彼方からの記憶 Part2
ーーーラビアに召喚される1か月前
嘗て、梟の思想を元にある研究施設が爆発された。
その研究施設は怪異についての研究と表向きはされていたが、裏では魔術師の人体実験が行われていた。梟はそれが許せなくて破壊したと言った。
今では廃墟と化し、鉄筋が露出していたり雑草が生えていたり閑散としている。
こういった場所は不良たちの溜まり場として使われるが、ここには魔力残滓が濃く普通の人間がいると忽ち、眩暈や頭痛が起きる。それ故に巷では有名の誰も近づけない心霊スポットとして扱われている。
しかし、不良たちの溜まり場としても扱われない心霊スポットで武器と武器がぶつかり合うような音が響いていた。
そこには1人のフードを被って顔を仮面で隠した魔術師と黒い刀身の刀を持った1人の少年が戦っていた。
仮面の魔術師は自らを梟と名乗りそれに相対している少年は八鍵零蒔と名乗った。
零蒔は自分の弱さが嫌だった。
怪異を簡単に薙ぎ倒す力は備わっていてもそれは自分の強さではなかった。逆に弱さをさらけ出しているようなものだった。
「零蒔くん、君はなぜそんなにも強いんだ?」
彼に問いかけられた何気ない質問が零蒔にとって苦痛であり皮肉であった。この言葉の真意に皮肉が込められてなくても今の彼には皮肉だと判断してしまうほどの精神力であった。
フードを被り仮面を付けていて顔はよく見えない何者かは男の声で彼を惑わせた。
「君の両親を殺したのはルイス・バルファンだよ」
彼にとっては禁句指定された内容を言うことによってさらに零蒔の心を掻き乱した。
「君の家族を崩壊に導かせたのは世界政府だよ」
追い討ちを掛けるように真偽を言った。
固有魔力とは『契約』、『制約』、『誓願』を立てることによって自分の能力の元となる原則を確立し神の力を自らに体現したものを指す。
例えば、打撃を与える毎にダメージを倍増させていく『連撃増幅』であったり、1度見た業を記憶しそれを行使することの出来る『偽装』などそれ以外にも様々な固有魔力が存在する。
人間はこの固有魔力を『魔術』といい、魔術を行使する者を魔術師という。
魔術師とは厳密に魔法を扱う魔法師とは違う。
同じ魔力を行使することには変わりないが、魔法師は決められた基本属性【火、水、土、風、雷、光、闇】と特殊属性【聖、闇黒、虚無】などを行使する規則魔法を扱う者を指す。しかし、魔術師は違う。
魔術師は規則魔法を扱う者もいるが、一般に規則魔法は俗にいる敗北者が行うものと考えられている。魔術師の殆どは固有魔力を保持し誇示する者のことを指す。魔法師は魔法を追求するものであり、魔術師は魔法を含む神秘を追求することをモットーとする。
敗北者は、一に固有魔力は持っているがそこまで使いきれていない者。二に固有魔力を保持していない特殊な者。
彼らからすれば神秘とは到底手が及ぶはずがないが神秘を追い求めたいと考える者もいれば、神秘とは戯れ言だと割り切り一般人として暮らしていく者もいれば、自分の力に絶望し使えない力で世界を暴走する『怪異』と化すかの3種類に分かれる。
無論、力を持つ魔術師が世界を荒らすこともある。その世界を荒らす、謂わば調和を崩す者達のことを【断罪の梟】と称し、1人の梟の思想を信仰し世界政府に対抗する。
嘗て、零蒔の両親は世界政府のある機関に所属していた。
それは世界政府直属の諜報機関であり、【断罪の梟】を壊滅し世界の平穏を保たせるために作られた機関ー【贖罪の鴉】に彼の両親は所属していた。
表沙汰は単なる会社員や単なる主婦ではあるが裏沙汰では【断罪の梟】を捕らえるか殺したりしていた。故に彼らは狙われた。それも家族ときた。
梟たちは常に非情で異常で残酷で残虐で冷静で冷酷で短絡的且つ、用心深く虚しく儚く惨く無尽蔵に人を喰らい殺していく。
ターゲットに家族がいればそれはもう惨い行為をしてから殺す。これが彼らの理念であり感情であり雑念であり希望である。
その場に小さな子が居ようとも眉を曲げず何食わぬ顔で殺す。そこに自分たちではなく怪異に殺させることも厭わない。
子供だけは逃がしたい。子供だけは生き延びてほしい。それが親の義務である。親は自分の命よりも自分の子を守ってあげたい。それが親だ。親であれば子を守れ。
両親は怪異が現れた瞬間に2人を遠ざけた。しかし、それを怪異が見逃すはずはなかった。
両親は今、休暇中そして子供がいる場面、故に対応が遅れた。
怪異を倒す時は、普通最初から緊張を張り詰めていなければ腕のある魔術師であっても相当苦労する。ただそれが単なる怪異で単なる腕のある魔術師であればの話だ。
彼らの前に現れたのはSSレート。腕のある魔術師を仮にもAランクと定めるならばこの怪異を倒すのに少なくとも6人のAランクがいなければ倒すことは出来ない。
だが、ここにいるのは腕のある魔術師(Aランク)が2人だけだ。少しでも対応が遅れれば殺られる存在が目の前にいる。これだけでも条件は出揃っている。
怪異は一瞬で2人を噛み殺し残りの2人のとこに向かった。
怪異のが零蒔と姉の所までに向かうあいだ、姉は弟はせめて生かしてあげたいと願い零蒔を先に行かせた。そして自分はわざと怪異の方に向かった。
零蒔はその時「あぁ、お姉ちゃんも死ぬのか」と思いたくなくても思ってしまった。姉がほんとに死んでしまったのかは見てないからわからない。
だけど、怪異がこの場にいるなら、と思ってしまうとどうしてもそう考えるほかなかった。
零蒔は両親は噛み殺されたのを目の前で殺された光景をただただ思い出していた。
零蒔自身も気づいていた。両親が死んだ理由は奴らにある。しかし、元はと言えば両親をこき使ってきた世界政府にあるのではないか?と。
だが、認めたくはなかった。自分にあれだけ親並みに愛情を注いでくれたのは何より世界政府の人達であったこと。
「お、俺は…いったい何を信じて生きていけばいいんだよ!両親はテメーらが殺し!その原因を作ったのはあのクソジジイ共!じゃあ俺は…俺は!一体何を護るために生きればいいんだよ!」
ーーー「人とは信じる者が無くなった時初めて絶望を知る」
ーーー「信仰とは脆く崩れやすい人間関係を繋ぎ止める醜い感情に過ぎない」
ーーー「君が信じてきたものは安く脆い。しかし、君を信じる者がいることを忘れるな」
フードの梟は首に手を当て変声機のようなものを外すと口を開いた。
梟の声は綺麗に透き通って可愛らしい女性の声であった。
「あなたは決してひとりじゃない。あなたには護るべき人がいるのでしょう?なら、前を向きなさい。私たち梟はあなたを信じていますから」
梟はそう言うと零蒔にある魔術を掛けた。
ーー『誓約』
「これであなたはもう1人ではありません」
ーー「あなたには護るべき人がいる。
それにあなたは気づいていない振りをしている。あなたが自分の力を理解していないように。
あなたがいつか私たちを導いてくれるのを信じています。だから…だから今だけはその力を封印させてもらいます。
嘗て私が経験したことを…いえ、経験させられたことをあなたがそれを味わうことでこの世界の理を知ることが出来るでしょう」
ーーーあなたは大切なかけがえのないものなんですから




