パート11
「はぁーなんで俺様のことを忘れちまうだ?頭は大丈夫なのか?」
狂剣ハウルー二本の大剣を駆使し様様な生き物を切り刺し殺してきたドラゴニュート。もともと冒険者であったがその力に魔王デモイトスが目をつけ仲間に引き入れてもらった。
まだ零蒔と愁の2人だけが残っている状況の打開策としては考えられることは1つしかなかった。どちらかがハウルを引きつける必要があった。1人の犠牲で1人の命を救う。今の状況において最も冷静に判断することができるのは零蒔であった。それ故に行動を優先すべきは一つ。
「なぁ愁よ。俺は君の友人として誇りを持ってるよ」
と笑顔で感謝を述べた零蒔は愁を蹴り飛ばした。蹴り飛ばされた行為に一瞬戸惑いを見せた愁であったがすぐに察することができた。
蹴り飛ばされた先はハウルではなく、扉で心配そうに見ている里奈に向かってだった。
「愁!大丈夫?なんで零蒔にけられたの?」
ちょうど着地点に先回りした里奈が飛んできた愁を受け止め心配した。
だが善意を持って心配してくれた里奈の手ほどきを受け流しすぐに零蒔の方を見やった。
ーーー
「ほう、勇者ではない貴様が残るか。お前らにとってはいい判断だな。それにお前は頭が相当切れるようだな」
ハウルは零蒔に蔑みを込めて褒めた。
「勇者ではない俺がここを引き受けるに値するし、今のこの状況で俺がここを受け持つのが最適だと思ったんだよ。狂剣さんよ」
「訳を聞いても良いか?単なる酔狂な友情とやらで片付けることではなかろう?」
周りから見れば意気揚々と会話しているように見える。2人は会話を楽しんでいるかのように捉えられるからだ。
否、実際にこの場に立つとなるとただの会話で人を殺せるほどさっきに満ち溢れていて、プレッシャーが異常なほどかかっているこの場では、立つことさえ許される場ではないことは明白だった。そんな中、重い空間から1人の青年の声が響き渡った。
「簡単さ。一番この世界の情報を知っているのは俺で、あんたは二刀流の剣使いなのだから剣で優秀な俺の方が圧倒的に逃すのに適しているからだ」
時間稼ぎ位はできるだろう。それに転移という賭けもあるし。
「やはり、貴様を勇者という腐ってる雑魚どもの中に入れておくには惜しい人材だなぁ。どうだ、陛下の下で働く考えはないか?」
「生憎だが、お家に帰るためには、あんたらを殺さないといけないんみたいでな」
「それは残念だ。フフフグハハハァ!まぁ良い。貴様がこないとゆうのであれば危険な因子は早めに摘み取らんといけないということ。
悪いが死んでもらうぞ?
といっても俺が殺すことにはできない。勇者なら軽く殺せるが貴様は俺様の手ではなく自然の摂理によって死んでもらう」
零蒔はこれに賭けていた。ハウルは“勇者を殺せ”という命令を受けていて騎士は愚か巻き込まれた者を殺すようにとは言われていなかった。
騎士も殺すと言うのであれば、騎士が勇者を逃がしているあいだに潰しに掛かってくるのにそれをしなかった。零蒔はそれは「勇者」のみを標的としているからと仮説を立てた。
まだ扉の前に溜まっているのを零蒔が見た後、決意した顔でシンクに向かって叫んだ。
「シンクさん!!!今から多少ですが時間を稼ぎます!今のうちに転移石のところに行って待っていてください!すぐに向かいますから」
先ほど金井を転送した転移魔法で転移先を固定してなければランダムな場所に転移することになる。自然の摂理というのは恐らくそういうことだろうと踏んだ零蒔は武器庫から鏡月を出した。
ーーー
「シンクさん!零蒔が俺らを逃す代わりに犠牲になろうとしてるんですよ⁈なんで救おうとは思わないんです?」
零蒔があたかも自分が死ぬと思わせる発言を残しボス部屋から離れたシンクさんに愁はなぜ助けないか激昂していたが、すぐに黙らされてしまった。
シンクさんの部下に気絶させられ眠らされたのだ。愁が逃げ延びられたのを涙を流し喜んでいる女子達が零蒔の心配をしている男子達をある一言で怒らせることになった。
「葉山くんが助かってよかったよ〜!零蒔くんのおかげね。零蒔くんが犠牲になってくれたおかげで助かることができたんだね」
悪気はなかっただろう。だが、このクラスの男子は、葉山という人間を慕ってはいるが、実際に男子達を束ねている人物が零蒔であり、みんなのリーダー的存在であったことを知っていた。そんな零蒔が自らを犠牲に愁を救ったというのに零蒔が死んでもよかったと思わせる発言をしたため、女子達に怒りを覚えたが、あえて押さえ込んだ。今この状況で言ってはいけないと思ったからだ。
「シンクさん!!!今から少しですが時間を稼ぎます!今のうちに転移石のところに行って待っていてください!すぐに向かいますから」
零蒔が叫んだことに気がついたシンクはすぐに行動に移った。春や琴音はボス部屋に零蒔が残るとわかるとショックを受けたように崩れ落ち気を失った。愁の帰還で歓喜していた女子の中で唯一零蒔を心配していた南ですらオボついた足つきであった。
「おい、レイジ!絶対助けに来るからな!少しだけ踏ん張ってくれ」
シンクは少しでも励みになる言葉を投げかけた後、勇者一行と騎士団を連れて30層を後にしようと動き始めていた。
それ絶対こないやつですよね、シンクさん。でもまぁ、信じてますよ。だから今俺がここで少しでも時間を稼がなきゃいけない。なら逃げ回る形で行くしかないな
零蒔は目の前にいるハウルに対し、臆した態度をとらず迷いの無い目で睨みつけた。
「貴様が本当の勇者に見えてきたんだがな。なぜ巻き込まれた人間なのだ?」
ハウルにとって目の前にいる零蒔は脅威に感じていた。己の都合ばかりで行動する勇者や守るべき者を明確することができない騎士達、私情で悪魔に乗っ取られた勇者に失望していた。
巻き込まれの人間でありながら守る義理もないはずの騎士達に勇者達を任せ逃すように指示を出す。そして、目の前に魔王軍の幹部だと分かっていて一切の怯えた態度、感情を表に出していない表情。死を覚悟し迷いの無い決意。
このどれもが勇者に欠如しているものが巻き込まれに備わっていることに畏怖しているのだ。決して、勇者が強いという確証が消え去ってしまったのだ。己の考えだけでなく、世界の条理として証明されてしまった。
「ふっ!どうした?巻き込まれの俺に怖気付いたか?」
零蒔は渋い顔で黙って自分を見つめるハウルに挑発を仕掛けた。
「グハハハ!貴様が怖いだと?そんなバカな。俺を誰だと思ってる?」




