第940話:ゴブリンと友好
さらに森の奥へ進む。
ジーク君が何かを見つけたようだ。
「草が結んであるヨゥ」
「ふむ。ジークよ、どう思う?」
「どうって……罠だヨゥ?」
「輪が小さいじゃろ? 人間や大型獣を想定したものではないの」
「あ!」
さっきの落とし穴も小さかった。
レノアが引っかかったやつは外敵、おそらく森に侵入する動物か魔物を対象としたものだろうけど、これは罠というよりイタズラレベルだ。
とすると考えられるのは?
「ダン」
「おう」
ダンが進もうとするレノアを引き戻す。
「葉の陰になって見にくいが鳴子の類だ。気をつけろよ」
「は、はいっ!」
「今の鳴子みたいに、ゴブリンの身長より高いところにあるのは侵入者除けみたいだねえ。でも地面のやつは必ずしもそうじゃないよ」
「どういうことだヨゥ?」
「ゴブリンの中にも悪ガキがいるんじゃないかな」
頷くマウ爺。
「嬢のように考えるのが妥当じゃの。落とし穴や草の輪はゴブリンを対象としているとすると、大きさの説明がつく。だから小さな仕掛けが混ざっておると見た方がよい」
「結構な文化だねえ」
「ゴブリンはバカにできないですっ!」
人間と比べても、さほど引けを取らないんじゃないの?
魔物といっても大したもんだなあ。
中級冒険者になってから配給されるクエストという理由がわかるわ。
「何でもいいけどゴブリンが出ない。乙女がこんなにも待ち焦がれているとゆーのに」
「鳴らしてみるか?」
「鳴子を? それはそれで向こうの思惑に嵌るようで面白くないけれども」
マウ爺が笑う。
「ハハハ。出なければ出ないに越したことはなかろう。ゴブリンは単体の強さでは大ネズミにも劣るくらいじゃ。にも拘らず、関連クエストは中級冒険者に配される。注意の必要な魔物であるからの」
単体では弱いってのがミソだな。
万一ゴブリン相手に後手を踏んだとしても、中級冒険者なら全体攻撃手段を持ってるだろうから、何とかなるという判断か。
ヴィルが注進に来る。
「御主人、何かいるぬよ?」
「シーッ、知らんぷりしてなさい。逃げられちゃうからね」
「はいだぬ」
ジーク君とレノアも気付いたようだ。
皆もそ知らぬ顔をする。
ヴィルの言う通り、右前方六、七ヒロのところの草むらに何かが潜んでいるのだ。
気配からして一体か。
しかしこっちを恐れている感じじゃない。
ははあ、小癪にも狙ってるな?
「放っとくと危なそーだからあたしが行くわ」
「油断せぬようにな」
隠れているやつのところへダッシュ!
矢が飛んでくる。
思った通りゴブリンだ!
弾き飛ばしてそのまま距離を詰め、捕まえる。
「やたっ!」
「キュイ!」
「脅えなくていいよ。高い高いしてやろう」
わっしょーい! と、何度か放り投げてやったら大人しくなった。
よしよし、もののわかったゴブリンじゃないか。
「三ヒロは投げられてましたねっ!」
「これ最近、友好の証にしてるんだ」
「あんたが勝手に友好と思ってるだけだろう? 目から脅えが消えねえぞ?」
「くどいようだけど友好の証だとゆーのに。食べ物を放り投げるなんて罰当たりなことはしないもん」
「友好か食べ物かの二択なのかヨゥ!」
「二択だぬ!」
大笑い。
あ、ちょっと脅えが消えたか?
「ゴブリンの子供じゃな」
「じゃあさっきの落とし穴とか作った子かもしれないねえ」
ゴブリンの中でも好奇心旺盛な子なんだろうな。
「嬢よ、どうする?」
「お肉持ってきたんだよ。あたしの腹時計からするとそろそろいい時間だから、焼いて食べようよ」
「あんた弁当持ってねえんじゃなかったのかよ?」
「お弁当とお肉は別腹だなー」
「さっぱりわからないヨゥ!」
少し広くなってて下が土になってるところ、ここなら火事になるまい。
枝と木の葉集めて火をつけて炙り焼き、と。
「ほら、あんたも食べなさい。おいしいよ」
「キュイ!」
おー食べる食べる。
レノアが複雑そうな顔で言う。
「師匠はゴブリンにも食べさせるんですかっ?」
「そりゃあ指くわえて見てろじゃ鬼畜の所業でしょ」
「でも矢を射てきたんですよっ!」
「お茶目の内だとゆーのに」
まあ侵入者はあたし達の方だし、笑って許せる範疇だな。
魔境のグリフォンも同じだけど、魔物であっても話の通じる子は敵じゃない。
「ヴィル、ここってドーラなのかな?」
「ドーラだぬよ。大陸の北東の端だぬ」
「クエストでもなければ、訪れることのなかった場所だねえ」
「そうじゃな。ワシはここへは素材探しのクエストだったが、ゴブリンは必ずしも敵ではなかった」
将来居住圏が被ると争いになるかもしれない。
しかしそれまでは隣人でいいんじゃないかな。
意思の疎通はできるし、食べてもおいしくなさそーだし。
「ごちそうさま。おやつ代わりにはなったなー。マウさん、ゴブリンにも会ったし、そろそろ帰ろうよ」
ん? ゴブ君が袖を引っ張る。
「何なの? ついて来いって?」
「面白いじゃねえか」
「危ないヨゥ!」
「いや、別に囲まれたりしなきゃ危なくはないけど」
囲まれたら転移の玉で逃げればいいしな。
「せっかくだから行ってみようではないか」
ゴブ君のあとについて森の奥へ行く。
ほんの五分ほどでゴブリンの集落だった。
「ゴブリンって木の上に家があるんだ?」
「比較的安全だからの。しかし木の上に巣を作るゴブリンはここでしか見たことがない」
「へー」
かなりの数のゴブリンが出てきたぞ?
警戒してるけど、ゴブ君がなんか説明してる。
あ、警戒が解けた。
かなり細かいところまで通じる、しっかりした言語みたいだな。
ゴブ君が長みたいなのを連れてきた。
え? 高い高いしろって?
任せろ。
「わっしょーい!」
「「「「「「「「キュイ!キュイ!」」」」」」」」
おーすげえウケた!
気分がいいなあ。
「そーだ。これ分けてあげるから、皆で食べてね」
持って来た肉を全部ゴブリン達にあげた。
喜ぶ喜ぶ。
お肉は人間以外との友好にも有効とわかった。
「あんたどんだけ肉持ってたんだよ?」
「いや、本当はマウさんとジーク君レノアにお土産のつもりだったの。何故かゴブリンのになっちゃった」
「オレ達のだったのかヨゥ!」
「ひどいですっ!」
「アハハ、滅多にできない経験だったんだからいいじゃん。ギルド行こうよ。今日掘り出し物屋来るって」
強引に話題を変えてゴブリン達に別れを告げ、転移の玉を起動して帰宅する。




