第396話:責任者呼んで来い
海の王国からの帰宅後、手持ちの素材をチェックする。
「かなりの量の素材ですぜ」
「壮観だねえ」
海の王国でもらってきた素材に加え、昨日の魔境の分とポロックさん経由でもらったレア素材もある。
さて、レア素材の扱いだが?
「まずシバさんからもらったやつで、今までなかったレア素材はアルアさんとこへ一つずつ持っていこう。ここまでは決定ね」
皆が頷く。
新規の素材を持っていくと、新しいパワーカードが交換対象になる確率が高いから。
問題は新規以外のレア素材だ。
「またどこかで必要になる場面がありそうじゃん? ある程度家に置いておきたいけどどう思う?」
「今後多くなりそうでやすぜ。縁のないレア素材は手に入れるの難しいでやすし、あっしもそうすべきだと思う」
「アイシンクソートゥー」
「よし、じゃあどれだけ取っとこうか?」
「……三個を上限にキープしておきましょうか? 『逆鱗』と『巨人樫の幹』は、海の王国での必要数プラス三個でいかがでしょう?」
「よし、採用。取っておき過ぎてもしょうがないし、三個あればいいか」
シバさんのレア素材コレクションの中では、『魔血石』と『ケサランパサラン』の二つが新しい素材だった。
『魔血石』は亜人の吸血族が血と魔力で長い年月をかけて作り出す石で、死ぬと当人の遺体とともに火葬されるので、ほぼ市場に出回らないのだという。
吸血族に恩を売るともらえることもあるらしいが……。
「『ケサランパサラン』は謎のフワフワです。一説に生き物だとも言われています」
「ふーん?」
マジで謎のフワフワとしか言いようがない。
何だこれ?
『ケサランパサラン』です。
いやわかってるけれども。
「ワッツ?」
「いや、ワッツ言われても謎素材だなーとしか」
いつまでも眺めていたい誘惑に駆られるな。
まあアルアさんの工房で換金してしまうけれども。
「じゃ、アルアさんとこ行くよー」
「「「了解!」」」
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「アルアさーん、こんにちはー」
「あっ、お姉さま!」
工房に来た途端、エルマに飛びつかれる。
ヴィルっぽい行動だな。
可愛いやつめ。
「ところで何事?」
アルアさんもゼンさんも困ったような顔してるじゃないか。
マジで何があった?
「アンタ、相談に乗ってやっておくれよ」
「えーと、エルマに何か?」
おかしいな?
エルマは昨日のドキドキ魔境ツアーでレベルも随分上がったし、前途洋々だろ。
困ることなんてある?
エルマが切羽詰ったふうに説明する。
「あの、昨日お姉さまにわたしの取り分としていただいた魔宝玉ですけど」
「うん、魔宝玉が何?」
あたしがクエストで必要な高級魔宝玉以外を分け前としてあげた。
結構な量になったが。
「見習いアルバイトがこんなに稼げるわけがない。いかがわしいことを手伝わされているのか。責任者呼んでこいと、父が激怒しておりまして」
「わちゃー」
まともな感覚過ぎて、却って予想外だった。
まずったな。
「エルマは未成年だから配慮すべきだったか。ごめんね」
「いえ、お姉さまのせいでは……」
「工房の責任者はアタシだが、土と岩の民が出て行くと余計に拗れそうだろう?」
エルマの父ちゃんがどんな人か知らんけど、亜人に対して偏見持つ人もいるからなあ。
「大体師匠は魔宝玉を得た経緯を知らねえ。悪いがユーさん、責任者代理としてエルマの家へ行ってくれねえか?」
「もちろん行ってくるよ。その前に、これお土産のお肉だよ」
「おや、いつもすまないね」
アルアさんとゼンさんが喜ぶ。
「エルマの家の分もあるからね。ちょっと素材換金するから待ってて」
「は、はい」
交換ポイントは八八六か。
最近パワーカードと交換しないから、ポイントの増え方が早いな。
「じゃ、エルマ。ギルカ出してくれる? フレンドにして……」
転移の玉を起動し、エルマの家へ。
◇
「へー、ここがエルマの家か。いいところだねえ」
「そうですか?」
緑の民の村でも奥側なのだろう。
隣は森になっている。
キノコとか木の実とか取りに行けそう。
「お前が責任者か!」
「こんにちはー」
すごい剣幕で出てきた男が、精霊連れなのを見てギョッとする。
小柄なエルマの父ちゃんにしては大柄だな。
「あ、この子らのことはお構いなく。あたしが精霊使いユーラシアだよ。よろしくね。つまんないものですがお土産です。皆さんでどーぞ」
「こ、これはどうも。エルマの父、パウル・ハニッシュです」
ハハッ、もうペース握ったぞ。
「……精霊使いユーラシアというと、あの掃討戦の立役者の?」
「そうそう」
「わたしの尊敬するお姉さまです!」
パウルさんが困惑し、エルマに話しかける。
「俺は責任者を呼んでこいと言ったんだが?」
「これにはちょっと込み入った事情があるんだよ。現在エルマが見習いに通っているのは、パワーカードという装備品の工房なの。ただ昨日の魔宝玉は冒険者として得たアイテムで、工房は全く関係ないんだ。魔宝玉に関してはあたしが責任者だから」
「はあ……」
ますますわけがわからないといった面持ちのパウルさん。
冒険者と見習い職人兼任ってことが伝わってないのかな?
「まず、現状を把握するところからいこうか。パウルさんは自分の娘をどういう子だと思ってるかな?」
「どうって……ひ弱で夢見がちで優しい、大事な娘です」
「確かに数日前までは弱々しい娘さんだったけど、今は違うよ。なかなかパワフルだよ」
「ぱ、パワフル?」
エルマに全く似つかわしくないワードだね。
気持ちはわかるけれども紛れもない事実なのだ。
「エルマ、お父さんを抱っこしてみて」
「はい」
娘にお姫様抱っこされ仰天するパウルさん。
「こ、こんなバカな……」
「上に放り投げて高い高いしてみて」
「はい!」
わっしょーい!
呆然としたまま宙を舞うパウルさん。
高い高いと言うより、一人胴上げだな。
「どうかな? これが今のエルマだよ。もうみそっかすの娘はどこにもいないんだ」
「信じられない……」
パウルさんも見ただけで他人のレベルがわかるなら、カラクリは一目瞭然なんだが。
「緑の民全体で格闘技大会やったって、きっとエルマがぶっちぎりで優勝だよ。とゆーのはともかく……」
ニッと笑いかける。
怖くないってばよ。
「どうしてエルマがこれほどのパワフル少女になったか、知りたくない?」




