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諦観の魔術師(2)

挿絵(By みてみん)

ジェトリウスがヴァステリアに与えたのはフェリオール邸の離れにある客室の1つだった。



「この屋敷は時計塔より明るくて掃除も行き届いてはいるが、いかんせん時の流れには逆らえんからな。扉を隔てた先は時計塔にある(ワシ)の部屋と繋いである」


「!」



ヴァステリアが客室のドアを開くと、その先は薄暗くジメジメとしている散らかった部屋だった。

アゼリアでも見たことがない言語の本や、用途のわからない魔術道具がそこらじゅうに放置されている。

ま、魔窟だ………………!



「ん? ああ、足場なら適当に作ってくれ」



ヴァステリアは足元にあった悪魔のような動物の死骸のような、顔に見えなくもない立体物を蹴飛ばして道を作った。

さすがにクロヴィスも引いているようだ。



「貴様らはここに居座ることはないんだから細かいことは気にするな」



ヴァステリアは数歩先にあったもう一つのドアの前で立ち止まる。



「重要なのはこちらだ。この先は外界のあらゆる干渉を受けない亜空間の部屋になっていてな、時の流れから物質法則までこの世界とは根本から異なっている。故に(ワシ)は普段ここで新たな魔術の研究や魔術道具開発をおこなっているのだが……言ってしまえば小娘、これからは貴様の修行部屋となる」



う、うわー!!

リアル『精神と時の部屋』だ!!



「えーと、なんだったか……貴様らの言葉でいう"聖女の加護"だったか? その力は一日二日で使いこなせるようになるものではない。現実時間に縛られていては何もできずに半年が過ぎてしまうだろうからな。1日の己の用事が済んだら(ワシ)の元に来い。貴様が望むなら1日3分でも36時間でも、好きなだけこの修行部屋に迎え入れてやる」



1000年を生きているだとか、時計塔の"大賢者"だとか、どの国にも肩入れしない諦観(ていかん)の魔術師だとか……前世の私の知識だとそういう人物は大抵人嫌いでそっけなくて対応も雑なイメージなんだけど……



「その……ヴァステリア、先生」


「ア? なんだって? ヴァステリア……"先生"だと?」


「す、すみませ……」


「しょうがないなあ! 先生……いや、師匠と呼んでもいいぞ!」


「ヴァステリア、師匠?」


「ふっふ~ん♪ 発言を許可しよう、小娘」


「あ、ありがとうございます」



……ヴァステリアはその悪魔みたいな見た目に反して、意外とノリも面倒見もいいようだった。

多分だけど、少なくとも私たちは嫌われてはいなさそうだ。

これもジェトリウスが何かしたからなんだろうか。



「師匠はどうしてわたくしたちへこんなに良くしてくれるのですか? ……お父様はあなたにどれだけの代償を支払ったのでしょうか」


「代償というほどのものでもない。あいつはたまたま(ワシ)が求めていたモンスターのレア素材を手土産にしていただけだ」



いや、死にかけてたけど!?



「むしろ…………」



ヴァステリアは言葉を切ると、その黄金の瞳に私のことを映した。



「貴様との出会いは、(ワシ)にとっても長く待ち望んでいたものだったからな。多少は……」


「え……?」


「…………いや、年寄りの戯言(たわごと)だ。気にするな」



ヴァステリアは「この話はやめだやめ!」と言って背中を向けてしまった。

何だか、こう……とても大切なことを聞き逃したような……?


……しょうがない。

また日を改めて聞いてみよう。

この性格だし、たくさん煽てたら案外ポロッと教えてくれるかもしれない。


私が後ろに控えるクロヴィスを振り返ると、言いたいことを理解してくれたらしい彼は微笑んで頷いてくれた。

その笑顔に後押しされて、私はヴァステリアに再度声をかける。



「……ヴァステリア師匠。せっかくなので、早速本日から修行をお願いできませんか?」



まだ日は高いし、なんといっても学院を休んでしまった私には時間がある。



「おお、向上心の塊だな! そういうのは嫌いじゃないぞ。いいだろう」


「あ、ありがとうございます! すぐに着替えてきます」


「それとそこの黒い小僧。貴様もだ」


「?」



部屋から出て行こうとした私とそれに着いてこようとしたクロヴィスに、ヴァステリアは不敵に笑って言う。



「貴様の()()()()()についてもまとめて面倒を見てやろう。小娘と一緒に亜空間へ立ち入ることを許可する」


「……。…………ありがとうございます」



……クロヴィスの"()()()()()"……って、何のことなんだろう。


さっき言いかけていたこともそうだけど、ヴァステリア自身に話す気がないのであれば今聞き出すことは厳しそうだ。

ただ、心当たりがあるのか、クロヴィス本人はお礼を言った割には険しい顔をしていた。


動きやすい訓練着に着替えて戻ってくると、ヴァステリアは散らかった部屋の奥の扉を開く。

中は広さや高さがどこまであるのか感覚では捉えられない不思議な空間だった。

暗いけど明るいし、地面があるようには見えないけど立つことができる。



「今は修行の邪魔になるような設定はすべて切ってある。どこまでも真っ平な大地が続く場所だと思っていい」



ヴァステリアはそう教えてくれた。



「さて、まずはここで貴様らの今の実力を見せてもらおうか!」

普段エブリスタで書いている同名小説をこちらでも順次アップしています。

★毎日22時に続話追加

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