チャプター21 嫉妬の再来
死神を殺すという任務のミーティングから一ヶ月が経とうとしていた。
その任務はすぐさまできるものでは出来なかった。対象が人間でないため居場所を掴むのに時間がかかると天津は言っていた。だが、シロはここまで待たされるものだと思っていなかった。
ミーティング後、天津が言っていたことを思い出す。
(いいかい?今回はいつ黒田を見つけられるかわからない、端末を手放さないでくれよ。見つけたらすぐ連絡するから、早く現世に下りてくれ)
「って言っても一ヶ月はかかり過ぎじゃないか?」
そう独り言をいいながら自分の端末へ目を向ける。シロは200行にわたるジャッジメント機能の詳細に目を通していた。そして大門が言っていたことも、ふと頭に浮かぶ。
そのとき端末は何かを言いたげに、光を点滅させる。
(一之宮、零花…黒田は俺がやる…)
そこまで彼を駆り立てたものは何だったのだろうか、シロはそれについて考えていた。シロは大門の過去を知らない。知らないからこそシロは大門に深く関わろうとしなかったし、知ろうともしなかった。自分を含めここにいる死神たちは大なり小なり自分の人生に絶望したからこそ、ここにいる。そこには死神たちそれぞれのトラウマがある、シロはそれを掘り返してまで他人を知ろうとは思わなかった。
端末を机の上に置き、外出する準備を整える。外出するといっても仕事用の黒いスーツを着用していかなければいけない。一ヶ月近くそんな生活だったため、シロはうんざりし始めていた。シロがネクタイを締めようとしたとき端末が鳴る。それは任務を開始する合図だった。
シロは急いで石門に向かう。そして、すぐさま自分自身を現世へ転送する。転送された先にはすでに零花と大門は到着していた。
「今回は…千代田区か…」
現世に降り立ったシロを見るやいなや、大門は追加情報をシロへと伝え始めた。
「この先の空き地に黒田がいる。現在、確認出来るのは黒田ただ一人だ」
「とりあえず、どうするんですか?」
「空き地へ向かう。そして黒田を…殺す」
見たことのない大門の怒り、悲しみを含んだ表情はシロに恐れを与えていた。三人が空き地に着くと見たことがある光景が広がっていた。黒田と血を周辺に撒き散らしながら倒れている人が空き地にはいた。黒田も三人に気付いたらしく振り向こうとしていた。黒田が振り向く寸前に大門は黒田に向かって地面を蹴った。それは一瞬であった。黒田のもとに辿り着いた大門は自分の端末を左手に持ち黒田の額へかざし、呟く。
「…ジャッジメント」
すると、端末は光を発し、黒田のすべての記憶、感情を読み取り始めていた。黒田は大門によってなされていることが新機能であることにすでに気付いた。それと同時に大門へ怒りを向ける。
「これが…新機能…ねぇ…そこまでして俺の邪魔をしたいのかぁ?!!大門!!」
「黒田…お前はやりすぎだ…」
二人の過去に何があったのかわからないシロと零花だったが黒田を対象にした理由だけは聞いていた。存在の結晶は存在の許可証という大門の表現は正しいが正確ではなかった。存在の結晶はエネルギー源でもあった。一つの命を存在させるだけのエネルギーは相当なもので、たった一個だけでも死神一人分ほどのエネルギーを有している。
黒田は桜田麻里を殺すに至ったすべてに復讐するために力を欲した。しかし、どれほど自分が絶望していようが大門が二つ名もちになってしまっては自分の力だけでは勝てないことを黒田は理解していた。そしてそんな二つ名もちをも超える力を有する悪魔”リヴィアタン”も、神である天津も彼にとっては復讐の対象だった。ならば自分以外が持つ力、存在の結晶を集めるほかなかった。
大門は過去を思い出しながら黒田に語りかけていた。
「なぁ、黒田。桜田が望んだことは復讐じゃないことぐらいわかっているんだろ?今すぐ存在の結晶を破壊しろ。いまならまだ引き返せる」
「なにを言ってるんだい…君はぁ…確かに彼女は復讐なんて望んでいなかっただろう…この復讐は俺が望んでいるんだからぁ…関係ないね…それにもう彼女の命はもとには戻らないんだよぉ……」
大門の端末は光を放ちながら黒田の罪をまとめ上げる。黒田が人を殺し集めた存在の結晶は約500個、40年という長い時を使い集めたものだ。神に気付かれないように集めた、その結晶は黒田の心を表すかのように色がくすんでいた。黒田の罪は各死神たちへ動画として端末に届く。それはシロや零花も例外ではなかった。その動画は初めてリヴィアタンに対峙するところから始まり、たった今殺したであろう空き地に横たわる人を殺すところまで映っていた。判決の集計を終えたかのように発光は収まった。
黒田の端末が判決の結果を知らせるためだけに鳴っていた。黒田が端末の画面に届いた結果を見るとそれを空き地にいる死神たちへ伝えるかのように話していた。
「結果は…有罪だそうだ…20572人の死神が賛成らしいねぇ…」
「もう引き返せはしない。黒田…俺はお前を殺す…」
「そうだね…僕も…君を殺す…後ろの二人にはこいつらにでも相手させよう。君を殺すのに邪魔が入ってはいけないからねぇ…」
そういうと黒田は自分の体に取り込まれた存在の結晶を4つばかり取り出すと周辺を漂っている実体を持たない何かに埋め込んだ。存在の結晶を埋め込まれた何かは力を増し、人のような形を取り始めていた。人の形を取ったそれは黒田の心を移したかのようにシロと零花に襲い掛かっていた。
二人が戦闘を開始したのを見計らい大門と黒田は殺し合いを始めた。
シロと零花は日ごろの訓練によってそこまで苦労はしていなかった。武器化することを覚えたシロはゆっくりではあるが確実に敵を追い詰めていく。戦闘に関してシロは初心者と思えないほど、飲み込みが早かったためサレオスとの戦闘を経て身のこなしをさらに上達させていた。
一方、大門と黒田の戦いは全くと言っていいほど均衡しており大門の剣筋を読みきったかのように黒田は反撃していた。またその反撃を読みきり、大門も応戦する。過去にチームを組んでいたことがよくもあり、悪くもあった。黒田の戦い方を大門は良く知っているが、それは黒田にとっても同じだった。そのためか二人の戦いは激しさを増すばかりだった。
「存在の結晶を500個集めても…同じぃ…なんでだよぉ…」
その悔しさを呟く黒田に大門は死角から一撃を入れようとしていた。迫る大門を回避する術が黒田にはなかった。
「同じじゃない…お前が弱いからだ」
そう言い放つ大門は黒田の首を跳ね飛ばそうと刀でなぎ払う。黒田は自分の死力によって作成したバタフライナイフを防御に回すが、武器のリーチが違いすぎた。刀の軌道をずらすのが精一杯で大門の刀の刃先に頬をかすめた。
「ちっ…なんで…いつもこうなんだ…」
黒田は悔しさで燃え上がる自分の死力をバタフライナイフの生成に使い自分の周りを埋め尽くす。それらは一斉に大門に向かい大門を切り裂こうとする。飛んできたバタフライナイフは数百本はあった。大門は自分の死力を自らの刀に使い、刀を再構築する。その速度はまばたき一回よりも短い。当然、黒田から投げられたバタフライナイフが大門を貫くよりも早い。自分の体を隠すほどの刀身をもつ刀を地面に突き刺し飛んでくるナイフから身を守る。防御することを知っているかのように黒田は大門の後ろへまわり込み再びナイフを投げ込んだ。
後ろから飛んでくるナイフには大門は同じ数の小刀を作り出し、それらを飛ばしナイフをはじく。ナイフに紛れ込んだ黒田は大門の首筋にバタフライナイフを突き刺しに忍び寄る。それに立ち向かうため大門は使い慣れた刀を作り、黒田のナイフを受けていた。
零花とシロは問題なく黒田の差し向けた敵を撃破すると彼らに与えられた存在の結晶を奪い返し破壊していた。破壊し終えた後、大門と黒田の戦いを見ていた。見守ることしか出来ないほど激しい戦い。手を貸してはいけない大門と黒田の戦いの結末を待っていた。
その戦いは少しずつではあるが、大門が押していることを確認すると二人は安堵した。
大門は黒田へ最終的な通告を告げていた。
「黒田、お前じゃ俺には勝てない」
「なんで…お前は俺が持っていないものを…くそぉ…くそぉ…」
「さっさと存在の結晶を渡せ」
黒田は大門の言葉に耳を貸す気はなかった。全身からほとばしるほどの死力をもってしても大門に一撃すら入れられないことにショックを隠せなかった。悔しさに震え上がる黒田が突如として叫びだすとともに彼の体を締め付けている何かがいることに大門は気付いた。
「くそぉ…羨ましいぃぃ…君の力が…羨ましいぃ…麻里の心を手に入れた君が…羨ましいぃぃぃぃ!!!」
「おい、黒田どうした?!」
黒田の体を見てみると何かに締め上げられている。
「ロープ…?いや、それよりも太い…動いている…?」
「羨ましぃぃぃいぃぃぃ…キミガァ…キミニィ…シットシテイル?ボクガ…コレガ…嫉妬…」
「この…声は…」
黒田の体は強い力に締め上げられる。締め上げているものが徐々に姿を現し始めていた。その姿は大門は知っている3人の運命を変えた相手だった。黒田の体には一匹の大蛇が巻きつき彼の体を粉々にしようとしているところだった。黒田の体は容易に破壊されその場に倒れこんだ。全てを理解した大門は過去を思い出し、汗が吹き出る。思い出された愛したものの哀れな姿、そしてその命を奪った自分、過去を思い出せば出すほど体は振動を強める。
「…大門…」
昔聞いたことがある黒田の声に思わず大門は彼に近寄った。黒田に絡み付いていた蛇は黒田から離れ上空に浮いていた。
「黒田…お前、憑かれていたのか」
「憑か…れる?」
黒田は声を出すのがやっとの状態で上を見上げるとそこには見たことのある大蛇がいた。それをみた黒田は自分の体がもうすでに壊れているにも関わらず、体を無理やり起し怒鳴る。
「リヴィアタン!!お前を殺す!!」
「何も…覚えていないのか?」
「なにがだよ!!俺はあいつを殺す…絶対に殺す…」
「やめとけ、お前の体は動けるものじゃない、それに…」
黒田は上空に目を向けていたが、そういいかける大門へ目をやると長い間チームを組んでいたときにも見せなかった怒りをあらわにした大門がそこにいた。
「こいつは…俺が…やる…」
リヴィアタンはそんな怒りもあざ笑うかのように上空でうねうねと次の居場所を探していた。
大門の怒りは本物だったが冷静さを欠くような馬鹿なことはしなかった。リヴィアタンを一人で相手できるほど大門は自分の力を過信していなかったため、零花とシロに声をかけていた。
「一之宮!!零花!!すまないが…過去の清算に力を貸してくれ!!」
シロと零花は過去の出来事を動画としてみていたため、人事で済ますことが出来なかった。シロと零花は大門とともにリヴィアタンへ対峙していた。シロは己の武器を手に一匹の蛇をにらみつけていた。リヴィアタンに対して大門は復讐相手の確認のために上空に浮く蛇へ問いかけた。
「お前は何だ…答えろ」
すると蛇は自身の体を巨大化させながら深く暗い声で名乗り始めていた。
「我は”嫉妬”…我は”蛇”…我は”悪魔”…我はリヴィアタン」
「待っていた…この時を…お前だけは…閻魔地蔵の二つ名に懸けて…殺す…」
そこにはシロと零花が知っている大門はいなかった。シロは大門の気持ちを完全に理解できたわけではなかったが彼の心に秘めた思いを考えると目の前にいる敵に対して少なからず、殺してやりたいという感情がわいていた。
眼前に広がる天災ともいえる荒れ狂う海のような蛇に敵意を向けるかのように三人は立っていた。




