18 美月、荒ぶる
体育館の上に浮かび上がり、〈XXヴォルケノーヴァ〉は空を飛び回る二機の〈疾風〉を見上げる。正直に白状すれば、美月はあんな風に空を飛ぶことができない。どうにも空中で機体を制御することに慣れないのだ。できる人はすぐできるようになるというから、美月にはあまり才能がないのだろう。
しかし〈XXヴォルケノーヴァ〉には操縦者がどうであろうと関係ない。美月はレールカノンを取り出して盾を構えた。
敵の〈疾風〉は回避機動を取りつつ、〈XXヴォルケノーヴァ〉にショットカノンを撃ち込んでくる。動かない相手への射撃なので初期型〈疾風〉でも的をはずすことはまずない。美月は盾と装甲で耐え、レールカノンを撃ち返した。
通常なら地上に静止している状態からGDがレールカノンを空中のGDに向けて撃っても、全く効果はない。GDのレールカノンは艦船や砲塔のそれと比べて小型であり、その分威力や弾速が低いのである。
しかし空中を超音速で飛び回れるGDであれば加速をつけて有効射程、威力を伸ばしたり、相手の弱いところを狙ったりということが可能だ。威力や弾速のために大型化すれば取り回しが悪化し、命中弾が出なくなるだけでむしろ使えなくなる。なのでGD携帯用レールカノンが弱すぎるという批判はあまりない。GD用のレールカノンは威力、弾速に関してはほとんど進歩がないまま使われ続けている。
よって〈XXヴォルケノーヴァ〉が撃つGD携帯用のレールカノンは〈疾風〉にダメージを与えられない。そもそも回避機動をとる〈疾風〉に命中させることができないし、間違って当たったとしても盾や装甲を貫通できない。普通ならそういうことになる。だが専用GDの力は、そんな常識を覆した。
美月の放ったレールカノンの砲弾は回避機動をしている〈疾風〉に命中し、分厚い盾と胸部装甲を貫く。〈疾風〉は爆発炎上し、市街地に墜落した。同時に〈XXヴォルケノーヴァ〉が構えていたレールカノンの砲身が破裂するが、美月は気にしない。
「さぁ……もう一機……!」
コクピットで美月はつぶやく。怒りで血液が沸騰しているような感覚なのに、頭は不気味なほどに冷静だ。背中に刺さったチューブを通して美月に投与されている薬の効果が出ているのだろう。
この薬物による感情制御システムこそが、先程の敵機撃墜を実現した秘密だった。グラヴィトンイーターが感情を昂ぶらせればそれだけ重力子のエネルギー変換効率と変換上限は上がるのだ。
まず怒りの感情を増幅させて無理矢理出力を上げ、レールカノンの威力を高める。一方で脳だけは落ち着かせて、冷静に射撃を行う。こうして美月は〈XXヴォルケノーヴァ〉の新型火器管制装置による補助を受け、威力を増したレールカノンによって〈疾風〉を撃ち落としたのだった。
さて〈疾風〉はもう一機残っている。残った〈疾風〉のパイロットは味方が撃墜されたのを見て迷わず〈XXヴォルケノーヴァ〉に突っ込んできた。射撃戦だと勝ち目がないと見ての行動だ。格闘戦なら機体性能差をある程度詰められる。
「好都合だわ……!」
美月は今にも獲物に飛びかかろうとしている獣のような笑みを浮かべ、機体を発進させてプラズマレンチを抜く。美月の体に流れ込む薬物の種類が変わり、美月はたちまち興奮状態となった。
取っ組み合いであれば細かい戦術など関係ない。勢いとパワーの方が重要だ。敵は接近しながらショットカノンを撃ってくるが、知ったことか。普通なら恐怖で動けなくなりそうなくらいにコクピットは揺れていたが、今の美月は恐怖より敵を殺したいという欲求の方が勝っている。
美月は大腿部にマウントされたハンドバルカンを乱射しつつ、〈疾風〉に斬りかかった。敵パイロットはベテランのようで、うまく〈XXヴォルケノーヴァ〉の手を押さえて密着状態で美月と同様に太ももからハンドバルカンを撃ってくる。自分が傷つくので普通はやらない戦法だが、双方とも余裕がなかった。
美月は取っ組み合いに応じ、二体のGDは校庭で転げ回る。校庭では男子が体育の授業でサッカーをしていたのだが、今の美月はそのようなことを気にしてはいなかった。逃げ遅れた男子生徒数人を踏み潰しながら戦いは続く。
最終的に勝ったのは美月である。専用GDの出力に任せて美月は腕力で敵機の四肢をもぎ、とどめにプラズマレンチを胸に突き刺す。コクピットを高温のプラズマで焼かれ、〈疾風〉は完全に沈黙した。
こちらも酷く損傷してしまったが、問題はない。美月は薬物で再び強制的にグラヴィトンイーターとしての力を絞り出し、重要部分の時間を巻き戻して修復する。
さすがに修復作業は神経を使うので多用はできない。しかし本来グラヴィトンイーターとしてひよっこのはずの美月が、時間操作までできるというのは感情制御システム様々だ。おかげで美月はまだ暴れられる。
敵はGDだけではないのだ。きっと美月を進だと勘違いしているのだろう、校庭に侵入している生身の兵士たちが迫撃砲やら携帯式対戦車ミサイルやらで必死に美月に攻撃を仕掛けていた。もちろん正面装甲に効果はない。
美月はハンドバルカンをハードポイントからはずし、テロリストたちを掃射する。
「死ね、ゴキブリども! お兄ちゃんには指一本触れさせない! アハハハハッ!」
高笑いが止まらない。美月の目の前で進を殺しに来たアメリカ人たちは次々とミンチになっていった。




