第907話:弟さんは冒険者志望
「あたしは『閃き』という固有能力持ちなんだ」
「『閃き』とは?」
「やたらとカンがいいってやつ。相性の良し悪しは一目でわかるんだ。絶対間違えないね」
「……」
パパさんを見つめる。
迷ってるね?
ここで一押し。
「サクラさんは性格もいいし、ドーラ一の美人と言っても過言じゃないよ。でも気の合う男性はすーごく少ないの」
「ええ……薄々感じておりましたが」
びしょうじょせいれいつかいのしゅぎょくのもじれつよ、なやめしちちおやのせいしんにしんとうせよ!
「サクラさんに相応しい男性がそこにいるよ」
「おお……」
目一杯持ち上げたったぞー。
オニオンさん、挙動不審になるなよ。
あとは頑張れ。
「ペコロス君、娘をよろしく」
「は、はい」
「もーそこはもっと様になるセリフで締めてよ、お兄ちゃん」
アハハと笑い合う。
お婆ちゃんが嬉しそう。
お婆ちゃんは最初からオニオンさんのことを気に入ってたみたいだったしな。
オニオンさんはいい人だ。
あたしが保証する。
「お肉が焼けましたよー」
「やたっ!」
◇
「ごちそうさまっ! おいしかった!」
うんうん、ママさん料理上手だね。
オニオンさんはお土産にお酒を持ってきたのか。
パパさんと酌み交わしている。
「ユーラシアさん、ありがとうございました」
ニコニコのおっぱいさん。
おおう、ニコニコしてると一層美人だなあ。
「いいんだよ。あたしだってお世話になってるし、お腹もいい感じに満足してるし」
「弟のことで相談があるんですよ」
「弟さん? 何だろ?」
「冒険者をやってみたいと言うんですよ」
「冒険者かー」
「魔女には否定されましたけど……」
ふーん、冒険者になりたいのか。
パッと見向いてるとは思わなかった。
回避率の高い『猫柳』の固有能力持ち。
見たところ身体能力は普通。
特に優れてるわけじゃなさそうだが、魔法力はどうだろうな?
「ちょっとこれ触ってくれる?」
ギルドカードを起動して掌を当ててもらう。
「レベルは二か。あ、魔法力と最大マジックポイントは高めだね」
後衛としてやっていけなくはないだろうけど?
「オニオンさーん。ちょっと意見聞かせてよ」
「何でしょうか?」
オニオンさんとパパさんが話に加わる。
「弟さん、冒険者やりたいそうなんだけど、どう思う? ステータスこんな感じ」
「モズ、諦めきれないのか」
「ああ。冒険者になるのは小さい頃からの夢だから」
「夢なんだ?」
カトマスって冒険者の村なんだなあ。
村から外に出ていく、旅をするとなると、まず考えられるのは冒険者か商人だろう。
人の出入りの多い村だから、旅や冒険に憧れる子が多いんだろうな。
あたしもカトマスの子だったら、絶対冒険者目指してたと思うわ。
「今は弟さん何してるの?」
「図書館の職員です」
へー、カトマスには図書館があるんだ。
弟さん賢そうだから合ってると思うけど。
オニオンさんが難しい顔をしている。
「向いているとは言い難いです。もちろん全然不可能ではないですが」
「『猫柳』って覚えるスキルは『ささら舞』だけなの?」
「もう一つ、レベル四〇前後で『剣の舞』を習得しますね。単体を対象とする斬撃属性の魔法という珍しいスキルです。威力は攻撃力と魔法力の両方に依存します」
「悪くない魔法だねえ」
ん? オニオンさんが含みのありそうな顔をしてるな。
「ユーラシアさんがモズ君を冒険者に仕立てろと言われたらどうします?」
「ぶっちゃけレベリングしちゃえば一番簡単ではあるんだけど」
ただ冒険者やる一番の楽しみって、自分で努力してレベルが上がるところだろうからなあ。
その楽しみを奪っちゃうのはよろしくないと、最近思い始めている。
「ソロ志向なら魔法剣士寄りにならざるを得ないかなあ。パーティー組むなら後衛で大丈夫。ただし貯金次第」
「貯金、ですか? ある程度はありますが、やはり装備という意味で?」
半分正解です。
「あとはスキルだねえ。ハッキリ言って冒険者なんてレベルさえ上がればどうにでもなるよ。最初どうするか。魔物にどうやってダメージを与えるか。パーティーを組むなら、自分の役割をどう見据えて何のスキルを買うか」
「『アトラスの冒険者』のパーティーメンバーとしては、求められていないでしょう」
「うん。冒険者やるなら西の塔の村がいいと思うよ」
「話には聞きますが、塔の村はやはりいいですか?」
「五階ごとにしか脱出魔法陣がないっていう、クセのあるダンジョンだよ。でも結構初心者もいるの。出入り自由の入り口フロアは、スライムとか最弱レベルの魔物しか出ないから、装備さえ揃ってりゃ勝てるな」
「塔のダンジョンは『永久鉱山』だとか。その辺はいかがです?」
オニオンさんの言だ。
厳しいこと言ってた割に後押しするみたいだな。
「簡単に言うと、素材や魔物が無限に湧くダンジョンなんだ。生計は立てやすいよ」
「パワーカードを見せてあげてくださいよ」
「パワーカード?」
さすがに弟さん、パワーカードは知るまい。
そうか、貯金があると聞いて、低レベルのキツい時期にカードの数があれば何とでもなるという判断か。
オニオンさん、やるなあ。
『アンリミテッド』を起動する。
「これが武器用のパワーカード」
「あっ? ユーラシアさん武器持ってたんですね」
「持ってるよ。七枚まで同時起動できるの。防具用、魔法用と色々あるけど、武器用のカード何枚か装備すれば、枚数に比例して攻撃力上がるんだ。オニオンさんの考えとしては、最初から数揃えてゴリ押せってことみたいよ?」
会心の笑みを見せるオニオンさん。
弟さんにとっても、一つの道筋が見えたんじゃなかろうか?
「なるほど、数さえあれば……これはどこで買えますか?」
「塔の村で買える。でも慣れるためと道中の安全のために、ギルドで数枚手に入れとくのがいいんじゃないかな」
「わかりました! ありがとうございました」
うむ、皆さんニコニコしてるし、いいだろう。
どうせ冒険者なんて長いことやってる商売ではない。
やっぱ向いてないことを自覚してやめる人もいるしな。
レベルがいくつか上がっただけでも一生得できると思えば、悪い選択じゃないと思うよ。
オニオンさんに目配せする。
「では、ワタクシ達はおいとまいたします」
「さよーならー」
「またお出でください」
転移の玉を起動し、帰宅する。




