第392話:いい度胸だ! 奢られるぞ!
エルマの固有能力『大器晩成』の習得スキルが、かなり多岐にわたるということはわかった。
「エルマ、可能性が広がったねえ。ここまで仕上がってくると、十分冒険者でもやっていけるよ」
「はい、ありがとうございます! でも当面は、パワーカード製作を勉強していきたいと思います」
うんうん、いいことだね。
手に職をつけることは、堅実な生活の第一歩だよ。
御家族の皆さんも安心だろうしな。
エルマは偉い。
「よーし、魔宝玉分けるよー」
一人一万二〇〇〇ゴールド分くらいにはなりそう。
結構稼いだな。
魔境ツアーコンダクターとしては満足だ。
「小生は遠慮しよう。ユーラシアには醸造ラボ建築の際、一万ゴールドを借りていたからな」
「そお? じゃあこれでサフランにお土産でも買ってあげなよ」
透輝珠を一つ渡しておく。
「すまんな」
いや、こっちでピンクマンとエルマが妙に仲良くなってたからね。
サフランにもプレゼントしてバランスを取っておかないと。
呪術師に恨まれるなんて怖いもん。
「ダンもちょっとは足しになるでしょ?」
「大いに助かったぜ」
ニヤッと笑う。
「エルマも親孝行するといいよ」
「ありがとうございます。……心配かけちゃっていますしね」
だろーなー。
魔境なんか連れ回して御両親に申し訳ない。
でもあなた方の娘はメッチャ逞しく育ってますから。
五日前のエルマとは別人ですから。
「時間わかんないけど、明日アルアさんとこ行くね」
「はい、お待ちしています」
さて、帰ろうかな。
「おいユーラシア。奢るからギルド来いよ」
「よおし、いい度胸だ! 奢られるぞ!」
「エルマもどうだ?」
「ごめんなさい。もう夜になりますので、おうちに帰ります」
うむ、エルマは未成年だもんな。
夜まで付き合わせてはよろしくない。
「エルマ、じゃーねー」
「失礼します」
転移の玉でエルマが帰る。
「オニオンさん、さよなら」
「皆さんさようなら」
転送魔法陣でギルドへ。
今日は一日魔境でお腹すいたから、たくさん奢らせたる!
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「いらっしゃい、チャーミングなユーラシアさん。おや、ダンさんもカールさんも一緒だね?」
朝以来の総合受付ポロックさんだ。
「ユーラシアに付き合わされて、朝からずっと魔境だったんだぜ」
「こんな美少女とずっと一緒で何が不満だっていうんだ」
「不満なんかないぜ。なあカール」
「うむ、極めて充実した一日であったな」
美幼女エルマも一緒だったしというセリフを飲み込んで、ダンと視線を交わす。
どう思う? ラブい気配はないな。今のところはね。エルマも普通だったぜ。じゃ当面スルーで。オーケー。
一瞬の意思疎通。
「ずっと魔境じゃ疲れたでしょう」
「心地良い疲労感だね」
「ハハッ、ごゆっくり」
ギルド内部へ。
買い取り屋さんでアイテムの換金をしてから、食堂に足を踏み入れる。
夕御飯には若干早い時間だが、胃袋の容量にはかなりの余裕があるぞ。
「あ、マウさーん!」
「マウ爺、一緒でいいか? 向こうのテーブルくっつけようぜ」
「ヴィルカモン!」
「鶏の香草炙り焼きを定食とカモミールティーを人数分、あと枝豆と揚げポテトの盛り合わせ二つ」
ピンクマンの戸惑う声。
「おい、マウさんが了解してないがいいのか?」
「「そうだった?」」
「ハハハッ、構わぬ。たまには賑やかなのもええじゃろう」
よかった、マウ爺上機嫌だ。
ヴィルもすぐマウ爺に頭撫でられに行った。
「今日はお主ら、行動をともにしていたのか?」
「ユーラシアの魔境ツアーに同行してたんだぜ」
「もう一人エルマっていう、四、五日前に『アトラスの冒険者』になったばかりの新人の女の子が一緒だったんだ」
「ほう、女子は珍しいな」
「チュートリアルルームで聞いたところによると、あたしで成功したから試験的に女子も『アトラスの冒険者』に入れてみるってことみたい」
「うむ、いいではないか。初期から育てるのは英才教育か?」
英才教育?
ダン、ピンクマンと顔を見合わせる。
「いや、意識的に教育したのではないのであるが……」
「懐が寂しくてよ、ユーラシアの人形狩りにお供しただけなんだが……」
「結果としてエルマってもうレベル五〇近いよね?」
マウ爺が笑う。
「ハハハッ、何じゃ、それは?」
「『大器晩成』という、レベルアップは遅いが多数のスキルを覚えるという、レア固有能力持ちなのだ」
「エルマとは初めチュートリアルルームで会ったの。テストモンスターにすごく苦労してるくらいで、冒険者としてはちょっと難しいなと思ってたんだけど」
「ふむ、レベルアップ後の今はどうなのじゃ?」
ダンが答える。
「一人でも魔境オーガ帯で十分イケると思うぜ?」
「あたしもそう思う」
いつの間にかレベル相当の魔物と普通に戦えるだけの実力がついてた。
装備を整えればワイバーン帯でも互角以上に戦えるだろう。
「何でかな? もうひ弱な感じないよね?」
「レベルアップ時のステータス値の伸びが大きい気はするな。『大器晩成』の固有能力の特徴なのか、エルマに限ったことなのかはわからんが」
「最初ちょっとレベル上がれば冒険者に拘らなくても何とかやっていける、くらいの気持ちで手を貸したんだけど、思ったより才能あるっぽい」
「ここへは連れてこなんだのか?」
「一三歳未成年なんだよ。夜はおうちに帰るんだと」
「未成年?」
マウ爺が驚く。
「カラーズ緑の民なんだが、一五歳成人の前に一三歳から就職見習い期間があるのだそうだ。だから『アトラスの冒険者』になれたのだと思う」
「あ、やっぱ『アトラスの冒険者』って成人だけなんだ?」
「未成年は見たことねえな」
なるほど、選定基準はしっかりしてるんだな。
もっとも未成年じゃ保護者の意向が強くなっちゃうだろう。
『アトラスの冒険者』本部の思惑通りに働いてくれなくて都合が悪い、ってこともあるのかもしれない。
マウ爺が言う。
「良きことではないか。俊英の『アトラスの冒険者』三人直々に教えをもらったのなら」
「俊英? 照れるぜ」
「その俊英が今日何やったんだよ」
「俺が魔境行きを提案したんじゃねえか。魔境でも楽しかったろ?」
「楽しかったけど、あんたは道化枠だったぞ?」
「戦力は美少女精霊使いのパーティーがいれば十分だったろうが」
「十分だったね」
ピンクマンが続ける。




