第73話:打ち明け話
「あはは、楽しかったねえ」
レイノスから家に帰ってきたあたし達は、ようやく緊張から解き放たれた。
いやあ、精霊様をヨイショするのは楽しかったけれども、辻褄合わせが大変だわ。
あんまりやらないことにしよーっと(絶対にやらないとは言ってない)。
アンセリが周りを見渡している。
「ここがユーラシアさんの家か。いいところだね」
「海が近いんでしたっけ?」
「うん、南にちょっと行くと海なんだ。食べ物も調達できるし、我ながらいい場所だとは思う」
急にアンとセリカが表情を引き締める。
「今日は……痛快だった」
「ええ、我らはもうレイノスでは何もできないと思ってたんです」
「上級市民にはとても逆らえなかったんだ。人を相手にしてるんじゃないような、冷たい目で見てくるから」
「中町の住人には植民地人ではなく帝国市民だという免罪符がありますからね。精霊様を上に持ってくる方法があったとは……目から鱗でした」
「えーでもやり過ぎたよ。もうしばらくレイノス行けないな」
「あんな騒ぎ起こすのはたまにでいいですよ」
三人で笑い合う。
「今日はありがとう。お礼しなきゃいけないね」
「いや、結構だよ」
「そうですよ、お昼も御馳走になってしまったのに」
「じゃあ、お肉どう? 昨日狩って冷凍してるやつがあるんだ」
アンがすまなそうに言う。
「ありがたいんだけど、わたし達宿屋住みだから調理場がないんだ。この前の一夜干しみたいなのだとそのまま食べられるんだが」
「そっか。材料じゃダメなんだ。今度加工食も考えとくね」
「期待してます」
美味い干し肉の研究が必要か。
でも新鮮なお肉がいつでも手に入ると思うと、加工食の研究は後回しになっちゃうな。
セリカが立ち上がる。
「さて、そろそろお暇しないと」
「うむ」
「転送魔法陣こっちだよ」
魔法陣の並ぶ東の区画に案内する。
「また面白い経験できそうだったら、一枚噛ませてもらいたいな」
「あんた達にはソル君がいるじゃん。もうすぐギルドに行くはずだよ」
「本当に楽しみなんですよ。夢に見るくらいで」
ソル君愛されてるなあニヤニヤ。
そーだ、西門の警備兵隊長さんは七日間は口外禁止と言っていた。
ということは……。
「ちょっと注意してもらいたいことがあるんだ。聞いてくれる?」
「「何でしょう?」」
急に真面目な表情になったあたしにビビってない?
「ソル君に会ってからの話なんだけどさ。もし新しいクエストが来ないようだったら、マウ爺の転送先を使わせてもらってレベル上げしてくれる? フレンドでもいいけど、マウ爺プラス三人なら、問題なくマウ爺の転移の玉で飛べるはず」
ダンはどうすればって?
知らない子ですね。
意図を図りかねたようにアンが戸惑っている。
「それはどういう……」
「ソル君はまだあんた達よりレベル低いと思う。とゆーことは手持ちの転送先では経験値稼ぎの効率が悪いんだよ。今石板クエストを振られなくなると、レベル上げに苦労しそうだから」
「……理屈はわかりますけど、新しいクエストが来ないというのは?」
中低レベルの冒険者全員を対象とした秘密の作戦行動があるとする。
秘密だから冒険者に伝えるわけにいかない。
となればギルドはどういう手段を取るだろうか?
新しい石板クエストの発給を止め、何事かとギルドに情報を求めにやってくる冒険者を集めて、電撃的な作戦行動に踏み切るのではないか?
という、あたしの予想なのだが。
これをアンセリにどう説明すればいいんだ?
レイノス警備兵の隊長さんに口外するなって言われてるし、そもそもギルドがあたしが考えてる手段を取るとも限らない。
「……精霊使いのカンかな」
オカルトに頼ることにした。
ひじょーに苦しい。
「まあ、ユーラシアさんがそう言うなら」
納得はしてないようだが了承はしてくれた。
「ごめんね、本当にカンとしか言いようがなくて。あ、でも異変があっても七日間以内には理由がハッキリするはずなんだ」
「異変? 七日間……?」
セリカが首をかしげる。
「つまりユーラシアさんは七日間ほどで何かあることを情報として掴んでいるけど、それは話してはいけない内容である、ということですか?」
だーっ、まずった!
仕方ない、全部話してしまえ。
「あんた達賢いな! 大正解だよ! あたしも断片的にしか知らないんだけど、『アトラスの冒険者』とレイノス警備兵、さらにアルハーンのカラーズ各村合同の共同作戦があるらしいんだ」
「「共同作戦?」」
アンセリが同時に声を上げる。
あれ、ちょっと嬉しそうだね。
根っからの冒険者なんだなあ。
「あたしも情報が欲しいから、さっきレイノスの警備兵隊長にしれっと水を向けたんだ。そしたら七日間は口外するなって言われちゃって」
「あ、あの時そんな会話を?」
「隊長さんは詳しいこと知ってるようだったけど、教えてくれる気はなかったな。でも七日間は口外するなだったら、逆に言えばそれ以降は話してもいいってことだから」
「七日間以内に共同作戦があると……」
アンセリが愕然とする。
「その作戦は『大掃除』ってコードネームで呼ばれてる。あたしの知ってるのはこれで全部だよ。すぐ噂が飛び交うギルドでもまだ話が出ないってことは、かなり厳重に情報管理されてるんだと思う。口外するなって言うからには秘密にしなきゃいけない理由がきっとある。レイノス警備兵や『アトラスの冒険者』が関わるならおそらく戦闘関係、レベル上げしとかなきゃいけない理由はわかった?」
アンセリがコクコク頷く。
「あの、石板クエストが止まるというのは?」
「単にあたしの想像なんだけどさ。クエストを止めれば、当然冒険者は事情聞きにくるか文句言いにくるかするじゃん? 何日に説明するから集まってって通告出して、集合した冒険者達を捕まえていきなりミッション開始、ってのはあり得るかなと思ったんだよね。内緒の作戦行動だったら特に」
セリカが呟く。
「なるほど、秘密の作戦だったらあり得るかもしれない……」
「あたししばらくギルド行くの控えるよ。どーもお節介な性分のせいか、いらないこと喋って作戦壊しちゃいそうだから。あんた達もこの内容を話すのはソル君だけ。粛々と準備を進めてね」
「「わかりました!」」
アンセリに話したことが吉と出るか凶と出るか。




