錬金ギルド2
スークの薬の製造工場を突き止めた1号とマルコの二人は、2階のベランダから進入に成功した。
部屋はベッドが6台、寝泊まりだけに使用されているような簡素な室内だ。
「あ」
「あ」
部屋に入った瞬間、部屋のドアが開き錬金ギルドのメンバーと鉢合わせてしまった。
「い、いよう」
「お久しぶりですね。マルコさん」
あれ?マルコさんの知り合い?
「そちらの方は?」
「新しく入ったギルドのメンバーだ」
「ど、どうも1号です」
突然紹介する運びとなったので、1号はぎこちない挨拶になってしまった。
「あなたが1号さんでしたか、私はカインと言います。元盗賊ギルドのメンバーです」
「そうか、カインは錬金ギルドに入ったんだな」
マルコさんは懐かしそうに、カインさんとの再会を喜んでいる。
カインさんは大人しそうで、色が白く髪もロン毛で体型も華奢、マルコさんを真逆にしたような感じだ。
「マルコさんの事です。調べに来たのでしょう?スークの薬を」
「ああ」
カインさんから切り出してくれた。話が早くて、ありがたい。
「この部屋では、また誰か来るかもしれません。あと2時間で作業が終わるので、街の酒場の裏で待っててもらえませんか?」
「そこで色々話を聞かせてくれると助かる」
「はい」
1号とマルコは2時間後に会う約束をして部屋を出ることにした。
約束の2時間が経過して、二人は約束の場所である酒場の裏でカインを待っていた。
「すいません、お待たししました」
「いや、無理言ってすまなかったな」
マルコさんが申し訳なさそうにしていると、カインさんが紙袋を渡してきた。
「開けて見てください。見てもらった方が早いので、持ってきました」
「持ち出して大丈夫なのか?」
マルコはカインから手渡された中身を確かめようと紙袋を開くと、中から紫色の煙がモクモクと出てきた。
「まずい、1号逃げろ!」
「え?」
煙は1号とマルコの周囲に広がり、たちまち二人の視界を奪ってゆく。
「どうです?効くでしょう?錬金ギルド名物、麻痺霧ですよ」
カインの説明とケラケラという笑い声が煙の奥の方で聞こえる。
紫色の煙から1号とマルコは状態異常の麻痺を付与され、その場へ倒れてしまう。
二人の周囲の煙が晴れると、知った顔の男が腕組みをしてニヤニヤ笑っている。
「やっぱりてめえかロイド」
「ヒッヒッヒ、イイザマだなマルコ」
知った顔は盗賊ギルドのロイドだ。予想通り、薬の件に絡んでいた。
「よくやったぜカイン、これはご褒美だ」
ロイドはカインへ紫色の液体が入った小瓶を渡す。
「あ、あ、あ、ありがとうございます。うわぁー、まさかの最上級品だぁー」
カインは取り憑かれたように小瓶を抱きしめて、笑いながら何処かへ行ってしまった。
「さてと、ムカつくマルコさんにもご馳走してやるよ。ヒッヒッヒ」
ロイドの口が悪魔のように吊りあがり、カインに渡したのと同じ小瓶を取り出した。
「やめろ!」
1号がロイドに向けて声を荒げたが、体は一向に動こうとしない。
「わかった。飲んでやるから、1号は離してやれ」
マルコは覚悟を決めるが、ロイドにはそれが気に食わない。
「命令してんじゃねーよ」
ロイドはマルコの頭を掴み小瓶を口に差し込んで、紫色の液体をマルコに飲ませた。
「うご、ごおおおおおぉおぉ」
マルコは状態異常の昏睡、麻痺、混乱、魅了、レベルダウンが付与された。
「これでお前もスークのゾンビだぜ、ヒッヒッヒィ」
ロイドは身をよじりながら笑い転げる。
ーーフレンドメッセージ
『苦戦しているようですね』
「え?」
1号へ向けて直接話しかけてきたのは、竜の巣で出会った、大きな翼を持つ白い竜の白竜さんだった。
『お前には借りがあります。私の真の名前を呼びなさい』
ーー召喚コマンド受付準備完了
「アリア」
1号が頭に浮かんだ名前を呼ぶと、目の前に1枚の巨大な石版が空から落とされた。落とされた石版の文字が不規則に光り輝き、すべての文字が光終えると、石版は砕け散った。石版の欠片は人の形に集まり、再び眩しい光に包まれると、一人の女性が現れた。
「人ごときの相手であれば、この姿で事足りるであろう」
白竜は人化し、1号の召喚に応じた。