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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第985話:黒フードに黒糸で刺繍

「ドーラの現実問題として、魔物がいるから協力して生きていかなきゃいけないでしょ? 集落内部の結束は固いんだけど、集落同士は決して仲が良くないの」


 ウルピウス殿下を連れて、あたしん家からカラーズへ行く途中だ。

 『遊歩』で飛んでいってもいいんだが、まあ話もしたいから。

 灰の民の村を経由せず、カラーズ緩衝地帯に向かう。


「個々の集落の自治性が高いということか? なるほど、中央政府に税金を納めさせることは困難かもしれないな」

「戸籍もないしなー。さっきの知事のオルムスさんいるでしょ? ドーラ独立直後に全員から平等に税金取るみたいなこと言いだしてさあ。揉めちゃったんだよ。そんなのムリだもん」

「ふうむ、ドーラは武力で統一された地ではないから、統治機構が弱いのか」

「ま、軍隊におゼゼ使わなくてもいいっていう面もあるから、悪いことばかりじゃないんだけど」


 考え込むウ殿下。

 いや、あたしも流血沙汰を経てまとめ上げられた国は組織がしっかりしてるって、今気付いたわ。


「極めて特殊な事情だな」

「ドーラはまだまだこれからの国なんだよねえ。今から行くカラーズは、成り立ちとしては古い集落群なんだ。土地が平らで肥えていて、早くから魔物の追い出しに成功していたから、自立できていたの」

「……先ほどの理屈からすると高度の自治、言い換えれば排他性が強くなってしまう?」

「そゆこと。一つのドーラとゆー考え方からするとよろしくないじゃん? 発展は妨げられるし、争いの元だし。カラーズってのは色名のついた諸部族の総称なんだけど、つい数ヶ月前まで互いに角突き合わせてたんだ。でも各々の族長はずっと冷戦状態じゃダメだってわかってたから、今は交流が進んで大分仲良くなったんだよ」

「対外的に独立したというだけじゃなくて、ドーラ内部の改革も進んでいるということだな?」

「うん、今ドーラは一番面白いところだと思うんだ。あたしは発展に関われて嬉しいの」


 これは本音だ。

 誰だ、少々ガタガタしてる方が面白いんだろなんて言ってるやつは。


「ユーラシアは為政者目線だな」

「よく言われるなー。自分じゃ意識はしてないけど。ところで殿下はこんな話してて楽しいのかな?」

「ユーラシアと話するのは楽しいぞ」

「おっとこまえだなー」


 アハハと笑い合う。


「着いたよ。ここがカラーズ各村の交流の場」


 大した用があるわけじゃないが、晩御飯までまだ時間があるから。

 カラーズを見どころに数えなきゃいかんのは、ドーラの悲しいところだわ。


「おーい、フェイさーん!」

「よく来た、精霊使いユーラシアよ。そちらの御仁は?」

「帝国のウルピウス殿下だよ。ドーラ見物に来たの」

「ハハハ、精霊使いに連れ回されると大変でしょう。ごゆっくり」

「うむ、ありがとう」


 うんうん、いい感じ。


「フェイさん、これ今日の移民が持ってきた稲の種籾」

「ほう、こんなにか。すまぬな」

「この前のグリフォン用の櫛、使い勝手良かったから、もう二本作ってくれる?」

「承知だ。二日後には完成するからな。料金は種籾の代わりにサービスしよう」

「やったあ! ありがとう!」


 次は黒の民のショップだな。


「で、カラーズ諸村の中の一つに黒の民の村っていう、呪術師の村があってさ」

「この前の母上を呪った呪術師を預けてあるということだな?」

「そうそう、どうなってるか様子見に行こうよ」


 この件はウ殿下も興味あるだろ。

 えーとあれは買い取り屋だな?

 タスキ掛けてるし。


「よう、精霊使いじゃないか」

「こんにちはー。新入りのグロちゃんどうしてる?」

「グロチウスか? いや、もう違和感ないぜ。そういやあんたが連れてきたと聞いたな」

「話聞いてる? グロちゃんったら帝国で皇妃様呪殺未遂事件起こしたの」

「ハハハ、武勇伝には尾ひれがつくもんだ」

「で、この人は皇妃様の息子ね」

「え? 帝国の皇子様かよ。ちょっと待て、呪殺ってマジの話だったのか?」


 ぎこちないアクションになる買い取り屋。


「大マジに決まってるだろ。あと五時間呪いが続いてたら皇妃様亡くなってたって、グロちゃん自身が言ってたぞ?」

「いつもの冗談かと思ってた……」


 その発言は誤解を招くだろ。

 ウ殿下が疑惑の目であたしを見てるだろーが。


「いや、待ってくれ! グロチウスはいいやつなんだ。許されることじゃないかもしれねえが、騙されていたに違いない!」

「連れ戻そうとしているわけではないぞ?」

「グロちゃんがうまくやってるか、様子見に来ただけ」


 既に黒の民にかなり溶け込んでいるようじゃないか。

 案外グロちゃん如才ないな。

 よかったよかった。


 ホッとする様子を見せる買い取り屋。


「な、何だ、そうだったのか。案内するぜ。今日は店の店員として出ているんだ」


 黒の民のショップへ。


「こんにちはー」

「あっ、ウルピウス殿下?」

「件の呪術師か? しかし……彼らはどう見分けをつければいいのだ?」

「あたしもわかんないんだよ」


 店員全員黒フードだもんな。

 しかしグロちゃんはもうすっかり馴染んでるから、黒の民として生きるコツを掴んでるに違いない。

 どうやって見分けるのか教えて?


「フードに個人の象徴となる刺繍が入っているんです。俺は『哄笑する双頭ドクロ』の意匠にしてもらって……」

「恐ろしげな意匠だな」

「黒の民は皆ドクロが大好きなんだよね」

「黒フードに黒糸で刺繍を入れたのでは見づらいではないか」

「黒の民のささやかな自己主張なんだぜ」


 どーして黒の民どもは得意げなんだか。

 まあいいけれども。


「これグロちゃんの魔物除けの札だよね? 二〇枚ちょうだい」

「一〇〇〇ゴールドになります」


 支払ってる時に店員の一人に聞かれる。


「二〇枚もどうするんだ?」

「西域には魔物除けの札が普及してないの。向こうの魔物ちょっと強いし、今でも魔物に苦しんでる自由開拓民集落が多いみたい」

「西域の事情は知らなかったな」

「この魔物除けを試してみようと思うんだ」


 いや、西域の魔物事情に関するクエストを配られなかったんで、あたしもよくは知らんけど。

 インウェンの話を聞くと魔物に苦戦してるんじゃないかな。


「グロちゃんが受け入れてもらってて安心したよ」

「気にしてくれていたのか?」

「気配りの精霊使いだからね」


 アハハと笑い合い、転移の玉を起動し帰宅する。

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