忘却はいずれ回帰する
いやー期末テストやばいですねw
勉強して気づいたらもう7月終盤。
遅れてすみません。
これが…俺が忘れていた記憶…か。
正確には忘れるようにされていたが正しいか。
俺は確かに固有魔力が自身に備わっていたことを薄々だけど知っていた。
敗北者扱いされていたわけではなかったからな。敗北者としてではなく異端として。
しかしよりにもよって、固有魔力の保持を彼女によって消されていたとはな。
俺の魔力を封印したあれは『誓約』で、さっきの陰樹の前で俺に話しかけてきた精霊(?)は同じ固有魔力の『誓約』で封印を解いた。
はぁ…また考えなきゃいけないことが増えたな。
そう言えばレナたちはまだ生きてるよな?
マナの流れが静かになってきているってことはもう殺られそうってことだよな?
やばい!急がないと!あの二人だけは殺させはしたくない。
零蒔は手にした固有魔力を再度確認しながら急いでレナたちのとこに向かった。
ーーーそして現在
陰樹を護るために戦っていたのだからそう遠くないと思っていたが、戦闘が激化したのか陰樹から200メートル離れた地点に長老とレナウラがいた。
長老を庇うようにレナウラは覆いかぶさっていた。
レナはまだ生きているようだが、長老に関してはもう助けられないな。俺の魔術でも治すことは出来ない。それにしてもシウバの野郎、あの変な仮面付けてるけどサイズあってないぞ?寸法間違えたのかな?
「まぁ、どっちでもいいんだけどさ」
あれ?なんか狂人が変な事言ってるんだけど?殺し合い?一体誰を殺すんだ?俺か?そこの2人か?
いや実際あいつは俺に気づいてないか。
零蒔は声に出す訳でもなく無言でシウバを睨みつけた。ただの威圧ではなく怒りや悲しみという痛みを込めた威圧でただただシウバを見つめた。
シウバは身の危険を感じレナウラと長老を殺すということを放棄し、一目散に逃げようと体の向きを変えて足に力を込めた。
しかし、零蒔はそれを見逃さなかった。
零蒔は自身の固有魔力でシウバを抑え込んだ。それはもう支配に近い。それは支配者だけに許された掌握という力。
その支配はシウバを逆に冷静に引き戻した。焦りで無性に逃げたかった単的な考えを一掃してしまった。零蒔の固有魔力の前ではそれは無意味。
零蒔はそうなることを計算して殺気を送った。完璧な計算。決定された誘導。
今、まさにシウバは零蒔の仕掛けた罠に引っ掛かりもう逃げられないほど糸が絡まっている状況にいる。まるで蜘蛛の巣に捕えられた愚かな蝶のように…。
そんなことを知る由もないシウバは零蒔の手の平で転がされるように長老を庇うように倒れているレナウラに魔力球をぶつけようとしていた。
人間に備わっている反射とは一般に平均0.3秒、速くて0.1秒と言われている。しかし、前もって事象Aが起きると分かっていれば、その事象Aへの対応はその反射を遥かに凌駕する。実際それは反射と呼べるべきものなのかは定かではないが、その動きはさながら反射という言葉が相応しいものだ。
シウバは単に冷静を装っているだけでシウバの深層心理では完全に焦っている。冷静の裏で焦りという魔物に気づいていない振りをしている。
そんな彼が、彼がしようとしていることを完璧に理解している零蒔が止められないわけがない。
故に、シウバがここで戯れ言を言っていようが関係はない。
故に、シウバが魔力弾をレナウラと長老に打ち込もうが関係無い。
そのふたつは次に起こる事象Aに関して全くもって条件足りうる存在ではないからだ。
零蒔がタイミングを見計らい2人を抱きかかえるようにしてシウバからの攻撃を避けた。
シウバには何が起きたかは分からない。なぜなら自分には手応えがしっかりあった。それなのに彼らが無事だということにさらに焦りを隠しきることは出来なくなった。
零蒔はシウバを見据えながら自分のうしろで涎を垂らしながら待機している焔龍に挑発していた。
“信託とは死告である。汝らはときに空間を支配し、汝らはときに時を支配する。絶望とは万象の理にあらず、希望とはその者の理にあらず。汝は命じ汝らは命ず。憎しみとは理の感情”
“愛情とは偽物の感情である。罪とは罰である。罪とは人そのもの”
“略奪とは罪そのもの”
ただ意味の無いような言葉が乱列しているようにしか思えなかった。否、この言葉にはそれぞれしっかりとした意味があった。
魔法を行使する時、大雑把に言うと人の深層心理にマナを働きかけることによって魔法が発動する。深層心理に働きかけるのにしっかりとした演算が出来ているのであれば、直接的に働きかけられる。しかし、その演算があまり宜しくない時、人は『詠唱』を使う。『詠唱』を使うことで本来、個人が行わなければならない演算を補助することによって演算がしにくい魔法でも発動することが出来る。
彼の言葉は魔法でいう『詠唱』に等しい。正確には魔法は『詠唱』を必要とするが、魔術は『言葉』を必要とする。
「1つ教えといてあげるよ。俺は蜥蜴、テメーの数万倍は強い」
『万象の氾濫』
「雑念とともに昇華しな」
零蒔がその魔術を唱えると焔龍はみるみるうちに身体からマナを噴射して最終的には身体にあるマナを全てを追い出されてしまった焔龍はどうすることも出来ず息絶えた。
ーすべての生物は生命力がなくなると同時に死ぬ。しかし、魔力の保持で生命を養ってきた焔龍などにとって魔力がゼロになるということは死を意味する。故に焔龍は身体に傷がつかない形で息絶えた。
焔龍は死の間際、一体自分に何が起きているのか理解出来なかった。故に戸惑いながら死んでいった。
しかしここにはもう1人この現状を見て理解不能な者が、狂人が1人この光景に対して目を極限までに見開き、ほぼ思考停止してしまった脳に無理に自問自答を繰り返しつつその戸惑いを口にした。
「いったいいったいいったい!これはなんなのですか!我々の情報にあなたのような能力はなかった!…いや、だとしたらこの力はまさしく…。やはりやはりやはりあなたは冥王のはずです!」
シウバは最初は取り乱したかのようにブツブツ言っていたが途中でなにかに辿り着いたのか謎めいたことを言っていた。
零蒔はなんだ?こいつ。いきなり気持ち悪いこと言い出してと思っていた。
零蒔は狂った馬鹿を余所に何か足りないな?と疑問に思い改めて自身の周りを見た。
ふと何かを思いついたように頭上にピコーんと電球が光るよくある感じを思い描きながら合点した。
ここにはアリアがいなかった。いや、零蒔は見なかったことにしていた。
零蒔の視線の片隅には体力がほぼほぼ無くなり出血が止まらず、ずっと木に寄り掛かっている女性がしっかりと捉えられていた。
シウバですら彼女の存在を忘れていた。
なぜなら、狂人にとって自分に憎しみをぶつける者など数え切れないほどいる。そのうちの1人が向かってこようと気にもとめない。
例えば、君たちは自分たちに襲い掛かるチンピラとかの名前を果たしていちいち覚えたりするだろうか?
ー覚える価値のないものだから忘れてしまう。ましてや名前などをいちいち聞くことは無い。
アリアは狂人が忘れてしまうほど呆気なく殺られてしまったということになる。死んではないけど…。
狂人の目には雑魚ながら弱者ながら圧倒的な力の差があるにも関わらず立ち向かってくるエルフの2人の方が印象に残っていた。ただそれだけのことだ。
アリアは少し意識が定まってきたのか右手に力弱くも剣を握りつつ脚を引き摺りながら前に進み出た。零蒔に無視されて狂言を吐くのをやめた狂人は、その光景を見て気持ち悪い笑みを浮かべた。
「あぁ、まぁだ生きていたのですか?私に殺意を向けてきてそれもファミリアの団長と来たので少しは期待してみたものの…はぁこれじゃあのエルフ娘と同じじゃありませんか」
アリアに皮肉を込めながら挑発を言ったシウバは怒りの矛先が見失ったのか、自身の髪を乱暴に掻き毟った。
その光景はあまりに決して快いものではなかったが、零蒔も彼が憤怒している理由が分かっていた。
あまりにも自分に向かって来る者が弱すぎる。ということである。
アリアは過去に何かあり、その組織に対して復讐を果たそうとした。
レナウラは自分の唯一の家族で自分をここまで育ててくれた長老のために。
だが、それらはシウバにとっては、人が毎日ご飯を食べることと同じように、毎日誰かを殺すことと同じように、誰かに恨まれることも人生の日課となっている。そして大抵、自分に挑んでくる復讐者はいつも弱い。脆い。だからイライラする。
この上ない満たされない空腹感に。
「はぁ…ほんとに人間とは弱くなった。あなたもそう思うでしょう?」
シウバはそう言うと零蒔の方を見つめた。
零蒔はいきなり自分に話しかけてくるとは思わなかったのか少し驚いたがすぐに答えた。
「知らないよ。俺はそんなことよりさっき言ってた冥王様って一体どういうことなんだ?」
零蒔にとってはどうでもよかった。
それよりもさっきの変態の言っていたことの方が気になって仕方がなかった。
「我々十戒というのは本来の十の戒めである【敬愛、慈愛、不殺、信仰、無欲、忍耐、安息、沈黙、純潔、真実】これらとしての意味ではなく、十人の戒めの王を意味します。
例えば私は狂乱の王ー【狂王】。私以外にも王とつく異名持ちが9人います。神に戒めを与えられた10人の王と言った所でしょうか。」
いや、そんなに簡単に教えちゃっていいのかよ。割と重要な事じゃないのかよ!それにシウバが狂乱の王、狂王ってことは見た感じそのまんまってことか?
関連性があるかは知らんが、人間を超越した人間。不老不死、最強の忍耐力、永久の体力を備えた人間。それ即ち、仙王だったかな?
その他にも龍王や神王とかもいるらしいな。
「へぇ、それで俺がそのうちの冥王だと?」
零蒔はラビアに来る前、鴉の一員として活動していた時『冥滅の王』と呼ばれていたことから冥王と周りからは呼ばれるようになった。
冥滅の王とは簡単に言ってしまうと生死を司る冥滅神から取ったものらしいが深い意味は零蒔本人もよく分かっていない。
「嘗て私たちと同じ席にいた死を誘うとして名を馳せた冥滅の王『冥滅』と呼ばれた者がいました。
そして今彼女と全く同じ匂いがするあなたが現れたのです!彼女は43年前忽然と私たちの前から姿を消したのです。どうです?その席が空いているのです。あとは…分かりますよねぇ?」
ふぅむ、全く同じ異名を持つ人間がこの世界にいた。地球で見かける怪異の形と言い俺たちの使う魔術とこの世界の魔法の類似性の高さには驚かされるばかりだ。
43年前俺と同じ冥滅が存在していたこと。
地球の組織『断罪の梟』の大幹部達も同じようにそれぞれが王と名乗っている。そして『断罪』に関しては俺を『冥滅』の席に付かせようとした。
ラビアでは『十戒』が俺を待っていたと言い、43年前にいたと言われる『冥滅の王』と同じ席を与えようとしてくる。
ここでは絶対無いはずの忘れ去られていた記憶を思い出させられた。それも同じ固有魔力でだ。
はぁ…ほんとにこの世界は退屈しない。
こいつが言う同じ匂いなんて単なる性格が似ているだけだろう。知らんけど。43年前とか俺との因果関係なんてなさそうだし。
「仮に冥滅の王が俺だとしても俺はお前らの仲間になるつもりもない。せっかく勇者とかめんどくさい鎖から外れた絶好の機会なんだから、この世界を自由に旅して謳歌するだけだ。
その先にお前らが立ち向かってくるのであれば殺すまでだ」
こいつを十戒の最低と見積もっても十戒内の1人とやるなら十分勝機はあるけど、これが複数になったら、流石に俺でも勝てないかな。
それに今はシウバを殺るには勿体無いしな。殺る動機もないし。本来こいつらを片付けるべきなのは愁たちだし。
「やはり、あなたは…」
シウバはその後ブツブツ言っていてたがよく聞き取ることが出来ず無視した。
すると、レナウラの意識が戻ったのか零蒔の腕を振りほどくように地面に倒れた。
「お、おい!レナ!大丈夫か?」
「わ、私は大丈夫だけど、おじいちゃんが!ねぇ、レイジなら治せるよね?だって私の傷だって治してくれたし…」
レナウラは地面に落ちた後、静かに眠りについた長老の元に駆け寄り零蒔に長老を治すように懇願した。
零蒔は愚かにまだ助かると信じている少女に同情したのか零蒔は回復魔法を掛けた。
零蒔の回復魔法ー『治癒』によって老人の外傷や内傷を治した。
しかし、その老人は目覚めるわけでもなかった。
これはまだ生命機能が働いているものに限る。
生命機能がまだ働いている身体であれば魂を引き戻すことは可能だった。
『治癒』は時間軸から本来通るAルートから傷を負ったという時線から逸脱し、傷がないBルートをそこに移植する。
本来の時線を無かったことにして傷があった時線を移植することによって初めて零蒔の治癒は成立する。
言わば、零蒔の扱う『治癒』とは超越時空魔法である。そしてそれは魂でも有効。
生命機能が働いている身体に「魂がある」という時間軸を移植することで、魂を引き戻すことは可能になる。しかし、魂は生命機能が停止している身体に再び入ることは出来ない。
そしてこの老人は生命機能が停止していた。だから傷は癒せても魂は引き戻せなかった。
「済まない、レナ。俺の力では傷は治せても…」
「い、ぃや、いやだ。ぃやだ。なんで?!ねぇ、レイジまだ生きてるよ?おじいちゃんが…わた…しのこと置いてくわけないもん!嘘つかないでよ!」
「ふふふふふははははは!醜い醜い!実に不愉快です!確かレナウラさんでしたか?可哀想ですねぇ…まさかお爺様が死んでしまうとは」
レナウラは事実に未だに向き合えず声を震わせて号泣するなか、シウバは見ててその光景が面白いのか泣き真似をしながら皮肉気に言った。
レナウラは哀愁を漂わせながら、確かな憎しみよりも深い感情をシウバに向けた。
その光景を静かに見ていたアリアも嘗てのトラウマが蘇ったのかレナウラと自分を重ねていた。気づいた時にはアリアには憎しみと悲しみの水が頬に流れていた。
そして2人は自分たちの得物を手にすると立ち上がりシウバに殺気を向けた。
それは先程とは違う。誰よりも濃く深い、怒りと憎しみを明確し彼に復讐したいという願望を復讐するという決意を周囲に撒き散らすように向けた。
周りの木々はざわめきを上げるように草木を揺らし、遥か上空では暗雲が立ち込め始めていた。
シウバはこの状況がさらに楽しくなったのか狂ったように大声で笑い、零蒔はこの状況を静かに見守り続けた。
「あはは!そうですそうです!そうやって私めに憎しみを怒りを向けてください!あなたの復讐したい人間が目の前にいるのですから」
シウバは2人を煽るように挑発した。
2人はもちろんそれを買いシウバに牙を向いた。
零蒔はこの時ある人との言葉をふと思い出した。
「坊や、よく聞くんだよ」
「誰かのために尽くすのが君の役目ではないんだよ」
「君の役目はただ背中を押すだけ。真意を貫くためには干渉してはならない」
「それが…王としての役目なのだから」




