第394話:神経痛の悪化を理由に断る
帝国軍の潜入工作部隊がドーラ西域のどこかに攻めてくるのは、十中八九決まりだろう。
あたしの考えとしては……。
「塔の村は西域の自由開拓民集落が襲われた時に、住民が逃げ込む拠点になってくれればいいなって思ってる」
「至極もっともだな」
「そのためにある程度の戦力は必要だから……」
「何かしたのか」
「『頑張ってね』って励ましてきた」
呆気にとられるマウ爺ダンピンクマンの三人。
「ひでえな」
「そんなこと言われても、塔の村に回す戦力なんかないんだもん」
「いや、ユーラシアの言う通りだ。より優先度の高い場所に高レベルの冒険者を配置するのが当然」
今、塔の村で確実に上級冒険者レベルだって言えるのは、リリーの従者の黒服一人。
しかしエル、レイカ、リリーいずれのパーティーも、今はデカダンスまでの人形系レアを倒す手段を持っている。
塔のダンジョンでクレイジーパペットやデカダンスが出るかは知らないけど、個々のレベル上げに期待するしかないんだな。
「あたしの知ってることは以上でーす」
内緒話モード解除。
戦争についてはまだわかんないこと多いしな。
塔の村の現況を伝えておけばいいだろ。
「現役の『アトラスの冒険者』が、新人の世話することになるらしいぜ?」
「嬢の画策か?」
「いや、元々新人がギルドまで来られるのって半分くらいなんだって。結構な固有能力持ちの才能ある子選んでるのにも拘らずだよ? エルマが最初テストモンスター相手に苦労してたって件もあって、チュートリアルルームの係員が先輩サポート制度を上申するって言ってたんだよ」
「でもこいつが煽ってたんだぜ?」
ダンはいらんこと言うなあ。
「新人が脱落しないために先輩が手伝うのは賛成? 反対? って言われたら、賛成としか言えないじゃん」
「あんた、冒険者が増えれば儲かるみたいな話したんだろうが」
「したけれども」
マウ爺とピンクマンが笑う。
「いいではないか。この老骨が役に立つのは嬉しいぞ」
「マウさん、アンセリみたいな子が来るとは限らないんだよ。ダンみたいなやつの面倒みろって言われたらどうする?」
「神経痛の悪化を理由に断る」
「いいなあ、もっともな断り方ができて」
「俺を例に出すんじゃねえよ。あんたはもっと問題児だろうが」
「あたしは全然問題児じゃないわ。あたしが問題児だったら大したもんですよ?」
「何だその芸風は」
皆で笑う。
「ユーラシアは『アトラスの冒険者』になって苦労するとかなかったろう?」
「初めは大変だったよ。あたしは最初からクララと二人だったけど、スライム一匹倒すので精一杯だったもん」
「そうなのか?」
ダンが意外そう。
「だって魔物と戦うなんて経験なかったし。現役のパワーカード使いが一人もいなかったから、どこでカードを手に入れるかもわかんなかったよ。どうしたら精霊を仲間にできるかも知らないし」
「悩みがパワーカードと精霊かよ。とことん特殊だな」
だってあたしは美少女精霊使いだから必然なんだもん。
「先が見えないのはきつかったなー。アトムとダンテにすぐ出会えたのは幸運だった」
「嬢も苦労してきたのじゃな」
「ギルドに来るまでだけどね」
でも他の人だって苦労してるだろうしなあ。
「入りたての『アトラスの冒険者』は、魔物からダメージ取れない人が一番厳しいんじゃないかな。だからピンクマンこそ大変だったんじゃないかと思うんだけど?」
「ああ、小生も戦闘初心者でな。最初は固有能力を生かしてアーチャーを目指していた」
「アーチャーだったの?」
ピンクマンの固有能力は命中率が高いという『焦点』だ。
アーチャーってのはわからなくはないが。
「ところが弓ではダメージが小さいのだ」
「低レベル者じゃなあ」
「パーティーメンバーなしスキルなしでは到底クエストをこなせず、剣を取った。で、時間はかかったがギルドまで来て、魔法力を生かすために攻撃魔法を買い、最終的に魔法銃士に落ち着いた」
「よく落伍しなかったな、おい」
「ギルドに来てから仲間募ろうとは思わなかったの?」
「とてもとても。自分の戦闘スタイルさえ確立できていなかったからな」
自嘲気味に言うピンクマン。
「ユーラシアが新人カールの面倒をみる立場だったらどうしてた?」
「いやー、悩ましいね。後衛職を目指してとりあえずパワーレベリングしてたとは思うけど」
属性魔法使い以外の後衛職のソロって難しいんだよな。
魔法銃士って結論にはならなかったと思うし。
考えてみれば新人さんの育成ってすごく難しいなあ。
「ちなみに新人ダンの面倒みる立場だったらどうしてた?」
「クソガキは魔境に捨ててくる」
「情けも容赦も慈悲もねえ!」
笑いの中、夜は更けてゆく。
◇
「サイナスさん、こんばんはー」
寝る前のヴィルを介した通信だ。
『うん、こんばんは』
「今日はお金なし組と魔境で共闘だった」
『ハハハ、楽しそうだね』
「あたしも輸送隊に一〇万ゴールド出資したから、ちょっと寂しいんだよね」
『まあ君のことは心配しないことにしたけれども』
「えー? 冷たいなー」
笑い合う。
つれないこと言ってても、サイナスさんは何だかんだで優しい。
『明日隊商が出る予定だな。輸送隊候補生達がついて行く最後の研修になる』
「セレシアさん達青の民の服屋組も同行するんだよね?」
『ああ』
出店か。
応援してやらないとな。
「レイノスに着くのは明後日か。顔出さないと」
『忙しいね』
「そうでもないんだよ。でもイシュトバーンさんに行くって言ってあるから」
『イシュトバーン氏もかなり力になってくれるようじゃないか』
「うーん、でもファッションのことはわからねえって言ってたもんな。どうなることやら」
正直時期はいいのか悪いのかわからない。
運もあるだろうなあ。
イシュトバーンさんは、当てる可能性の高いやり方はなくもないとも言ってたけど?
「アレクはどーかな? 落ち着いてる?」
『レイノスが楽しみみたいだよ』
アレクだと本屋にこもって帰りに遅れそう。
いや、ケスがついてるから大丈夫か。
あの二人はいいコンビになりそうだな。
帰ってきたら土産話でもあるかな?
「じゃあ、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『わかったぬ!』
明日はお肉、海の王国、アルアさん家の順かな。




