第951話:魔王クエストに苦戦
フイィィーンシュパパパッ。
「ユーちゃん、いらっしゃーい」
「こんばんは。かれえの香りがあたしを呼ぶよ」
「あはは、どれだけ遠くから呼ばれてるの」
「かれえのためなら地の果てまでも」
アルアさんとことギルドで換金してから、チュートリアルルームにやって来た。
地の果ては冗談でも、かれえのための香辛料を魔境で集めてるのは事実なんだよなあ。
「もうよく煮えてるのよ。早速食べましょう」
「それは大変だ! バエちゃんが焦がして黒色炭化物を錬成する前に食べなくては!」
「錬成って何だか格好いいわね」
「産業廃棄物を作り出す前に片付けなくては!」
「ひどーい」
冗談だとゆーのに。
絶妙にスパイシーないい匂いが漂っているわ。
「「「「「いただきまーす」」」」」
◇
「もしかしてだけど~もしかしてだけど~おにくはと~ってもおいしいんじゃないのお~」
「バエちゃん、今日も好調だね。かれえが主役なのかお肉が主役なのかわからんセリフだけれども」
「ダブル主演よ!」
「そうだったかー」
アハハと笑い合う。
あ、ヴィル寄ってきた。
よしよし、いい子だね。
「バエの姉貴、おかわりいただきやす!」
「私も!」
「ミーもね!」
「あれえ? クララやダンテもおかわりか。バエちゃんの料理の腕上がったのかなあ」
嬉しそうにクネクネするバエちゃん。
「ユーちゃんはおかわりしないの?」
「もちろんするけれども」
これ多分、お肉が柔らかくなるまで煮てるから、旨味成分が溶け出るんだろうな。
とゆーことは?
「次来る時、骨持ってこようか?」
「骨?」
「そう、コブタマンの骨。いいダシが出るんだよ。スープにしてもおいしいんだけど、かれえのベースにしてもイケるな」
「あっ、やってみる!」
「じゃあ楽しみにしてて」
「うん、わかった」
ヴィルはクララのところにいる時が、一番リラックスしてるな。
ふやけた顔をしている。
クララはおよそ怒ることがないし、声を荒げることすらない。
しっかりしているところが目立つが、それ以上に精神が落ち着いていてのんびりした子なのだ。
「クエストはどうなの?」
「おっ、やっぱり気になる?」
「もちろんよ。だってユーちゃんはエースだもの。一期でユーちゃんほどの稼ぎを生んだ冒険者は、一〇〇年以上にもなる『アトラスの冒険者』でもいないのよ?」
「おおう、あたしの偉大さが際立つな」
「しかもルーキーからたった四ヶ月でよ? ユーちゃんはすごいわ!」
魔宝玉クエストに出会えた幸運があったからだけどね。
まあでもバエちゃんが仕事熱心になったのはいいことだ。
給料かボーナスのためだろうけれども。
「今取り掛かってるクエストの転送先が、ソロモコっていう島国なんだよね。ソロモコの住民は皆仮面被ってて言葉が通じないの」
「えっ? コモンズが通じないということ?」
「そうそう。言葉が通じないことがあるんだってビックリしたよ。バエちゃんとこの国とも亜人や精霊とも通じるのにな」
「大変でしょう?」
「いや、大丈夫だよ。でも仮面被ってないのは失礼な行為みたいなんだ。だから作ってもらった」
あのお面被ってりゃ失礼には当たらないって、フェイさんにも太鼓判押されたし。
「ソロモコクエストもクリア条件がわかんないから、ゆっくりやろうと思ってる。バエちゃんに聞こうと思ってたんだけど、どーもあたしんとこ回されるクエスト、普通じゃないみたい」
「石板クエストは効率が良くなるように分配しているはずだから」
「その説は以前も聞いたような気がするな。具体的に効率ってのは何を意味してるんだろ?」
「主にどれだけギルドが得になるかだろうと思う」
「ふーん?」
外国の案件でギルドが得になるのか?
単純な損得ではないということはわかってるけれども。
「金銭的なことじゃなくても、影響力を及ぼせたりするなら得になるでしょう?」
「なるほど?」
つまりおっぱいさんは、あたしが赤眼族や帝国やソロモコに影響力を及ぼすことを期待して、クエストを振ってきているのか?
とゆーか『アトラスの冒険者』の効率じゃなく、ドーラが発展するような案件を回してくれてるような気がする。
できる女だな。
「コミュニケーション力がカギになるクエストが多いんだよね」
「そういうのこそ、ユーちゃんが請けないと!」
「ええ?」
共通認識なのか?
あたしだってたまには普通のフィールドやダンジョンのクエストを請けてみたいんだが。
「誰にでもこなせるクエストはユーちゃんには必要ないわよ。そっちの世界の大国の宮殿に行けるクエストをもらったんでしょう? 正規の石板クエスト以外に」
「ソル君に聞いた? 皇宮クエストは一応クリア扱いにはなったんだけど、帝国にはもう少し食い込んでおきたいんだよね。この先何度も行くつもり」
「ソール君は苦戦してるようなのよ」
「例の魔王のクエストがってことかな?」
「うん」
最近ソル君に会ってないから、進捗状況は知らなかったな。
そーいやまだアンセリに画集渡せてないわ。
「ソル君のレベルで苦戦するってことは、魔王って相当強いんだ?」
「魔王のところへなかなか辿り着けないというニュアンスだったわよ」
「辿り着けない、か。魔王の国? だかは広いのかな?」
ちょっと興味あるな。
どこかでソル君に会えたら聞いてみたいもんだ。
「御主人。魔王のエリアを人間が行くのは、かなりキツいと思うぬ。悪感情を搾り取るための場所だからぬ」
「なるほど?」
悪魔は悪感情を得たいから、あえてやって来る者に対しては、苦痛を与えるようなエリア構成にするのか。
かなわんな。
「でも自分が苦痛を吐き出したいわけではないぬ。だから魔王の元へ簡単に行けるルートはあるはずぬ」
「よしよし、ヴィル偉い!」
ぎゅっとしてやる。
かなり参考になる意見ではあった。
が……。
「ソール君に教えてあげるの?」
「いや、ソル君達は賢いから、同様の結論は出してると思うんだ」
魔王の元へ繋がる具体的なルート自体はわかんないしな?
いずれにせよソル君達に会って、魔王クエストがどんなもんかの話は聞かせてもらいたいもんだ。
「ごちそうさま。バエちゃん、ありがとう。おいしかったよ」
「いえいえ、どういたしまして」
「今日は帰るよ。また来るね」
「来るんだぬ!」
「あはは、じゃあまた」
転移の玉を起動し帰宅する。




