昔書いた童話。
日の当たらない、誰も気づかない場所でひっそりと咲いていたたんぽぽは、いつも太陽に向かって力強く美しく咲く向日葵に、とても憧れていました。
お天気の日も、雨の日も、風の日も。
いつも向日葵のことを想っていました。
向日葵への恋心は日に日に募っていき、たんぽぽは自分の想いを詩や物語に託すようになりました。
そして向日葵に気持ちを伝えたいたんぽぽは、月の美しい夜に向日葵に話しかけたかったけれど、たんぽぽの声はまるで囁き声のように小さくて、残念ながら向日葵には届きませんでした。
年月は流れ、たんぽぽは自分の流した涙でできた、小さな悲しみの泉のほとりで静かに咲いていました。
向日葵はますます美しく咲き誇り、人々が見惚れてしまうほど、毎年見事な大輪の花を咲かせます。
たんぽぽは自分とはまるで違う、キラキラ輝く向日葵の笑顔が大好きで、哀しみに沈んだ自分の姿を寂しく思いました。
そしてせめて向日葵がいつも笑顔でいられるように、毎晩月の女神様にお祈りをするのでした。
そんな日々がしばらく続き、たんぽぽは思いました。
私もいつか向日葵のように、もう一度光あふれる笑顔で咲くことができるはず、と。
きっと向日葵の、未来を真っ直ぐに見つめる美しくひたむきな眼差しが、たんぽぽの心に変化をもたらしたのでしょう。
ひとりぼっちのたんぽぽは勇気を出して、まずは泉に住む魚達と友達になりたいと思い、その想いを綿毛に込めてフワフワと飛ばしました。
魚達は、水面に浮かんだたんぽぽの綿毛を受け取って、どうしたの?と、ぴょこぴょこ顔を覗かせます。
たんぽぽは一生懸命魚達に事情を話して、魚達とたくさんおしゃべりができるように、心を開いて自分の気持ちを伝えるように努めました。
そしてついにたんぽぽは、たんぽぽらしい素朴な笑顔を花びらいっぱいに浮かべるようになり、魚達は「よかったね」と、優しくたんぽぽの幸せを願ってくれました。
また少し月日が流れました。
幸せな気持ちでいっぱいのたんぽぽは、空から降り注ぐあたたかい陽射しを愛し、愛を謳う詩や自然が奏でる音楽を愛しました。
そして今では、泉のほとりにたくさんの美しい花々が咲くようになりました。
たんぽぽは魚達や花々に、たんぽぽが空想して作った、ロマンチストで童話や詩が大好きな女の子の恋物語を話して聞かせました。
友達ができた喜びと、そして何よりたんぽぽを変えてくれた向日葵への感謝の気持ちを込めて、それはそれは楽しそうに物語を作り続けました。
しばらくして、たんぽぽは心を込めて、叶うことのない向日葵への愛の歌を作ると、魚達や花々に歌ってもらいました。
本当は、たんぽぽは自分で歌いたかったのですが、上手く歌うことができなかったのです。
ある日、美しく澄んだ瞳をした神様が、楽しそうに物語や詩を作り、笑顔で風にそよいでいるたんぽぽを見つけて、隣に座ってくれました。
たんぽぽは恥ずかしくて真っ赤になってしまいました。
実は友達の魚達も花々も、全てはたんぽぽの空想で、たんぽぽはいつも泉のほとりで楽しそうに一人でおしゃべりし、夢見るように物語や歌を作り続けていたのです。
そんなたんぽぽに、神様は「気にしなくていいんだよ」というふうに笑顔でこう言いました。
「綿毛が風に吹かれてフワフワ飛んできたんだ。受け止めた綿毛から『向日葵さん、ありがとう、大好きです』って声が聞こえてきたんだよ」と明るく笑ってそう言ってくれました。
向日葵は優しい心を持つ故に、太陽と月に愛され、この星の神様となったのです。
向日葵はたんぽぽの孤独な心を救い上げてくれました。
たんぽぽは生まれて初めて、声を上げて泣きました。
大好きな向日葵の優しさが嬉しくて嬉しくて、涙が止まりませんでした。




