第378話:一〇時間の壁
フイィィーンシュパパパッ。
ヴィルを連れて塔の村へやって来た。
ぼちぼちレイカパーティーも戻ってる時間のはずだが?
いた、ちょうど帰ってきたところか。
「おーい、レイカ!」
「ユーラシアじゃないか」
レイカパーティーが驚いている。
「どうしたんだ?」
「一昨日の話だよ。例の『アンリミテッド』作ってもらえそうかな? 気になっちゃってさ。乙女の繊細な心に負担をかけて、このままだと一〇時間くらいしか寝られそうにないから」
「寝過ぎだろう。というか、ユーラシアは毎日一〇時間寝ているんだな?」
「寝過ぎじゃないわ。適性睡眠時間だわ」
寝過ぎってのは昼まで寝てるリリーみたいなのを言うんだわ。
レイカが笑いながら、しかし首を振る。
「残念ながら今は作れないそうだ。素材が足りないんだと」
「そんな気がしたんだ。カード屋行こう。まだやってるでしょ」
路地を抜けてパワーカード屋へ。
「おーい、コルム兄!」
危ない。
仕事終わりで片付けてるところだった。
「『アンリミテッド』作るのに足りない素材って何?」
「いきなりだな。レア素材『ベヘモス香』と、レアじゃないけど『ワイバーンの爪』だよ。まだこっちの塔では出ないんだ」
「ラッキー、両方持ってる! レイカ、『ベヘモス香』と『ワイバーンの爪』を、同じ値段分の素材と交換するよ。どう?」
レイカパーティーが喜ぶ。
「いいのか? いくらだ?」
「うーん、大体二〇〇〇ゴールドくらい?」
「おっ、太っ腹だね」
「太っ腹だぬ!」
もう少し高かったか。
まあいいや。
「じゃあこれ、手持ちの素材全部持っていってくれ」
「いいの? かなりあるよ?」
コルム兄が口を挟む。
「見たところ大体トントンの交換だぞ?」
「じゃあコルム兄、お願い」
「うん。じゃあレイカ、次の三つから選んでくれ」
一:通常攻撃に【衝波】属性が付き、さらに攻撃力+二〇%
二:衝波属性の単体強攻撃のスキルが付き、さらに攻撃力+二〇%
三:衝波属性の全体に五〇ダメージずつ与えるスキルが付き、さらに攻撃力+二〇%
「ふうん、三種類から選べるのか」
「この三種ならどれでも人形系レア魔物を倒せるってことね。ちなみに三の攻撃力補正は異なるステータスの補正に変更可だってよ」
「……ユーラシアさんの持つ『アンリミテッド』は一ですよね?」
ジンの問いに頷く。
「うん。『薙ぎ払い』とか『ハヤブサ斬り』みたいな武器属性の乗るスキル持ってると、一が一番便利なんだよ」
レイカがどれ選ぶのか気になるな。
人形系レアがズラッと並んだ時、全部倒したいなら二の選択はない。
ただレイカパーティーは、前衛のジンもハオランも物理攻撃スキルを習得する固有能力持ちではない。
人形系以外の理由で衝波属性スキルが欲しいなら、二もありかもしれない。
でも普通に考えるなら一か三だろ。
前衛のどちらかに持たせるならば一。
レイカ自身が持つならば、攻撃力補正のところを魔法力補正にアレンジして三か?
「一がいい」
「おお、即決だったか」
「簡単だ。衝波属性のスキルが欲しいわけじゃないから、二は必要ない。一ならジンでもハオランでもいいが、三だと私にしかメリットがないからな」
「明快だね」
ジンとハオランの顔がパアっと明るくなる。
迷わないのがレイカのいいところだな。
「『アンリミテッド』は『薙ぎ払い』と相性がいいよ。複数の人形系が出ても一発でバタバタ倒せるから。あれはロマンだよ」
「ジンとハオラン、二人とも『薙ぎ払い』は使えるんだ」
「おおう、そーだったか。じゃ、どっちが装備してもいいわ」
ハハッ、取り合って揉めりゃ面白いな。
パーティーとしての安全を考えれば、白魔法を使えるジンはアタッカーとして張り切らなくてもいいと思うけどね。
「明日朝までに製作しておこう。『ベヘモス香』と『ワイバーンの爪』を持参ということで、二五〇〇ゴールドになるがいいかな?」
「「「お願いします」」」
『ワイバーンの爪』がレア素材じゃないから、エルの時より高いんだろうな。
当然と言えば当然か。
どっちにしろ人形系レアを簡単に倒せるんだから、すぐに元取れるだろ。
「じゃ、あたし帰るね」
「帰るぬ!」
「今日はありがとうな」
「これでゆっくり寝られるよ。一〇時間くらい」
「睡眠時間は変わらないんだな?」
「寝過ぎても調子が悪いんだよね。リズムが崩れるのかしらん?」
「ハハッ、じゃあまたな。ゆっくり寝てくれ」
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
「サイナスさん、こんばんはー」
最早恒例となった寝る前のヴィル通信だ。
ヴィルは喜んでお使いしてくれるので本当にいい子だ。
『うん、こんばんは』
「今日は一日魔境だったよ。随分稼いだな」
『ハハハ、そりゃよかったね』
「魔境に行くと人生の幸せを感じるの」
『普通の人間には共感できないと思うが』
何だふつーの人間って。
あたしだってノーマル人だわ。
「少し共感されやすい言い方にすると、お肉を狩れるようになったことと魔境で稼げることは、冒険者になって本当によかったと思える」
『肉と金か。すごく非常にかなりユーラシアらしい』
「そお?」
メッチャとても大変共感されたぞ?
「カラーズはどう? 何か変わったことあった?」
『青のセレシア族長が、今度の隊商と輸送隊についてレイノスへ行くとのことだ。商品とスタッフ五人を連れてだな』
「え?」
思ったより早いな。
「もう商売始める腹積もりってことだよね?」
『おそらくは』
「ええ? 戦後でいいじゃんねえ。セレシアさんやる気が溢れ過ぎだわ」
『うむ。戦争の危険も話したんだが、やるつもりらしい』
「族長の仕事どうするんだろ? 兼任できないよね?」
『さあ? ずっとレイノスに出ずっぱりということでもないんだろうし』
でもセレシアさんは絶対に商売に大マジだろうしな?
黄の民みたいに族長代理を立てる格好になるか。
「わかった、イシュトバーンさんには伝えとくよ」
『頼むぞ』
「明日そっちに行けばいいんだよね?」
黄の民以外の各村から、輸送隊員を選抜するって話だったのだ。
『午後に来てくれ』
「午後ね。お昼食べたら行くよ」
『毎日御苦労だね』
「御苦労なんだよ。おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『了解だぬ!』
明日は午前中、細々とした用が多いなー。




