第389話:魔境ハイキング
フイィィーンシュパパパッ。
「いらっしゃいませ、ユーラシアさん」
「オニオンさん、こんにちはー」
魔境に来たら、既に皆が待っていた。
「遅いじゃねえか」
「ごめんね。お弁当作ってたの」
「主役はあとから現れるとか言い出すのかと思ったぜ」
「それも間違いではないけれども」
ピンクマンが驚く。
「弁当? いつまで魔境にいるつもりなんだ?」
「誰かが音を上げるまで」
皆が苦笑する。
「ってのは冗談として、北の方に人形系レアばかり出るところがあるんだ。そこ目指そうかと思って。ガッポリ稼ぐぞー」
「了解だぜ」
「クエストで必要な高級魔宝玉はもらっていいかな?」
「あんた素材も必要なんだろう? 俺達はレベル上げに便乗させてもらえるし、おこぼれでいいんだぜ」
結局高級魔宝玉と素材はうちのパーティーの取り分でいいことになった。
何か悪いなあ。
今日はクレイジーパペット以下の人形系も多めに倒そう。
オニオンさんが聞いてくる。
「今日は皆さんでレベル上げですか?」
「いや、今日はどっちかというとおゼゼ稼ぎに来たんだ」
「ハハハ、行ってらっしゃいませ」
「行ってくる!」
ユーラシア隊と愉快な仲間達出撃。
◇
真っ直ぐ中央部を突っ切るルートで北を目指す。
「カラーズ~レイノス間の交易はヨハン・フィルフョーさんっていう、親の代に緑の民の村を出て来た商人さんに仕切ってもらってるの」
「全然知りませんでした。交易の話題は緑の民の間では出ませんねえ」
「やっぱりか。あ、ごめん。オーガ倒しとく」
話してるのに邪魔だなー。
何もドロップしないし。
オーガのドロップは魔宝玉だけど、すごく稀でほとんど落とさないからつまらん。
「でも交易を断ってきたのは、緑の民なんだよねえ」
「今緑の民は、緩衝地帯にも店を出してないだろう?」
「出してないねえ。他色の民からすると、ちょっと頑なな感じがする」
「フィルフョーというのは族長一族の家名です。交易に関わるヨハンという方がどれほど現族長と近いのか、わたしは存じませんけれど」
「ラルフん家に関わる話か?」
ダンが口を出す。
「うん。ラルフ君家と緑の民族長家が微妙な関係っぽくてさ。ラルフ君家は特にわだかまりないようなんだけど、緑の民が交易に参加してくれないんだよね」
「なるほど、緑の民だけが蚊帳の外なのはそういう理由か」
ピンクマンが納得して頷く。
「灰の民の族長サイナスさんが、他色の民が交易で発展したら緑も頭下げてくるから放っとけって言うんだ。だからノータッチなの」
「おい、ワイバーンだぜ?」
「ちょっと待ってね。片付ける」
ハヤブサ斬り・改を『あやかし鏡』でダブル、と。
「あ、卵落としていった。しまったなー。行きに拾うと重いんだよね。持ちづらいし」
「大きい卵ですねえ」
「ユーラシアが拾うとギルドの食堂に寄付してくれるんだぜ。絶品のフワフワ卵焼きを安く食べられるんだ」
「売る気がないなら、昼飯の足しにすればいい」
「え? 調理器具がないけど?」
「塩を持ってきてるぞ」
どーも会話が噛み合ってない気がするけど、ピンクマンが自信ありげだから任そう。
「あんまり突っ込んで緑の民が意固地になっても困るじゃん?」
「ラルフに事情を聞いたのか?」
「聞いてない。カラーズ~レイノス間の交易自体が始まったばかりなのに、そゆとこ触れて関係微妙になんないかな?」
ダンがニヤッと笑う。
「精霊使いはもっと無神経なもんかと思ってたぜ」
「こんなに神経細やかな美少女を捕まえて何を言う」
「巨人です!」
「ティターンは比較的珍しいね。サイクロプスはよく出るんだけど。一回は攻撃食らうかもしれないからしっかりガードしててね」
「「「了解!」」」
怖いのはクリティカルだけだ。
エルマのレベルで食らうとガードしててもキツいが?
アトムが攻撃受けてからのあたしの雑魚は往ねでした。
『巨人樫の幹』ゲット。
「巨人がザコなんですねえ」
「エルマは大物だなあ」
エルマは魔境来ても余裕あるよなー。
初期スペック的にエルマは冒険者向いてないと思ったけど、メンタルは強い。
ラルフ君とは大違いだ。
「さすがにこのクラスの魔物には、大技使わないと一撃で倒せないんだよね」
「「……」」
ダンもピンクマンも何も言わないけど、ダンはおかしそうで、ピンクマンは色々諦めたような表情だ。
「事情がわからんのはなー。ヨハンさんはともかく、ラルフ君には聞いてみてもいいかもな。エルマもお爺さんお婆さんくらいの年齢の人に、村を出て行った族長一族の話を聞けたら聞いといてくれない? 交易の事情とか話さないで、世間話的に」
「わかりました」
「急がなくていいからね」
ダンが聞いてくる。
「エルマはパワーカード職人のところで修行なんだろ?」
「手に職をつけるのはいいよね。あ、リッチーだ。向こうに攻撃ターン回んないと思うけど、一応ガードはしっかりね」
あたしが『アンデッドバスター』と『前向きギャンブラー』を、アトムに『刷り込みの白』を装備してレッツファイッ!
「ドロップした。邪鬼王斑珠だ。リッチーっていろんな高級魔宝玉を落とすんだよ」
「これも珍しいものなのか?」
「世界にいくつもないものだ、とは聞いた」
「ユーラシアと話してると感覚がおかしくなってくるな」
「アハハ、楽しんでよ」
あたしはエンターテインメントを提供したったくらいの気でいるのだ。
さらに北へ。
「アルアさんっていうドワーフのパワーカード職人がいてね。パワーカードの始祖の孫弟子に当たるらしいの」
「ほう? パワーカードについてはあまり書物にも書かれていないのだ。興味深いな」
意外なことにピンクマンが食いついてくる。
「エルマはパワーカードのシステマチックなところが面白いみたいだよ?」
「素材と効果の関係がキッチリしていて、でも製作者の意図を潜り込ませる余地があるんですよ。工夫の妙が」
「うむ、わかるぞ」
「教えてもらって一枚作ったんです。これ、『シンプルガード』」
「何だ、『シンプルガード』持ってたのか。じゃあエルマはガードしてりゃ安全だな」
「クリティカル無効付きのやつだよな。オーガや巨人族戦にはいいかもしれねえ」
「魔境で戦うかもしれないということでこのカードを?」
「はい、師匠のアドバイスで」
……あれ? ダンがこっそり話しかけてくる。




