第995話:どえらい迷惑な話になった
大体把握した。
フクちゃんに言っとこ。
「ビクビクしなくていいからね。あたしはあんたの敵じゃない。むしろあんたを認めてる方」
「えっ、認める?」
あ、すげえ嬉しそうになった。
承認欲求強いな。
『認める』って言葉は悪魔に対する殺し文句なのか?
「自分好みの尊敬の感情を集めるうまい方法だなあと思ってるんだ」
これは本音だ。
特に人間と敵対することなく、尊敬の感情を得る仕組みを成り立たせているのは結構すごい。
ソロモコの住民を騙していると言えばその通りだが、損させてるわけじゃないしな。
「でもフクちゃんが尊敬の感情を得ているのに、ソロモコの人達は何の恩恵も受けてないでしょ? フェアな取り引きと言えないから、救世主たるあたしに協力しなさい」
「わかりましたホー」
頷くフクちゃん。
よし、これでフクちゃんの持ってる情報はあたしのもんだ。
来たるべきソロモコの困りごとに対して対応できる。
「『アトラスの冒険者』は知ってる?」
「知ってますホー。あ、『アトラスの冒険者』のクエスト転送先として、ソロモコへ来ることができるようになったということですか?」
「そうそう。ということは困りごとがあるはずだし、ソロモコの危機に救世主が現れるってゆー伝承にあたしが当てはまるのも気になる。フクちゃん何か心当たりない?」
本の世界のマスター、アリスは確定した困りごとはないと言っていた。
ならば確定していない何かがある?
これから起き得る何かについて、フクちゃんのアンテナに引っかかってないか?
フクちゃんがちょっと首をかしげる。
フクロウのこういう仕草はキュートだな。
可愛いやつめ。
「……七日前でしたか。カル帝国の軍艦が偵察に来ましたですホー」
「やっぱそれか」
一一日前帝都裏町の情報屋カラザに聞いた、港町タムポートに停泊中の軍艦二艦がおそらく偵察に出ただろうという話に符合する。
「帝国がソロモコに攻めてくるの?」
「いや、どうでしょう? ボクも調べてみましたが、帝国の軍艦はこの辺りの各地を順番に見回ってますホー」
「おおおお、フクちゃんできるやつだな!」
フクちゃん照れてやがる。
「じゃあたしの方からも情報を提供するね。帝国の主席執政官である第二皇子は、ドーラ支配を強化しようとして失敗したじゃん? 失点を取り返すために外征を企んでるんじゃないかって憶測があるんだ」
「……ということは、攻め込む対象を物色するために軍艦を出している?」
「可能性だけどね。この話が出た時は、植民地で反乱起こさせて叩き潰すんじゃないかとも言われていたし」
ソロモコが帝国の侵略対象になっているなら、『アトラスの冒険者』のクエストになる理由もあたしが救世主扱いされるのもわかる。
しかし……。
「……仮に推測が正しくてソロモコが侵略対象になるんだとしても、帝国と事を構えなきゃいけないというのは面白くないなー」
あたしは帝国と仲良くしたいのだ。
巻き込まれるソロモコの人達は可哀そうだと思うけど、救ったところであたしとドーラにメリットがないじゃないか。
フクちゃんがおもむろに言う。
「ボクはソロモコの住民の尊敬の感情を、プレートを通して魔王島に送っているのです」
「うん、そーだろうなとは思ってた」
ソロモコで得られる尊敬の感情があるから、魔王は悪感情を集めて配下を養う必要がない。
と仮定すれば、今の魔王が人間と敵対していない理由にピッタリ当てはまるから。
「が、尊敬の感情の供給が途絶えると、魔王様が怒り狂ってしまうかもしれないのですホー」
「あれ? だったらソロモコが帝国に征服されちゃうとどうなる?」
「帝国人は当然ボクの正体を見破ると思います。とすると尊敬の感情を魔王様の元に届けるなどという作業はとてもとても……」
「魔王軍対帝国の全面戦争になっちゃうかもと?」
「はい」
どえらい迷惑な話になったぞ?
戦争で帝国の貿易が縮小するとドーラも困る。
ひどくすると魔王軍対人類の構図になっちゃうかもしれない。
「あんたはえらく落ち着いてるね?」
「この件について、最終的に方針を決めるのは魔王様ですからして、ボクには権限がないのです。魔王様にはいずれ報告が必要でしょう。しかし……」
フクちゃんの丸い目が細められる。
「苦心して作り上げた体制が崩れ、美味な尊敬の感情を得られなくなるというのは、大変に遺憾ですホー」
「よし、もし帝国のソロモコへの侵攻が現実化したら阻止することは、あたし達双方にとってのメリットだね。この件についてはお互いに協力しようじゃないか」
「願ってもないことです。ボクはどうすればよろしいので?」
「ヴィルカモン!」
しばしの間。
「御主人の召喚に応じヴィル参上ぬ!」
「やあヴィル、こんにちは」
「ゾラスかぬ? しばらくだったぬ!」
「あんた達は仲いいんだ?」
「悪いやつではないぬよ?」
「ヴィルは会うなり見下してくることがありませんからして、つき合いやすいです」
ふうん?
フクちゃんも悪魔の中では変わった子なのかも。
考え方が人間っぽい。
「魔王の意向はどうなのかな? 今の尊敬の感情を得るのがいいのか、戦争を起こして絶望とか苦痛とかを得たいのか」
後者だったらソロモコが侵略ターゲットになること自体を避けなきゃいけない。
かなり難しいと思われるが?
「魔王様は好敵手と認め合うというのがお好みです。大勢から悪感情を得ようという考えはないようです。それに関して配下の者から不満が出ることはありますが……」
「当面、魔王自身は戦争をしたいってわけじゃないんだね?」
「はいですホー」
ソロモコからの尊敬の感情って、結構な量だろうからな。
つまり尊敬の感情を吸い上げる体制あってこそ魔王の支配は維持され、人間への敵対は防げるということか。
「フクちゃん。あたしがソロモコを守るよう動いてるから早まったことするなって、魔王とその配下の高位魔族に伝えてくれる? ヴィルはフクちゃんとしょっちゅうコンタクト取っといてね。ソロモコ侵攻の気配があるようならフクちゃんはヴィルに伝えて、そしたらヴィルはすぐあたしに連絡。いいね?」
「了解だぬ!」「了解ですホー」
「よし、今日は帰るよ。うんばー!」
「「「「「「「「うんばー!」」」」」」」」
転移の玉を起動し帰宅する。




