第380話:誘拐犯にされそう
フイィィーンシュパパパッ。
「アルアさーん、こんにちはー」
「はいよ、いらっしゃい」
「お肉お土産だよー」
「こりゃすまないね」
本の世界でコブタ狩りをし、クララがお肉にしている間にアルアさん家に来た。
昨日の魔境探索とレイカにもらった分で、手持ちの素材がかなりの量になっていたからだ。
いつものようにパワーカード大好きっ子アトムをお供に連れている。
よかった、アルアさんも疲れは取れたみたいだな。
工房の様子をさりげなく観察する。
あっちではゼンさんもエルマも働いてるし……。
「あれ、エルマ?」
「あ、お姉さま。いらっしゃいませ」
『大器晩成』の固有能力持ちの緑の民の新人冒険者エルマだ。
何でパワーカード工房に?
「次の石板クエストの転送先がここだったんです」
「あっ、ラッキーだな」
「働かせて欲しいというから、来たい時だけ来いと、とりあえずアルバイト採用したんだよ。こっちも手が足りないからね」
「うちが散らかしちまった本も片付けてくれたんだぜ」
ははあ、最初からパワーカード装備だったから、工房へのクエストを回してくれたんだろうな。
現在のエルマのレベルからすると、この近辺の魔物に手応えはないだろう。
ただ毒持ちの殺人蜂や『眠りの花粉』を使う食獣植物のような、嫌らしい状態異常攻撃を持つ魔物はいる。
経験の少ない冒険者向けではある。
「手に職をつけるというのもいいねえ。でも一三歳なんだから、いろんな経験をしとくといいよ。『アトラスの冒険者』は、クエストに出るだけで面白いことがあるしね」
「はい、頑張ります!」
アルアさんもゼンさんも頷いている。
ゼンさん以外にもう一人職人が欲しいと思ってたところだから、エルマが工房に居ついてくれるとありがたいなあ。
「えーと、ここでのクエスト内容はやっぱり『逃げ足サンダル』の取得?」
アルアさんが首を振る。
「いや、エルマは『煙玉』を既に習得してるんだよ。レベルも高いから、ちょっと難易度を上げて『スナイプ』を取れたら完了にした」
『煙玉』は戦闘中に必ず逃げることのできる魔法だ。
パワーカード『逃げ足サンダル』に付属するスキルでもある。
『逃げ足サンダル』は五〇の交換ポイントだが、『スナイプ』は一〇〇必要だ。
その分難易度は高いと言える。
『スナイプ』は射程が伸びて便利な分、ちょっと使い方にクセがあって難しいから、早めに手に入れて練習しなっていうアルアさんの優しさだろう。
「『逃げ足サンダル』得た時は『煙玉』全然使わなかったけど、魔境行ったら時々使うようになったんだよ」
「戦略によって使うスキルなんて変わるもんさ」
うむ、その通りだ。
以前掘り出し物屋さんが『煙玉』のスキル売ってたな。
あれもチュートリアルルームで販売したら需要ありそう。
「クエスト完了まで素材一〇〇個か。でもエルマは『薙ぎ払い』も『五月雨連撃』も使えるんだから、外で素材集めしてればすぐでしょ?」
エルマが答える。
「はい。でも焦らずボチボチやろうかと思いまして」
「うん、上等上等。仲間を集めて冒険というのは諦めたの?」
「諦めたのではないのですけれども、ギルドで皆さんのお話を聞く限りどうも難しいようなのです。パワーカードに興味が出てきたこともあり、こちらで働かせていただこうかと」
ゼンさんが不思議そうに聞く。
「ユーさんよ、仲間を集めて冒険するのが難しいってどういうことだい? エルマは結構なレベルなんだろ?」
「一三歳の女の子を頭に戴いて冒険者したいっていう物好きは、やっぱなかなかいないんだよね」
エルマはレア固有能力の持ち主ではあるが、外見からカリスマ性やリーダーシップは感じないもんなあ。
『アトラスの冒険者』に『地図の石板』が配給される以上、エルマ以外のメンバーがリーダーを務めるのも難しいしな。
お兄さんズみたいに『アトラスの冒険者』同士でパーティーを組むのはありかもしれないが。
「実績上げてると話は違うだろうけどね。装備が揃ってくるとその内……あっ、エルマがここでアルバイトするなら、時々手伝ってよ!」
「はい? わたしにできることでしたら喜んで」
「カラーズとレイノスの間の交易を活発にしようと思って、輸送隊育てるつもりなんだ。具体的には、盗賊や魔物にやられないようにレベル上げするの」
「ああ、なるほど。魔境で?」
「そうそう。エルマのレベルも上がるしちょうどいい」
アルアさんとこへ来られるようになったならどうにでもなる。
もう魔境行きの石板出ちゃっても、レベルさえ上がっていれば問題なかろう。
「今はまだ、緑の民はレイノスとの交易に参加してもらえてないんだよ。緑の民の間では何か話出てるかな?」
「いえ、特には」
緑の民は、ヨハンさんが対レイノス交易に絡んでると知ったらすぐさま参加を断わってきたという。
しかもカラーズ間の交易まで。
相当な拒否反応だぞ?
緑の民上層部とフィルフョー家の溝はかなり深い?
いずれ仲介したいけど、今緑の民まで手を広げられないしな。
「エルマは緑の民でどういう立場なの?」
「みそっかすでした。三日前からは変な子扱いです」
「だろーなー」
夢見がちで身体も小さいエルマは、昔から目立たない子だったに違いない。
本来ならばレアな固有能力持ちであることは知られず、発揮される機会もなく、一生を狭い村で終える未来しかなかったのだろう。
そんな子が冒険者になると言い出す。
周りからどんな目で見られるか、想像に難くない。
「御両親は何て言ってる?」
「ケガだけはしてくれるなと」
「だろーなー」
実によくわかる。
御両親はエルマがか弱いことなんて百も承知だろうしな。
冒険者になりたいとか、何言ってるんだって感じだろう。
「エルマはもう、緑の民の誰よりも腕っ節強いかもしれないけど、周りの人が信じるわけないじゃん? 御両親を心配させるのもよろしくないから、レベルのことは内緒にしておきなさい。パワーカードの説明をして、職人になるんだって言っとくといいよ」
「わかりました。そうします」
「うんうん、一番平和で丸く収まるわ」
娘が魔境に連れていかれてパワーレベリングされたとか知ったら、誘拐犯にされそうだよ。
これからも魔境連れていく気満々だけど。
まことにすいません(言葉だけ)。




