第975話:情報が頭から飛んだ
「サイナスさん、こんばんはー」
夕食後に毎晩恒例のヴィル通信だ。
『ああ、こんばんは』
「今日、リリー連れて皇妃様のお見舞い行ってきたんだ」
『うん、皇妃殿下の御容態はどうだったんだ?』
「すげえ元気っていうか普通。三日間苦しんでたと思えなかったよ。さすがリリーの母ちゃんだわ。体力ある」
あれは本当にビックリしたぞ。
『一安心だな』
「お土産に超すごいお茶とワイバーンの卵持ってったんだよ。そしたら超すごいお茶ガブガブ飲んでてさ」
『皇妃殿下が?』
「そうそう。メッチャ勢いのある人だなあと思った」
天然でストレートで可愛らしい人だ。
リリーの母ちゃんと言われて納得のキャラクター。
「たまたまだったんだけど、事件のあった日もワイバーンの卵持っててさ。皇妃様にあげてって置いてきたんだよ。皇妃様が起きたあと、ほとんど一人で食べちゃったそーな」
『えっ? あれかなりの量あるだろう?』
「軽く二〇人前はあるね。侍医さんが滋養効果すごいって言ってたみたいだけど、あれは単に皇妃様がパワフルなだけ」
喜んでもらえたことはいいことだ。
今日のワイバーンの卵はリリーと半分こするんじゃないかな。
「で、やっぱり呪いの黒幕はわかんないみたい」
『まあ仕方ないな。ユーラシアが実行犯をドーラに連れてきたことについては、どうせ口止めしてないんだろう?』
「あれ、何でわかるの?」
『君のやり口は知ってる。いかに黒幕を悩ませるかを考え、アクロバチックなことをしたに決まってる』
「サイナスさんやるなー」
かようにサイナスさんはあたしのことを理解してくれているわけだが。
「今日リリーは皇宮にお泊りでさ。明日迎えに行くんだ」
『親孝行だな』
「うん。で、明日はウルピウス殿下も一緒だよ。ドーラを見たいんだって」
『ウルピウス殿下というのは?』
「話してなかったっけ? えーと皇位継承権四番目だかの、リリーと同腹の兄ちゃん。あたしにプロポーズした人」
『……最後が衝撃的過ぎて、前半の情報が頭から飛んだんだが』
「皇位継承権四番目だかの、リリーと同腹の兄ちゃんだってば」
『飛んだのはそっちだけど、聞きたいのはそっちじゃないんだ』
大したことじゃないぞ?
まったくサイナスさんったら、可愛いあたしの相手かもしれないと思うと敏感なんだから。
「ウ殿下とは一昨日、呪術イベントがあった日に初めて会ったんだよね」
『呪術イベント扱い』
「べつにいいじゃん。で、話してる内に、予の妃にならんか? って言われただけだよ」
『玉の輿じゃないか』
「あたし欲しいものは自分で手に入れるから、玉の輿とかはあんまり興味がないんだ」
『ムダにセリフが格好いい。もっとエンターテインメントに寄せてもらいたい』
そお?
じゃあ、お言葉に甘えて。
「今年始まって二ヶ月で早くも二つ目の縁談だよ。このままいくと今年中に一二個ラブい話が来ちゃうなー」
もしくは。
「リリーが妹になっちゃうのか。あたしよりおっぱい大きい妹ってどうなんだ?」
『うん、それくらいの方が落ち着く』
「あたしも格好いいセリフ好きだけど、多用すると背中かゆくなっちゃうからな」
アハハと笑い合う。
『で、そのウルピウス殿下はどうなんだ?』
「リリーの兄ちゃんだけあって、気持ちのいい人だよ」
『君、嫁に行くのか?』
「どうだろう? 多分行かないんじゃないかな」
何だかんだでウ殿下は皇族だから。
リリーが逃げ出してきたような環境は気が進まないよ。
「プロポーズはどうでもいいんだけど、明日殿下をどこ案内してやろうかなって、楽しみなんだ」
『第二次ドーラ戦役を引き起こすようなことはやめておけよ?』
「あたしに惚れてるから、大概のことは大丈夫だと思うよ。笑って許せるくらいの範囲に留めておく」
『君の思ってる『笑って許せるくらいの範囲』は、想像つかなくて怖い』
何てことをゆーんだ。
いや、期待されてるのかな?
「サイナスさんには悪いんだけど、興味本位の観光みたいなもんだから、本当に大したことはないんだよ。ドーラなんてあんまり見るとこないじゃん?」
『ごもっとも』
「リリーの住んでる塔の村でしょ? ドーラで大きい宗教勢力である聖火教の礼拝堂、冒険者ギルド、明日移民が来るからそれを港で見る、あと魔境くらい」
『気のせいかもだが、最後に不穏なワードが入ったような気がする』
「気のせいだよ。ドーラには他人を喜ばせることができるくらい面白いところって、魔境くらいしかないし」
『魔境は君のリゾート場であって、世間一般の認識では怖いところだからな?』
でもドラゴン倒すと盛り上がるしなあ。
ウ殿下はそーゆーの喜んでくれるような気がする。
何だかんだでリリーの兄ちゃんだからな。
『ルキウス殿下には会わせるのか?』
「仕事じゃないから行政府行く気はないんだ。でも移民見に行くと会うかもしれないな」
『大丈夫なのか? その、次期皇帝争い的な』
あたしも気にならないではないんだが。
リリーがプリンスルキウスと仲いいから、おそらくウ殿下も大丈夫じゃないかって気はする。
「ウ殿下は皇帝やれって言われたら務まるくらいの器量はあるねえ。でも本人あんまりやる気はないみたいだよ。まだ若いし、もう一人皇位継承順位三位の同腹の兄がいるからだと思う。兄ちゃん皇子はあたしまだ面識ないけど」
『なるほどな?』
今の段階でプリンスルキウスとウ殿下のどちらが皇帝に相応しいかと言われたら、そりゃプリンスの方だ。
おまけに現皇帝はいつ亡くなってもおかしくないらしい。
ちょっとウ殿下の次期皇帝の目はない。
「リモネスさん、宮廷魔道士長、近衛兵長を、四日後ドーラに招待することになったよ」
『リモネス氏はミスティ大祭司に会わせるんだな? 他の二人は?』
「魔道士長はクララの精霊専用白魔法が見たいっていう理由はあるみたいよ? でも結局のところこの三人は、今帝国を仕切ってる第二皇子を面白く思ってない面々。あたしのカンだけど」
『行政府へも行くんだな?』
「行く」
レベルが上がって立派になったプリンスを見せてあげたいな。
『威厳』が効くし、見直すだろう。
「眠い。サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『わかったぬ!』
明日はリリーとウ殿下を迎えに行くべ。




