『強欲のゼロサムゲーム』
海田が戻った屋上では複数個所にランタンが置かれ、
電気と言うインフラが消えた世界で夕食での"最後の鍋"が各グループで行われる。
食品の保存が見込めない事を全員が理解しているため、
鍋の味をしっかり噛みしめる。
…美優は違うが。
「今日はあの有名なラーメンの『赤天』のスープをもとにした鍋なんですねっ!これおいしい!」
といつも通りのテンションで鍋を食らう。
麗が「ゆっくり食べてよ美優ちゃん…」と静かに注意する中、
春香が神崎達の方へ目を向けると
「……!」
…東条が一人で神崎達3人のところへ歩み寄ってなにかを話している。
(東条さん…?そんな早く絡んで大丈夫なの…!?)
一緒に食べている彩芽が小声で春香にしゃべりかける。
「何か仕掛けてるわね…東条さん」
「………!」
「んだ東条…?」
とほろ酔いの神崎がドスを聞かせた声で言う。
「……」
立花は無表情で東条の目を見ており、
海田はチラッと東条の顔を見たもののすぐに鍋の具材を食べ進める。
「神崎……あんたまだまだ、こう言う"調理する前提の肉"を今後も食いたいよな?」
「ああ?あたり前だろうが」
「冷蔵や冷凍の技術がなくても『ある程度肉を長持ちさせる方法』を俺は知ってるぞ…?」
「……!!!」
神崎の目が変わる。
…そして立花も眉をひそめる。
さすがにそんな知識は立花でも持っていない。
それは別に難しい話でもなんでもなく料理などのジャンルに精通しているか否かの話である
「マジか東条!?お前できんのかそれ!?」
ネットがなくなって検索ができなくなった今、
"知識"と言うのは相当な武器になる…
「できる。…俺の後輩の経営者が飲食店オーナーをしていて、ソイツから教わった」
「じゃあやってくれや!」
と、酒も入って気分が良いのだろう、神崎は笑いながら東条の両肩を掴む。
「やるのはいいけど、それなら早く食料品売り場に取りに行った方がいい」
「ああ、そうだなぁ…!おい、海田、行ってこい!」
「え!?」
海田はさっき戻ったばかりなのに『また俺に行かせんのかよっ!?』と胸中で怒る。
そんな中、東条が口を開く…
「待ってくれ、俺も食料品売り場に一緒に行きたい」
と言った途端に立花が東条を睨む。
「…!」
立花は眉をひそめる。
東条は神崎に続ける。
「塩漬けでの保存方法だ。保存に向き不向きの肉もあるからそれを俺の目で判断したい」
…ちなみにこれは嘘だ。
東条は下のフロアへ物資を見に行くために嘘をついている。
しかし知識がない立花はそれを嘘かどうか判断できない。
ただわかっているのは東条本人が物資確認のため…いやそれ以外の目的も含む可能性がある事を見越して立花は怪訝な目を向けている
「んあ?そうなのか?じゃあ海田、東条も連れて行け」
と適当に命令する神崎。
…その中で立花が立ち上がり言う。
「神崎さん…俺も行きますよ」
「…!」
東条は立花を睨む。
「数は多い方がいいでしょ?」
と立花が言うも…
「だーめだ立花」
「…!?」
「お前は鍋担当しろ。鍋担当の海田がいなくなるんだから」
「…」
立花はキレそうになりながらも顔に出さずに神崎を見る。
「…わかりました」
…静かに座る立花。
そのまま立花は視線をとある所に向ける……
…その視線を受け取った人物が目を閉じる…
「春香ちゃん、ちょっとお手洗い行ってくるね…?」
…立花の視線を受け取り立ち上がる彩芽。
春香は返事もせずに鍋の具材を食べる。




