恋を教えてくれるって話、どうなった?!
「おい!!どうなってんだよ!!一体いつになったら…教えてくれるんだよ?!」
「えっと…確定はできないかな?ごめん、気が向いたら…」
「お前はずっと、ず――――――ッと!!そればっかじゃねえか!!いいかげん観念しろっての!!いつまでも女々しく逃げ回ってんじゃ…ね~よっ!!!いっつも二秒で消える仄かなニオイだけ残して消えやがって…今日こそ逃がさねえからな!!!」
のどかな公園の、噴水のほとりで口げんかをしているのは…契約魔法と芳香を纏わせる魔法ですね。
行き交う魔法たちが何事だろうという目で二人を見守っています。
たまに微笑んでいる魔法もいますね…ずいぶん年季の入った魔法のようです。
ちょっと怖がっているのは、まだここにきて間もない魔法でしょうか。
「俺は…人間史上最大の契約である結婚というものが知りたい、ただ…それだけなのに…クソっ…」
まじめに、情熱的に、まっすぐに気持ちを伝えている契約魔法がいますね。
「いやね?!だから…人ってのは結婚というルールを用いて人生を共に過ごす契約をするんですよ~、それでいいじゃない??わざわざ魔法くんだりが結婚が何たるものなのかを知る必要はないと思うな~!」
無難に、淡泊に、そっけない感じで返事をする方向を纏わせる魔法がいますね。
「 だ か ら ! ! ! なんでその契約に至ることになったのか、そこが知りたいんだよ俺は!!恋というものをして、結婚という契約を結ぶに至るまでの道筋…お前が教えてやってもいいって偉そうにぬかしたんじゃねーか!!忘れたとは言わせねーぞ?!」
顔を赤くして力説する、契約魔法。
それを目の当たりにして、芳香を漂わせる魔法が引いています。
この感じは相当…今までもはぐらかしてきた感じでしょうか。積もり積もった不満が猛威を振るっちゃってる感じですね…。
今までと同じようになあなあに対応し続けることは難しそうですよ。
「人は誰かに恋をして、愛を育てるために結婚という契約をし、共に過ごすって教えてあげたでしょう?それじゃダメなの??」
「その恋というシステムがわかんねーんだってば!!本人と誰かがいて、二人で落ちたり、一人で落ちたりするところまでは聞いた。ずっと一緒にいたくなる気持ちが好きってやつだってのも、なんとか…。でも…二人でどうなる事が恋なのかが分からないし、恋という状態が何なのかさっぱりだ。お前の説明は不足でしかない、かえって不安を煽るんだよ!!!」
契約魔法の目にうっすらと涙が浮かんでいますね。
これは相当…追い込まれているみたいです。
「…そもそも、恋をするのは、基本的に人間だけの話でね?人間だって、わざわざ…しようと思って意気込んでするもんじゃないわけでね?なんていうか、あなた全部間違ってる。まずはいったん落ち着いてみようか、うん」
魔法は、魔法でしかありません。
人の心を得たとはいえ、人そのものではありません。
芳香を纏わせる魔法の言い分は、至極真っ当なことではありますね。
「これが落ち着いていられっかよ!!『恋を知らない魔法は本当の愛も知り得ない』って、魅了魔法の重鎮が言ってたんだぞ?!あのクソベストセラー、お前も読んだだろ?!束縛魔法だって…恋を知らなきゃ話にならんと鼻で笑いやがるしよぅ…、だから…、俺は…!!」
ああ…契約魔法が頭を抱え込んでベンチに座っちゃいました。
随分思い詰めているようです、かわいそうに…。
「……ねえ、そもそもなんで、あたしに聞いてくるの?他にもいっぱい魔法いるじゃん、恋に詳しそうな魔法。浮遊魔法とか昏睡魔法とか水魔法とか巻き戻し…
「恋は魅了系が得意なんだろ?!おまえ、散々俺のこと酒の席でいじったじゃねーか!!淡々と紐づけるようなやつに繊細な恋心は理解できないかもねwwwってさあ!あたしが教えてあげよーかって…エロい目で俺のこと見たじゃん!!これでも魅了系の端くれだって、えらそうに御託並べたじゃん!!」」
身に覚えがあるらしい芳香を纏わせる魔法が、ちょっとヤバいって顔してますね。
「その場のノリで口走った事は…謝る。でもね、はっきり言ってあたしには荷が重いよ。だって…あなたとは相性が悪いってレベルにすら届かないもん。そもそも、ふんわり漂ってはいつの間にか消えてるあたしとガッツリキッチリ固めにかかって証拠を掲げるあなたとじゃ接点も共通点も無くて…
「頭が硬くて融通がきかないって事は…嫌っちゅーほど自覚してんだよもっちは!!ぶっちゃけさあ、俺、ヤンチャな爆発系の知り合いしかいなくて…お前ぐらいしか頼れねえんだわ、マジで。ラブラブするたびに暴風浴びたり灼熱に炙られんのもヤダしさあ…、だからお願いプリーズ、ちょっとだけ、なっ!!!」
うん?
芳香を纏わせる魔法の表情が変わりましたね。
「…あのさあ、その、ぐらいっていういい方、どうなの?」
どうやら…契約魔法は芳香を纏わせる魔法の逆鱗を踏み抜いたみたいですよ。
「その上から目線、なんなん?それ、なにかを頼む態度じゃないよね。そんなんじゃ恋はできないと思うよ?だって好きになる要素バチクソ塗りつぶされるもん。憧れろとまではいかないけど、せめて同じ目線で物事を見られる関係性じゃないと無理無理!契約が専門なんでしょ?そこらへんのさあ、バランスのとり方とかわかんないの?ねえ、何年契約魔法やってんの??」
「ちょ…おま、俺のことバカにしてんのかよ?!」
おお、契約魔法の表情も変わりましたね。
「まずはそのディスりグセ、治して来なよ。そんなんじゃ百戦錬磨の惚れ魔法だって怒るわ。恋ってのはね…怒りで発進するもんじゃないの、着火する、させるもんじゃないの!!もちろん命令されて落ちるもんじゃないしね!!はっきり言ってお子様…ううん、魔力の萌芽よりも貧弱で話になんない!!今のアンタに恋をする資格は…微塵も、ない!!」
おお~!!!
芳香を纏わせる魔法がビシッと人差し指を突き出した時、噴水のまわりにいる魔法たちから感嘆の声が上がりましたよ。
どうやらみんな事の成り行きを気にして…固唾を飲んで見守っていたようです。
「え、オレ…ディスってんの?やべ、マジ無自覚だわ…」
根はクソ真面目な契約魔法は、自分が無礼を働いていた事を突き付けられて…愕然としています。
染色魔法にかかったみたいに、ぐんぐん青く変色しています…これは相当ダメージが大きそうですが、大丈夫なんでしょうか。
「……恋に憧れるのであれば、まずは小説でも読むんだね。まず初めに自分が恋をしようとするんじゃなく、誰かの恋のお話をなぞって、恋というものを知って、それからでも遅くないよ。…ま、それぐらいは待っててあげる。……男、魅せてみなよ!!!」
根はやさしい芳香を纏う魔法は、八重歯をきらりと輝かせて微笑み、その場を立ち去りました。
「………。」
……気のせいですかね?
キュンという胸の音が聞こえたような気もしますが…、どうなる事やら。




