アリア
白竜のアリアは、青と白の2色のローブで軽装な装備だ。小さなマントと、腰のあたりで切り揃えられた青い髪が風になびく。
体型は人型の女性と変わりないが、顔立ちは美術館の彫刻のように清楚に整っていて、耳が少し尖り、ちょっと冷たくて怖そうな白竜の面影を残している。
「おい!こんなNPC知らねえぞ!」
ロイドは背中に装備していたボウガンを手に持ち替えた。
「くそ、直ぐ来い、酒場の裏だ」
ロイドは耳に手を当てて、フレンドメッセージで誰かを呼びつけている。
カシュッ。
アリアに向けて放たれたボウガンの矢が、一直線に飛んで行く。しかし、アリアは矢を片手で受け止めると、つまらなそうに道端に捨てた。
「うそだろ、麻痺毒も塗ってあるのに……」
「私に姑息な呪いの類は通用しません」
アリアは全ての状態異常に対して完全な耐性がある。
「いきます」
アリアはロイドに向けて疾走し、素早い横蹴りが水平に弧を描いてロイドに炸裂した。
「ぐあっ」
ロイドはアリアの一撃で、遥か後方の壁面まで吹っ飛び、絶命まであとわずか………。
「ありえない、なんだこの強さは……くそ、これは出し惜しみしてる場合じゃないか」
ロイドは腰から時折に暗点して滲んで見える投げナイフを引き抜いた。
「ふふふ、お待たせ」
黒ずくめの踊り子風の錬金ギルドマスター、サラがロイドの側に突然現れた。
「ヒッヒッヒ。よし、サラこっちだ」
グサッ………、サラの背中へロイドは短剣を突き刺した。短剣はすぐに光のクズとなって消えた。
「仲間割れ?なんなんだ?」
1号はロイドとサラの状況が掴めず、呆然と二人を見ていた。
ーーデバックコマンド
「対象一人の設定変更を受付ました」
「いいわぁ、かつてない程に力が湧き上がるわ!」
「ヒッヒッヒ。あったりまえだ、最大限のラスボス級まで引き上げた取っておきだぜ」
ーーラスボス?引き上げる?……あの短剣、やな予感がする。
「白竜さん、気を付けてください!」
「わかっています。……それと、アリアで良いです」
アリアは1号の呼びかけに素直?に応じてくれた。
1号に付与されていた状態異常の麻痺が解除された。マルコはまだ昏睡状態で見ていられない。
「よし、やっと動ける。………マルコさんしっかりしてください!」
1号はマルコを建物の奥の安全な場所へ退避させた。
「サラ、一気にかたずけろ」
「いいの?ふふふ、了解したわ」
サラは静かに両手を組み合わせると、呪文の演唱を開始した。
上空に黒い点が現れ、外壁や街路樹といったオブジェクトを吸収し始めた。オブジェクトを黒い帯状に溶かして、糸を巻き取るように。どんどん巨大化し、その質量を増やしていく。
ーーアリアさん?向こうの呪文凄そうですけど…………?
「どこのNPCの嬢ちゃんか知らないが、もさすがに無理だろ。ヒッヒッヒ、闇系最大呪文だぜ」
ただの職人系のギルドマスターが扱うには、明らかにおかしい呪文だ。
「うおおおお、なんだそりゃー」
1号は自身も黒い巨大な玉に引き寄せられ、近くの木にしがみ着くが、長くは持たない気がする。
「人族にしては割と芸があるようですね。仕方ありません、その魔力に見合う秘儀を見せましょう」
アリアは片手で照準し、空いた片手をこめかみに当てて、呪文の演唱を開始した。
照準した手の先に、微かに光が小さな玉となって現れた。
「いくわよ!円環の黒渦」
サラが放った闇系の最大呪文は恐ろしく膨大な質量となって、アリアに向かってゆっくりと落とされた。
ーーもう無理だ………どんどん引き寄せる力が強くなっている。1号のしがみついていた木が限界だ。
「いでよ、創始の貧欲者」
アリアは手の先に、直径1メートルくらいの白いカメが現れた。白いカメは大きな口で、飛び散っている地面、街路樹、外壁を問答無用に捕食しながら、黒い巨大な玉へ向かって行く。そして、消しゴムのように、食べたオブジェクトを無かった事にする。
黒い巨大な玉の闇魔法も例外ではなく、食べる。食べる。
白いカメが闇魔法の中心部分を到達すると、黒い巨大な玉は爆発、四散してただの灰になった。
「バカな、ラスボス級に改変したんだぞ、負けるわけがない」
「いやいや、勝てるわけがないのだ」
ロイドが唖然としている横にひょこり、賢者バージョンのロリ博士が現れた。
「あれはラスボスを倒した後で会える裏ボスじゃからな」
「は?」
「え?すごいネタバレ聞いちゃったんですけど……でも、通りで強いわけだ………」
1号が見つめる先でアリアは、降り積もる黒い灰に苛立って、風呪文を乱発している。白いカメは役目を終えたのか、消えている。
「ん?ラスボス倒さないと会えない…………あれ?」
「ロイド改め、うちの元開発メンバーのカルタスよ。証拠は全部抑えさせてもらった。ログアウトした先も抑えてある。何か言いたいことはあるか?」
「俺の方が技術は上だ……上のはずなんだ………負ける訳ない……」
ロイドは座りこんで自分の手を見ながら、小さく呟いた。抵抗する素振りを見せていない。
ロイドは開発していた経験を利用して、スークの薬の威力と効果時間を改変していた。また、NPCの錬金ギルドマスター、サラの性格とステータスも改変し、ゲーム内の混乱を引き起こしていた。
改変された内容を戻すのは簡単だったが、イタチごっことなるため、改変する現場を抑えて、本人を取り押さえる事が必要だった。
緊急アップデートが開始されて、スークの薬の威力と効果時間及び、サラの状態が本来のステータスへ戻された。
ロリ博士は1号へ調査を依頼するにあたり、ブラックドラゴンのドロップアイテムの装備品にスークの薬を無効化する仕組みと、レベルダウン耐性の効果を加えていた。日の目を見る事はなかったが、ひっそりと戻される事になる。
黒い灰が舞い散る中、スークの薬事件の首謀者を確保して、クエストは「めでたし、めでたし」となった。
2015/2/19:錬金ギルドのマスターの名前を修正した。メイヤ->サラ




