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代理屋  作者: 終夜烏
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好きな芸能人の秘密を知る事ができるかもしれない機会が目の前にあったならば、多くの人は、その秘密を知りたい、と思うのではないだろうか。直接会って話をする機会があるかもしれないとなったら、みんな一度は会って話をしてみたい、と思うのではないのだろうか。

「…………」

そんな機会が、今、俺の目の前のスマートフォンの画面の中にある。

己の名前と連絡先、第三希望までの打合せ日時の指定と、用件を記入するスペースがひとつ。真っ白な画面にシンプルなフォームだった。まずは名前の欄に己の名前――均水(ひとみ)映司(えいじ)と入力して、連絡先の欄にはメールアドレスを。打ち合わせ日時は、講義が少ない水曜と、アルバイトの時間を避けた土、日の時間を指定した。そして肝心の用件の入力だったが。

――「河合(かわい)玲人(れいと)に会いたい」と入力しても良いのだろうか、と不安が過る。「事務所を通してくれ」と突っぱねられたり、とんでもない金額を請求されたりはしないだろうか、と思い至ったのだ。

ホームページ内の料金説明では、このサービスの利用30分につき700円、1時間で1400円、という記載はあった。他に、交通費、飲食費については依頼者が持つ、というルールのみ。特別料金、という表記も項目もなかった。その、本当に簡潔な料金体系を信じて、メールフォームの用件の部分には、「河合玲人に会いたい」とだけ記入をした。

俳優、河合玲人とは、知る人ぞ知る俳優である。主役を務めた事はないが、主人公の友人役、クラスメイト、主人公と敵対する組織のナンバーツー、など、いわゆる脇役として、数々の映画やドラマに出演している。俺が彼を知ったのは、当時好きだった漫画の実写版で、主人公の店を訪れる客の1人を演じていた時だった。次に見かけたのは、当時人気だった学園ドラマのクラスメイトの1人だった時。初めに見た時とは随分と印象の違うキャラクターだったのに、どちらも違和感なく世界観に溶け込んでいて、「俳優って凄いな」と思った。そして気付けば、見る映画、見るドラマのどこかしらに彼が紛れ込んでいる事に気付き、その役作りの完璧さに感心し、気付けば彼のファンになっていた。今では周囲も認める河合玲人ファンだ。ただ、あまりにも作品に馴染みすぎるせいか、彼自身の知名度はあまり高くない。そのせいで、俺は周囲から、いわゆる映画オタクだと思われてもいる。

それはさておき、このメールフォームにその名を入れ、「会いたい」と書いて送るだけで、本当に会えるのだろうか。

疑いつつも、怪しい雲行きになったら逃げるなり断るなりすれば良いか、という気持ちで項目を埋め、少しばかりの緊張を覚えながら送信ボタンを押し下す。『申し込みを受け付けました』という素っ気ない回答が画面に出て、俺は思わず溜息を吐いた。どうやら知らずに息を詰めていたようで、その時ほんの少しだけ、くらりと眩暈がした。

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