中からはーいと言う声がし、しばらくしてドアが開く。
「世良さん…………どうしたんですか?」
「いや、あのー、居間に来てくれないかな?」
「どうしてですか?」
「話があってさ」
「ここじゃだめなんですか?部屋の中に入ります?」
「あーいや、俺じゃなくて………いや俺もあるっちゃあるんだけど、メインは俺じゃなくて………早瀬さんが話がしたいって」
「彩さんが…………」
ツボミちゃんは露骨に口を歪ませる。
「ごめんなさい…………私は…………」
「いや、わかってる。でも早瀬さんは今ツボミちゃんにごめんなさいを言いたいんだ。それだけでも聞いてくれないかな?」
「でも…………私!………」
そう言うと、ツボミちゃんはドアを閉めるが、俺はとっさに部屋の中へ入り込む。
「はぁ、はぁ。あっぶな……」
「うわ、ちょ、出て行ってください!」
ツボミちゃんを見る。明らかに怒っているが、そこまでの嫌悪感は出していない。
先程とは雰囲気が違う。どうして?俺のことは怒ってないから?あくまでも早瀬さんだけ?じゃあなんで部屋に篭るの?早瀬さんだけじゃなくて俺だけなのか?どうして?人見知り……………緊張?歳が近いからとか……………じゃあもしかして………
「もしかしてツボミちゃん、緊張してるの?」
「何がですか!?変態ですか!?」
「いや違う!そういう意味じゃない!」
密室でこの発言はどこぞのAVみたいに聞こえる。
少し後悔した。それと同時にここに菊井さんがいなくてよかったと安堵する。
てか、それ系の言葉を知るの早くない?今は普通なの?
「俺たち……………ここのみんなと暮らすの、緊張してるの?」
「別に…………」
「緊張っていうか、あれかな……………なんとなくわかるよ。ツボミちゃんって人見知りで、結構甘えたがりでしょ?」
「そ、そんなことありません!」
「でも、近くにリョータがいたせいか、その影響で性格や口調はリョータとは反対の真面目ちゃんになっていった。違う?」
「リョータは関係ないです。私は私で!」
「最初の自己紹介でリョータのこと紹介するとき、歳のことに拘っていたのだって、リョータがだらしない分、自分がしっかりしなきゃって思ったからでしょ?昨日の遊びも、リョータの性格を知ってたから、子供が2人いると足手まといになる。そう考えたからお出かけに来なかったんでしょう?」
「私は…………」
「甘たがりだけど、人見知りだし、リョータはあんなんだから自分がしっかりしてなきゃいけないもんね。リョータは、幼稚園のことを聞くと友達の話もたまにするんだ。だからリョータに聞いた。ツボミちゃんのこと。リョータ言ってた。ツボミちゃんには友達が少ないって。褒めてくれる人はいっぱいいるけど、普通に話しかけてくれる人は少ないって」
「…………………」
「きっと、ツボミちゃんがしっかり者だから、みんなどこか知らないうちに距離を置いちゃってたんだよね?とはいえツボミちゃんから話しかけるわけにはいかない。そうでしょ?」
「…………………」
ツボミちゃんの表情は今や、暗く重たい顔になっている。
「ここに来たときもそうだよね。周りはみんな一回りも二回りも歳上。緊張するよね。なのにリョータがあんなんだからツボミちゃんはしっかりしなきゃいけなくて、そしたらみんなに褒められて。だけどやっぱり緊張して…………」
「…………………」
「順番が違うよね。まず俺が一番にしなきゃいけないことは謝ることだよね。…………………ごめんなさい。ツボミちゃん、ごめんなさい」
俺はその場で頭を下げる。床に座っていたので、土下座のような体勢になる。
「ごめんね、ツボミちゃん………」
「あ、いや、ちょっ、そんな、頭上げてください!」
「俺、正直言うと思ってた。ツボミちゃんはしっかり者だから、そんなに構わなくても勝手にやってくれるって。リョータと違って勝手にここの生活に慣れてくれるって」
「…………………」
「でもおかしいよね。そんなわけないよね。だってツボミちゃんだって、しっかりしてても、年長でも、まだまだ子供なんだもん。甘えたかったよね。歳上ばっかりで、どうしていいか分からなかったよね。よく考えてみればわかることだった。でも気づかなかった、気づけなかった。知らず知らずのうちにリョータと比べてた」
「…………………」
俺は頭をゆっくり上げ、ツボミちゃんの目を見る。
「だからこれからは………いきなりは無理かもしれない。緊張するかもしれない。でも約束する。俺は君を見捨てない。だからさ、俺だけ。俺だけでも、これからはしっかり甘えてよ。言いたいこと言えばいいよ。俺は………まぁ………出来るだけ受け止めるからさ。だからさ………………もう、そんなに悲しそうに泣かないで?」
俺が頭を上げたとき、ツボミちゃんの頬には涙が伝っていた。
すると、ツボミちゃんの涙が溢れ出す。
「ゔっ…………ぐすっ…………」
「ツボミちゃん……」
俺はツボミちゃんを優しく抱きしめる。ツボミちゃんは泣きながら背中に手を回す。
「ゔぁぁぁぁん…………私、私!…………ずっと不安だった!」
「…うん」
頭を撫でる。
「知らないところで、知らない人ばっかりで!」
「…うん」
「仲良くなりたいけど!不安で不安で!」
「…うん」
「しっかりしなきゃって!」
「…うん」
「みんな、気にせず話すから!なんか怖くて!私だけ1人みたいで!」
「…うん」
「リョータはバカばっかりして!私がそれを止めたら!偉いねって!」
「…うん」
「私のこと褒めてくれるけど!でも!」
「…うん」
「リョータのことはみんな、なんだかんだ言って優しく笑うけど!私には!」
「…うん」
「私には…………しっかりしてるねって、期待ばかりで!全然遊んでくれなくて!」
「…うん」
「私から言おうと思ったけど!リョータがいっつも苦労ばかりかけてるから!それを止めて!そしたら褒められて!それで遊べなくて!お話出来なくて!」
「…うん」
「でも私はリョータみたいになれないし!」
「…うん」
「もうどうしたらいいかわかんなくて!」
「…うん」
「怖くて!私怖くて!それで!それで…………」
「…うん。ごめんね…………ツボミちゃんをそこまで追い詰めていたのに…………ツボミちゃんからすれば俺や早瀬さんは歳が近くて一番緊張せずに話せたんだよね………特に俺は………誰とでもよく喋るから。リョータにも変に懐かれたし………ごめんね………ツボミちゃんの気持ちに全然気づいてあげれなかった。怖いよね。そうだよね。しっかりしててもまだ6歳だもん。当たり前だよね。ごめんね………」
俺もつられて涙を流す。
「ありがとう。話してくれて。すごく嬉しい」
「うん…………!」
「もう大丈夫だから。今度、一緒にお出かけしよう!遊ぼう!ツボミちゃんが行きたいところに行って、食べたい物を食べよう!」
「うん………!」
そして、ゆっくりと体を離す。
ツボミちゃんの顔を見ると涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。近くに置いてあるティッシュを取って、ツボミちゃんの顔を拭く。
「ありがとう…………」
「ふふっ、どういたしまして!」
「ぷ、ふふっ」
俺とツボミちゃんは互いに笑い合う。初めてみたツボミちゃんの笑顔は綺麗で可愛くて、眩しかった。それで………どこか安心する、子供らしい最高の笑顔だった。この笑顔こそがきっと、ツボミちゃんの素の全てなのだろう。それをあろうことか泣かせてしまったこと。悔やんでも悔やみきれない。だからこそ、これからはしっかりと守りたいとそう思った。
「世良…………総庸さん?」
「なんでもいいよ」
「じゃあ…………ソウさん?ヨウさん?ソウヨウ?んー…………ソウにぃ?ソーにぃ!ソーにぃがいい!ダメ、ですか?」
「ううん。嬉しい」
「えへへ、ありがとうございます!」
「ふふっ、どういたしまして」
俺とツボミちゃんは隣に座る。
「ツボミちゃんはどこか行きたいところとかあるの?」
「んー、遊園地に行きたい!」
「え………」
今、ツボミちゃんがタメ口で………
「あっ、ごめんなさい。行きたいです」
「いやいいよ!ちょっとビックリしただけ!うん、いいよ!そうだよ!まだ小さいんだから、そんな敬語とか使わなくていいんだよ!少なくとも俺には!」
「ほ、ほんと?」
「ほんとほんと!そっちの方が子供らしくて可愛いよ!」
「ソーにぃ…………」
ツボミちゃんの頬がほんのり赤くなる。
「しっかし遊園地かぁ…………」
「だめ?」
「ううん。ただ、遊園地となるとちょっと遠いでしょ?ツボミちゃんは連休が終わったら引っ越すからいつ行こうかなーって」
「そ、そっか………」
ツボミちゃんは急に元気がなくなり、暗い表情で下を向く。
「ま、連休が終わっても、ツボミちゃんが引っ越してもいつかきっと会おう!ちょっと遠くても、お金貯めて会いに行くよ!」
「ホント!?」
「うん、ホント」
「ソーにぃ……………」
「ん?」
「だーいすき!」
「おわっ!」
ツボミちゃんが俺の体にだいぶ。
押し倒されて、その上に覆いかぶさるようにツボミちゃんが俺に抱きつく。
俺は後ろに手を回し、頭を撫でる。
そのまま2人で笑い合う。
───ガチャ
「おい世良おせーよ。何して…………ん……………」
そのとき、ドアが開き菊井さんと他3人がこちらを覗く。
あ、そういえば居間に連れて行くって……………
(忘れてたぁぁぁぁあ!!)
「おま、部屋で2人で横になりながら抱き合って…………何してんだよ」
「え、いや違いますよ!!?」
「ロリコン…………」
「だから違うって!!」
「んー、先生としてその趣味は容認できないかなぁ」
「だから違う!!」
「この2人だけの雰囲気……………もう事後かな?」
「違うっつってんだろ!!」
「………………最低………」
「違うからぁぁあ!!」
◇
「それで、話しているうちに普通に打ち解けて結局仲良くなったと」
「はい。ですからあれは誤解です………」
あの後、俺とツボミちゃん。というかほとんど俺1人は居間に連行され、事情聴取となった。
部屋に入った後の会話やツボミちゃんのことを話すととりあえずは納得してくれたみたいで、俺は無罪放免となった。
「昨日はごめんなさい」
「………………ううん。悪いのは私だった。もっとツボミちゃんのこと考えるべきだった………」
俺の後ろでは、ツボミちゃんと早瀬さんが互いに謝罪をし、仲直りしている。
こうして、ツボミちゃんと俺たちの関係はひとまず一件落着となった。
◇◇◇
夜。ツボミちゃんに異常に気に入られた俺は、その日は2人で散歩までして遊んだ。そうして、ツボミちゃんは寝静まり、俺と早瀬さんも明日の親睦会のためにそろそろ寝ようと廊下に2人。
「いやー、よかったですね!結果的にツボミちゃんと仲良くなれたんだし」
「…………………」
「早瀬さん?」
「…………………ほんとは!」
「ッ!」
前を歩いていた早瀬さんは振り返り俺に迫る。
何やら機嫌が悪そう。
「…………………ほ、本当は私が仲良くなるはずだった………」
「あ、根に持ってたんすか………」
「…………………ムムム、悔しい………!」
「いや、でもですね………」
「…………………だから………もう少し話すようにする」
「へ?」
「人と話すことも、悪くないって思った。だから………クラスのみんなとももう少し話してみようと思う………」
「早瀬さん…………」
「世良くんの凄さ………昨日と今日でわかった。だから………私ももう少しだけ頑張る。だから………」
「…………………」
あれ?これってもしかして結構いい雰囲気?
「…………………いつか必ずツボミちゃんは取り返す!これで勝ったと思わないで!」
「え…………」
早瀬さんは最後に主人公にやられた悪役みたいな捨て台詞を吐いて去っていった。
ぜんっぜんいい雰囲気じゃなかった…………
(けどまぁ……褒められたし、今はそれでいっか!)
世良………なんかイケメンオーラ流れてますがフツメンです。フツメン。実際に見たら結構痛いこと言ってます。イケメンにしか許されないセリフ吐いてます。彼はフツメンです。
それからツボミちゃん。彼女は6歳です。お忘れなきよう。
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