07
酔っているからなのか、バカだからなのか、意外にも、神崎がショッピングモールの食料品売り場へ降りていくと言い出し、それに付いていく赤髪と青髪。
ゾンビがいる危険性があるのをわかっているのだろうか。
こう言う物語の悪役の定説?では自分は危険を冒さずに他人を行かせるハズだが。
…しかしそれのおかげで屋上の皆は美味しい鍋にありつけた。
神崎達がカセットコンロなども売り場からかっさらい、鍋の素や調理器具や食材、あと酒も大量に持ってきた。
それだけやっても屋上のほとんどの人間が神崎達に怖がっている事は変わらないので酒を手に取る者はほぼいないが、
皆は感謝の声を述べてそれぞれ小グループに自然と小分けされカセットコンロで鍋を始める。
春香達4人もグループとなり、彩芽が率先して鍋をつくる。キムチ鍋だ。
「えのきっ!豚バラっ!」
美優が目を輝かせる。…別に鍋が嬉しいのではない。あれだけシェアハウスで鍋を誘ったのに一度も対応しなかった麗と食べれるのが嬉しい。
「彩芽さん、酒飲むんだ」
「そりゃーもらえるもんもらうっしょ」
「ハハ…あの神崎相手によく堂々と酒もらえましたね」
「あんな坊やおばちゃんにかかれば子供さ」
「おばちゃんはやめれ、それに神崎と歳変わらんでしょそんなにっ」
…鍋が出来上がりハフハフと味を堪能する。
ちなみに季節は夏。
神崎が言い出して神崎が勝手に取ってきたのが鍋の材料だったためこの季節外れの鍋を食べている。
…悪くない。
「そう言えば…いい機会だ。たまには身の上話みんなする?」
「え?」
彩芽の言葉に疑問符を投げる春香。
…今までシェアハウスのメンバーで生い立ちなどの深い話はした事がない。
そもそも興味はないし詮索も悪いと思っている。
美優は他人にうざがらみするタイプだが詮索はしない。
だから結局は顔と名前と現在の職業を知る程度の仲なのがあのシェアハウスの仲間たちだ
「言い出しっぺの私からね」
彩芽が油揚げを食べながら言う。
「私ね、いまの仕事でバリバリやる前、職場は今と同じなんだけど、やる気なしダメダメだったのよ」
「え…?」
バリキャリウーマンのイメージからは想像できない。
「なぜなら結婚を視野に入れてた彼氏がいたんよ。まぁぁぁ~おばちゃん惚れてました」
「おばちゃんやめてってだから…」
「フラれました…。『お前が完璧すぎるから無理だ』って」
彩芽は悔しそうな表情で豚バラ肉をかっ食う
「そりゃ『完璧な花嫁』目指して猛勉強と猛特訓しましたからねっ!」
「彩芽さん落ち着いて」
勢い良く肉を食べる彩芽に春香が汗を流しながら言う。
「そっからはもう仕事ひと筋。そしたら最初はヤケクソのつもりだったんだけど仕事楽しくなってね。そっからはもう出世街道を走ってやるって。まぁもちろん彼の事を忘れたいのが一番には変わりなかったけどね」
元カレの顔を思い出しながら肉を食い千切る。
「で、春香ちゃんは?」
「…!」
春香は豆腐を口に運びながら言う。
「わたし…顔出しでゲーム配信なんてやってるから陽キャに見られがちなんすけど……本当はただの落ちこぼれ陰キャなんだと思います」
遥は苦笑いを浮かべながら、遠い目をした。
「地方のフツーの大学出て、就活で勝ち取った就職先に勤めるも馴染めなくて(※ゲームでの遅刻が原因)半年で辞めちゃってさ。もとからゲーマーだったから配信で一花咲かせようと思って始めたけど、リスナー10人が最大の底辺配信者。カップ麺ばっかり食べて、自分でも『何やってんだろ』って思ってた」
…ジョーの顔が浮かぶ。
「でも…ゲームのおかげで…今日…麗ちゃんと美優ちゃんと逃げ出せる事ができた」
顔をあげる麗と美優。
「あの黒い虎みたいな化け物の攻撃を2回も鍋の蓋で受け止める事ができて…『ああ、ゲームしてて良かったな』…って思った…」
丈の顔を浮かべながらゲームの記憶を思い出しエモい表情になっている最中に彩芽が叫ぶ。
「え!?あの化け物の攻撃2回も防いだの!?鍋の蓋で!?バケモンじゃんっ!!!」
「なっ!?」
…まぁ確かに異常ではあるかもしれないが春香は顔を真っ赤にする。
「でも春香さんいないと無理だった!!!」
と美優がえのきを口に運びながら言う。
「私はですねっ!上京しましてまだ1年未満でしてねっ!」
"しゃべる" "食材を口に運ぶ" "咀嚼" をすごい勢いで同時進行しながら話す美優。
「どっちかにして美優ちゃん…」
それを麗が注意する。
美優は飲み込んで続ける。
「私は田舎の高校を出て、こっち大学に合格できたから出てきたんです。でも、田舎ではずっと家族に甘えてて、幼稚園児扱いされてて……何ひとつ自分でできない子供だったんです。上京すれば変われるかなって思ったけど、なんもない所で転ぶし、シェアハウスでは常に心細いし、大学でもドジばっかりで……。今日も、黒い大きな猫ちゃん見てパニックになって、ただ泣いて麗ちゃんにしがみつくことしかできなくて……私、ずっと誰かの足引っ張ってばっかりで……」
「そんなことないよ、美優ちゃん」
静かだが、ハッキリとした声で割り込んだのは麗だった。
「美優ちゃんが……私を叩いてくれたから私は助かったんだよ……」
春香の部屋で麗の右頬をビンタした話だ。
「もし美優ちゃんが叩いてくれなかったら、どうなってたかわからない…」
麗は小さく息を吐き、自分の手元を見つめた。
「私は……小さい頃から人と喋るのがすごく苦手で。学校でもずっと浮いてて。不器用で。自分は生きている意味がないのかなってずっと思ってた。正直人間が大嫌いだった。一人が一番楽だった。いい人とか悪い人とか関係ない。リスクは負いたくない。とにかく一人がいい。そう思いながら過ごしてた。……でも、シェアハウスに美優ちゃんが来てから、なにかとすり寄ってきて最初は迷惑だったけど」
「え!?迷惑!?」
ぎょっとする美優。
「今日美優ちゃんがいてくれて、春香さんが命懸けで守ってくれて、彩芽さんが助けてくれて………人ってこんなにもあたたかいんだ…信じてみようと思いました。…ベタかもしれませんけどね」
と照れ笑いする麗。
「麗ちゃんもっと食べよう!はい!美優特製の豚バラえのき巻き!」
と美優が鍋の具材の豚バラとえのきを使ってやっただけの豚バラえのき巻きを麗の口に「あーん」と押し付ける。
麗はそれを困った顔で食べる。




