閑話 勇者の決意 (葉山 愁)
零蒔が迷宮からラントの森までとばされ、ハウルも元の場所、魔王城にテレポートする直前の話まで遡ろう。少しばかり勇者御一行の話をするとしようか。
「シンクさん!そこを退いてください!今瓦礫を吹き飛ばすんで!」
この時僕は焦っていた。大切な友達を唯一自分を心から支えてくれた人がこの場からこの世界からきえてしまうのではないかという焦りが、自らの心底に思い浮かぶ最悪のシナリオになってしまうのではないかと思い込んでしまった。
「破壊せよ 我に立ち塞がる悪しき万物よ 時のまた狭間にて 全てを薙ぎ払え!リジースブレア!」
葉山は速攻で土属性の魔法で瓦礫を取り除いた。そして、ボス部屋にいたのはハウルであった。だが、自分が望む人間はすでにその部屋にはいなかった。
ハウルは、こちらに向きニヤリと笑みをこぼした後テレポートした。
「クソがぁぁ!零蒔!くそくそくそ!なんでなんだよ!なんでお前がいなくならなきゃいけないんだよ」
葉山はこの時、零蒔の体中から出ていた出血の血だまりを見てハウルに消されたと思った。
この場合、この場から消えたことより消されたということであり、決してこのフロアでハウルによって殺されたことで消されたということではない。
つまり、生きているが転移させられたのであって確実に死んでしまった訳では無いという単純な答えにたどり着く。ただそれが冷静な人間であればの判断だ。仮に葉山が冷静に考えていたとしても辿り着かないだろう。『零蒔は死んだ』と錯覚をせざるを得ない状態に陥っていた。証拠として本来人間がどれくらいの出血で死ぬかなんて知らない一般人が血溜まりを見たらいやでも“死”と考えてしまうのではないだろうか?
「……………」
葉山は勇者でありながらいつも自身が守られていることに怒りを覚えた。
勇者は周りの人間を救うための力を持っていながら最も自分が守りたいと思う人間に守られて、自分は結局それに頼るしかできなかった。
大切な人すら守れない人間がなぜ勇者なんかに選ばれたのか?零蒔の方がよっぽど勇者として向いていたのではないか?自分は何の為に力を貰ったのか?
そんな考えを頭の中でぐるぐる考え始めて自分のせいだと思い込み自身の力がなんのために存在しているのかを考え始めたおかげで大切な人がいなくなってしまった後悔の効果を促進させてしまった。
「おい、シュウ!おい、起きろ!」
葉山は気絶した…血だまりの上で倒れるように崩れ落ちた。
ーーー
シンクは気絶した葉山を背負い他の勇者たちのところに戻ると数人の女子を除いて葉山の姿を見ると絶望したように近寄ってきた。
「シンクさん!愁君は無事なんですか?」
シンクは零蒔のクラスの恋愛事情は大体見ててわかる。小春と琴音が零蒔とできていて片山と葉山ができていることは見てるとわかる。そして大半のクラスの女子が葉山に恋愛感情を寄せていることもわかる。これを知っているからこそシンクは疑問に思った。本来であるのなら葉山と恋人同士である片山が真っ先に葉山に近づき一番最初に安否を聞いてくるはずなのに、シンクに葉山の安否を訪ねたのはいつも葉山に積極的な花園であった。
もっと言えば片山は葉山のことを見向きもしなかった。
否、片山は確かに葉山のことを心配はしていた。葉山を連れてきた時ホッとした顔が見えたと思ったらすぐに落ち込んだ顔になった。簡単に言えば、それ以上に零蒔に対して思い入れのあるようにしか思えない態度にしか見えなかった。
「シンクさん?愁君は無事なんですよね!」
シンクが考えていたら花園含む複数の女子が涙目になっていた
「あ、あぁ葉山は無事だ」
このシンクの言葉に男子生徒にシンクのもとに行かなかった女子がピクリと肩を震わせた。
誰しもがその結果に喜んでいいのか疑問だった。
全員が結果にショックを受けてしまい黙り込んでしまった。
素直に喜んだ花園たちはなんで喜んでいないのか不思議に思っていた。
「ふざけんな!!!何が葉山“は”無事だ?んなことはどうでもいんだよ!なぁ、シンクさん零蒔はどこいったんだよ?おい答えてみろよ!」
歓声に浸っている女子たちの中で沈黙をし続けていたが、そんな沈黙の中で唯一その結果に異議を唱えられた人間ー悠木が口を開いた。
だが、実際この場で言うべきことではなかっただろう。もしくはもう少し言い方を考えてからの方が良かっただろう。故に葉山の帰還を素直に喜んでいた女子たちに反感をよんだ。
「ねぇ、悠木君。私たちの葉山君が無事に帰ってこれたことをなんで喜ばないの?それなのにその言い方ってどう考えても葉山君が帰ってきたことが嫌だったみたいだね。いつも思ってたけど本当に最低だね」
1人の女子生徒が悠木に最低といってから口々に最低と連呼していた。
シンクはこのままでは収集がつかないと言うことで無理やり連れて帰った。
ーーー
ダンジョンにおいて事故があったことはシンクさんが早馬を出してくれたおかげでテルミニアは事態の壮絶さを知りすぐに対処に映るように手配した。そしてシンクさんが僕を含む勇者を引き連れて帰還した時、王様から泣いて喜ばれた。魔王のためにこっちの都合で勝手に呼び出しておいてその勇者をダンジョンで殺されたなんて王としての威厳が保てなくなる。さらに、勇者のうち金井くんが闇?に呑まれ魔王軍の手先?になったと報告した。さすがにここでも悲しむだろうと思った。
「あぁ、あの落ちこぼれか?レイジより貧弱なものがあっちについたところで雑用扱いだろ?」
王様や王女様は悲しんでいたけれど他の大臣たちは王様らに聞こえないよう逆に嬉しそうに笑っていた。僕は、キレそうになり反論しようかと前に出ようとした時悠木に止められた。理由は察しがついた。
「あっ、そうだ!レイジ様はどちらにいらっしゃるのですか?怪我でもしたのなら私が直しますのに」
帰還した中に違和感を覚えるのは何も1つではない。零蒔がこの場で笑いながらみんなを励ましている光景が本当はあったはずなのにここには存在していなかった。それに気づいたのは小春と琴音と同じ思いで零蒔を想っているフィルメニア皇女であった。
この発言に強く悔しい思いしか残らなかった。
僕が零蒔を置いてきたことにショックを受け今だに気絶したままの小春や琴音そして、南も未だに目が覚めていなかった。
南も地球では零蒔に強くアタックしていたのは分かっていた。僕にも色んなことを聞いてきて零蒔と遊ぶ機会を手に入れたって喜んでいたから好きだったんだろうと思う。最初の方は小春や琴音が「南と二人っきりで遊ぶなんて許さない」なんて言っていたが途中からは「楽しんできてね」と二人を見送ったりしていた。勿論、南も小春や琴音と遊んでたりして上手く打ち解けていたみたいだった。南との馴れ初めに二人に羨まれていたな。どんな内容だったのだろうか?
「彼は零蒔は...僕ら勇者と騎士団をハウルから少しでも遠く逃げられるように時間稼ぎをしてくれました。零蒔はその場から消え去りました」
ここは自らの口で言わねばと思い口にしたが、零蒔は結局どうなったのかはハウルに聞かない限りわかることはない。なぜなら、零蒔の血であろう血だまりの量がハンパないものであったから喰われたと言う考えもあった。金井くんのようにどこかに強制転移させられたと言う考えも浮かんでいる。
「そう....で..すか。でも消えたってことは死んでることはないかもしれないってことですよね?」
“俺がいない間”この言葉に僕は引っかかる。いくら夢の話であってもこの言葉は信じざるを得なかった。絶望的状況に少しでも光を挿してみたかった。希望を持ちたかった。
「はい。ですが確証がないですがハウルは少なくとも勇者は殺すと言っていました。勇者ではない零蒔を殺せないという希望もあります」
ハウルは確かに言っていた。勇者は殺すと。勇者ではない零蒔のことを殺すのか?奴は勇者では無い人間は殺せないという風にも捉えられる。
ーーーその日の晩
夕食を食べ終わった僕は一人シンクさんの部屋を訪ねていた。未だ目が覚めていない小春や琴音の看病をしようと思ったが、南が引き受けてくれると言っていたので俺はそれに甘えてある決心をした。
抜け駆けのような形になってしまうが、今の僕はあまり人のことを考えていられるほど落ち着いていなかった。
僕が勇者である理由...。誰かを救うためにはどうするか?誰かを救うために何を犠牲にするか?
もし誰かを救いたいのであれば...
「シンクさん!」
もし誰かのために戦いたいのであれば...
「ん?こんな夜分にどうしたシュウ?」
自身の迷いを消し自身の思いを体現せよ...
力を示せ 苦難に打ち勝て 願いを咆えろ
それが男として英雄として勇者として俺が一番為すべきことだとするならば...
「お願いがあります」
大切なモノを守る為に力が欲しい...
その力はなんのために使う?
僕は、俺は!大切なモノの為に力を使いたい!
「俺を英雄にしてください!」
時が動けば人も動く。為すこと成されば時は道。
葉山愁に込められた力は何を導くのか?
与えられた力は人の願いを叶える為に存在するのか、誰かを救う為にあるのか、もしくはその両方か。いずれにしても、英雄足りうる力を手にした時、世界はどう彼に従うのか。彼の決意はどこまで先のことを指すのか、それを知るものはいない。否、知る運命にあることは然り、王としての力か英雄としての力か、いずれそれが示される時が来るだろう。
零蒔が生きているのであれば今度は俺が守る!これ以上大切な人を俺を守り続けてくれた彼を皆んなを救うために。俺はやるぞ。この世界を救い地球に帰ってやる!




